外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年7月24日(土)

デュポン・サークル便り(7月21日)

[ デュポン・サークル便り ]


今週は、蒸し暑いバージニア州を脱出して、息子のキャンプがあるコロラド州に来ています。日中は気温が上がりますが、湿度が低いので、少し日陰に入ると快適で、朝晩は羽織るものが必要なぐらいの涼しさになります。日本では五輪に向けた予選が始まる中、五輪選手村でコロナウイルス感染例が出始め、緊急事態宣言も延長されるなど、落ちつかないと思いますが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

そんなアメリカのお茶の間の今週最大のニュースは「ベゾス、月に行く」。7月20日、アマゾン創立者のジェフ・ベゾスが、自分が出資して創立したブルー・オーシャン社が製造した宇宙船「ニュー・シェパード」に乗って、月まで往復飛行(?)したというニュースです。当日は、CNNからフォックス・ニュースに至るまで、ニュースチャンネルは各社揃って、打ち上げから着陸、着陸後のベゾスによる記者会見まで、全部生中継。月面に着陸したわけでもなく、打ち上げから着陸までわずか11分間の飛行だったとはいえ、民間セクターによる初の有人宇宙飛行成功のニュース。この1~2週間、コロナウイルス変異種拡散が原因で、ロサンゼルスを含む一部の都市では、ワクチン接種の有無に拘わらず、再びマスク着用が義務付けられたという暗いニュースに接していた全米のお茶の間にとっては、数少ない明るいニュースとなりました。

とはいえ、「ベゾス、月に行く」で一般の人が盛り上がる中、政治屋は、全く別のニューで盛り上がっています。昨年の米大統領選挙以降、全米各州の議会では有権者の「投票権」が議論の焦点になりました。トランプ前大統領が、今日に至るまで、昨年の大統領選挙での敗北を認めようとせず、「大規模な選挙不正」説を唱え続ける中、特に、共和党が過半数を占める州議会で、住民の投票権に直結する法案が新たに議論になっています。争点には(1)不在者投票をどこまで認めるか、(2)ドライブスルー方式の投票をどこまで受け付けるか、(3)期日前投票はどの程度前倒しで受け付けるのか、(4)投票所で有権者の身元確認はどの程度厳正に行うべきか、などがあります。共和党主導の州議会で議論されている法案は、市民の投票権、特に、車社会のアメリカで交通手段を持たないマイノリティによる投票を困難にするとして、民主党議員が猛反発しているのです。

特に、この「一票を投じる権利」をめぐるバトルの最前線であるテキサス州議会では、先週、なんと、有効投票に必要な定足数をテキサス州議会が満たせないように、同州議会の民主党議員が揃ってチャーター機2機でテキサス州を脱出してワシントンDC入り。カマラ・ハリス副大統領と面会した後は、議員全員がDC近郊で雲隠れするという大胆な行動に出ました。日本に置き換えれば、県議会野党が、与党に一矢報いるために県議会本会議を一斉ボイコットするのと同じこと。実に大きなインパクトです。

しかも、チャーター機を使って移動した議員は「全員がワクチン接種済みだから」という理由で、民間航空会社が今でも義務付けている機内でのマスク着用規則を守らず、機内でマスクなしで写真撮影した映像がメディアに流出。これだけでも問題視されるのに十分ですが、さらに、ワシントンDC到着以降、現時点で計6名がコロナウイルスに陽性反応が出たことが報じられたのです。また、この議員団からコロナウイルス陽性反応が出たという最初の報道が行われた時点で、その前日にハリス上院議員が会議室でこの議員団と1時間以上に亘り面会していたことも判明、更には、面会直後の週末の18日(日)にウォルター・リード軍病院を訪れていたことまで明らかになりました。ホワイトハウス側はこの通院を「以前から予定されていた定期健診」と説明していますが、普通の人は日曜日に定期健診なんて受けません。

このことから、テキサス州民主党議員団は共和党寄りのフォックス・ニュースだけではなく、他のメディアからも「スーパー・スプレッダー」と批判されました。更に、彼らの行動を批判せず、ハリス副大統領の通院の理由も明確に説明しないホワイトハウスも「ダブル・スタンダード」だとして批判の対象になっています。

ほんの数週間前の独立記念日には「コロナからの独立」を祝ったはずのアメリカですが、まだまだバイデン政権がコロナに悩まされる日々は続きそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員