外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年7月13日(火)

外交・安保カレンダー (7月12-18日)

[ 2021年外交・安保カレンダー ]


 7月11日、ブリンケン米国務長官が興味深い声明を発表した。5年前の7月12日は、常設仲裁裁判所が「南シナ海全域に主権を有する」という中国の主張を退けた歴史的な日である。発端は2014年、フィリピンのアキノ前大統領が、国連海洋法条約に基づき、この問題をハーグにある常設仲裁裁判所に提訴したことだった。
 同裁判所は2016年7月12日、中国が南シナ海に独自に設定した境界線「九段線」や歴史的権利に基づく同国の主張には「国際法上の根拠がない」との裁定を下している。それを念頭に、ブリンケン長官は中国が「世界的に重要な航路における航行の自由を脅かしている」と非難した。この問題を風化させてはならないからだろう。
 同長官発言中、最も興味深かったのは「南シナ海におけるフィリピン軍、公船、航空機に対する武力攻撃には、米比相互防衛条約第4条に基づく米国の対比防衛義務が適用される」と言い切った部分だ。だが、米国とフィリピンの同盟関係は実に微妙だ。今のドゥテルテ大統領だったら、口が裂けても、こんな言い方はしないだろう。
 それにしてもトランプ政権とは異なり、バイデン政権ではこの種の「喧嘩腰」発言がかなり目立つ。中国の「ウイグル人弾圧」を「ジェノサイド」と表現したり、最近ではバイデン大統領自身がロシアのサイバー攻撃につきプーチン大統領を半ば恫喝するような発言も行ったりしているのだが、これについては後述する。それはともかく・・・。
 この種の発言が同盟国にとって「心強い」のか、「有難迷惑」なのか、判断は分かれる。ブリンケン長官が1951年の米比相互防衛条約の防衛義務に言及するのは、尖閣列島に対する日米安保条約第5条の適用と同様、当然だが、同じ米国の同盟国でも韓国が、静かに国防力増強の努力を重ねていることは、あまり知られていない。
 皆さんは韓国の文在寅政権が過去数年間、国防費を毎年7-8%増やしており、購買力平価ベースでは既に日本の防衛費を上回っていることをご存じだろうか。2023年には実額でも日本は韓国に逆転されてしまうという。日経新聞のコラムニスト秋田浩之氏が先月書いたコラムで、一般にも広く知られるようになった事実である。
 しかし、このコラムには元ネタがある。実はキヤノングローバル戦略研究所の同僚・伊藤弘太郎氏の研究成果なのだ。韓国の国防費が日本の防衛費を上回るのは何故なのか。誰に対する、何のための国防力増強なのか。こんな疑問に真正面から答える対談番組を、今キヤノングローバル戦略研究所が作っている。
 毎週火曜日午前中、時々の興味深いテーマを厳選し、研究所内外のゲストスピーカーを招致して、突っ込んだ対談を行い、それを編集して、直ちにウェブ上に掲載する。このCIGS外交安保TVを始めて一カ月が過ぎた。関係者の熱意と努力でようやく面白い内容になってきた、と皆で勝手に自負している。一度覗いて頂けたら幸甚である。



〇アジア
新華社通信によると、先週キッシンジャー米大統領補佐官の極秘訪中50周年を記念する式典が北京で開かれ、98歳になるキッシンジャー氏がオンライン出席したそうだ。それにしても、中国がまだキッシンジャー氏などに頼っているとは驚いた。同氏は半世紀前の偉大な外交官だが、米中関係が激変した今、一体何を語るのだろうか。

〇欧州・ロシア
今東欧の小国モルドバが面白い。昨年の大統領選で親露派の前大統領を破った現大統領は自らの親EU派の基盤強化を狙って議会を解散。週末の総選挙でサンドゥ現大統領の与党が47%超の得票率でリードしているそうだ。プーチンは、これも西側の「ハイブリッド戦争」の一環と見ているに違いない。また一つ頭痛の種が増えたか

〇中東
 アフガニスタンからの米軍撤退で、ターリバーンがアフガニスタン政府に対する攻勢を強めている。既に全土の4分の一を制圧したとの報道もある。アフガニスタンは、外国が軍事介入しても地獄、外国軍隊が撤退したら更なる地獄、である。やはり、歴史は韻を踏むのだろう。アフガニスタンには中央政府も外国軍隊も不要なのだろうか。

〇南北アメリカ
バイデン大統領がプーチン電話会談し、ロシアに対し、ロシアを拠点とするランサムウエアによるサイバー攻撃を行う集団の摘発を求め、さもなければ米国は「国民や重要インフラを守るため必要な措置を講じる」と伝えて、「報復措置も辞さない」姿勢を示したという。バイデンは頑張ったが、プーチンは痛くも痒くもないだろう。


〇インド亜大陸
 インド外務省はアフガニスタンのカンダハルにある総領事館の外交官や警護要員約50人を退避させたそうだ。おいおい、カンダハルといえば、筆者も行ったことがあるが、パキスタンが支援するといわれるターリバーンの牙城だろ。まだ、そんな所にインド人外交官がいたのか、と逆に驚いた。さすがはインドだ。今週はこのくらいにしておこう。

6月22-7月16日 UN人権理事会 第47回会合
6月28-7月16日 国連国際商取引法委員会 第54回会合(ウィーン)
6月28-7月23日 自由権規約人権委員会 第132回会合(ジュネーブ)
6-17日 第74回カンヌ国際映画祭(フランス・カンヌ)
12日 EU外相理事会(ブリュッセル)
12日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
12日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
12日 インド5月鉱工業生産指数発表
12-15日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
12-28日 ASEANSOMの起草委員会
13日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会〔ブリュッセル〕
13日 ロシア6月雇用統計発表
13日 米国6月消費者物価指数(CPI)発表
13日 中国第2四半期貿易統計発表、6月貿易統計
13-14日 国際商品貿易に関する第7回ワーキンググループ統計ビデオカンファレンス
14日 カナダ中央銀行政策金利・金融政策報告書発表
14日 ベージュブック(FRB)
14日 FRB・パウエル議長が下院金融サービス委員会で証言
14日 仏・ニース車暴走テロから5年
14-16日 EU司法・内務相理事会 非公式会合(クラーニ)
15日 中国第2四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
15日 WTO貿易交渉委員会(閣僚級会合)
15日 米独首脳会談(ワシントン)
16日 ユーロスタット、6月CPI発表
16日 米国6月小売売上高統計発表
16日 中ロ親善友好協力条約締結から20年
16-31日 UNESCO世界遺産委員会(オンライン)
18日 チリ大統領、上院、下院予備選挙
18日 兵庫知事選

<19-25日>
19日 EU競争力担当相理事会 非公式会合(研究)(クラーニ)
19日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
19日 ヨルダン・アブドッラー2世国王がバイデンと会談(ホワイトハウス)
19-21日 ASEANデジタル高官会議(ADGSOM)およびASEAN合同作業部会会議
20-21日 EU環境相理事会 非公式会合(クラーニ)
20日-8月3日 ベトナム第15期第1回国会
21日 プロトンM(MLM Nauka/ISS ロシアセグメント)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
21-22日 第21回ASEAN貿易円滑化合同協議委員会(ATF-JCC)
21-22日 UN経済社会理事会 management segment(ニューヨーク)
21-22日 EU競争力担当相理事会 非公式会合(域内市場・産業)(クラーニ)
22日 G20環境相会合(イタリア・ナポリ)
22日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
22日 ロシア1~6月鉱工業生産指数発表
22-23日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
23日 G20環境相・エネルギー相合同会合(ナポリ)
23日 G20エネルギー相会合(ナポリ)
23日 UN経済社会理事会 Organizational session(ニューヨーク)
23日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(予算)〔ブリュッセル
23日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
23日 ロシア中央銀行理事会
23日 長征2C(遥感30号-10A, 10B, 10C)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
23日-8月8日 第32回オリンピック競技大会(2020/東京)(本日程の掲載時点)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問