外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年7月13日(火)

デュポン・サークル便り(7月13日)

[ デュポン・サークル便り ]


今週前半のアメリカは、全米各地で熱波が予想されています。例年であれば、この時期でも曇り空が多く、若干涼しいはずのオレゴン州やワシントン州でも連日、体感温度が100℉を越える猛暑が続いています。熱波と雨量不足のダブルパンチで、西海岸の複数の場所で山火事が収まらず、緊急避難を余儀なくされる人も相次いでいます。ですが、そんな中でも、アメリカはすっかり夏休みモード。独立記念日の連休から9月第1週のレーバー・デーの週末が明けるまでは毎週金曜日は半ドンになるところも多いです。

そんなアメリカでの先週から今週頭にかけての大きなニュースは二つ。一つは、2001年9月11日のテロ事件以降、米軍が展開し続けていたアフガニスタンで、8月31日までに米軍の活動を終了させるという発表が先週ホワイトハウスからあったことです。タリバンが息を吹き返していると言われる今の時期に米軍撤退を決断したバイデン政権に対する評価は分かれています。特に共和党保守派からの批判は根強く残っていますが、何しろ、先が見えない状態でずるずるとアフガニスタンに米軍が駐留しつづけて早20年。これまで、イラクやアフガニスタンでの活動を米軍が時期尚早に縮小することに批判的だったCNNのファリード・ザカリアも、今回の決定については「バイデンは正しい。永遠に続いていたアフガニスタンでの戦争を終わらせる時期だ」という表題のコラムを掲載し政権の決定を後押し。ですが、タリバンがアフガニスタン国内で勢いを増していることは事実で、バイデン政権の今回の決定が吉と出るか凶と出るかは、まだまだ予断を許しません。

もう一つのニュースは、週末にかけてテキサス州ダラスで開催された保守派政治行動委員会(CPAC)のイベントで、ドナルド・トランプ前大統領が相変わらず根強い人気を示したこと。特に、このCPACが集会に出席した人を対象に行った世論調査は、次の大統領選挙の行方を占う意味で注目されましたが、トランプ前大統領は、この調査でなんと集会出席者の70%の票をゲットしたのです。

ですが、トランプ前大統領が前面に押し出すメッセージは、「2020年の選挙で勝ったのは、本当は俺だ!」というとことん後ろ向きのメッセージ。バイデン政権発足後、全米でワクチン接種率がハイペースで進み、どんどん「コロナ前」の日常生活を人々が取り戻し、「人の好さそうな白人のおじいちゃん」キャラを前面に押し出すことで安定した支持率を維持するババイデン大統領と、彼を支える民主党を2022年の中間選挙で攻めるには「2年前の選挙はやらせだ!」だけではどう考えても無理があります。

そんな中、最近、共和党内の選挙のプロの間でひそかに注目を集めているのが、ラリー・ホーガン現メリーランド州知事。民主党人気が根強いメリーランド州で2015年に州知事に就任、2018年には圧倒的支持を得て再選、現在2期目を務めています。しかも、メリーランド州の歴史上、共和党州知事として再選されたのは彼が二人目というレアなケース。コロナウイルス対策では、ハイペースでワクチン接種を進め、公立学校の再開を強くプッシュするなど、話題に事欠きませんが、とても人気の高い知事です。知事夫人は韓国系アメリカ人ということで、「ダイバーシティ」が重要になるアメリカ政治におけるポジショニングもバッチリ。しかも、トランプ政権時代は、トランプ前大統領に対し歯に衣着せぬ批判を展開。「無党派層の票が取れる共和党候補」を掲げて、前向きなアジェンダで戦いたいと思っている共和党系の政治屋が注目するのも無理はありません。ホーガン知事自身は、知事としての任期が終わった後の身の振り方については全く明らかにしていませんが。。。

トランプ自身が2024年の大統領選挙への出馬に色気を見せ続ける中、共和党内ではすでに、2022年の中間選挙ではなく、2024年大統領選挙を視野にいれた動きが始まったようです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員