外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年7月6日(火)

デュポン・サークル便り(7月6日)

[ デュポン・サークル便り ]


アメリカは独立記念日の7月4日が今年は日曜日に当たったため、5日(月)はほとんどのところで振り替え休日。さらに、7月2日(金)は連邦政府を含め大多数の企業が午後1時で終業となり、有給休暇を2日(金)の午後だけ取れば4連休となりました。コロナウイルスがまだまだ猛威を振るっていたため、ひっそりとお祝いされた去年の独立記念日とは対象的に、今年は各地で、各種行事が再開されました。去年は中止になった独立記念日の風物詩であるナショナル・モールの花火大会も、今年は再開。連休前は、空路も道路も、交通量がコロナ前のほぼ90%まで回復したというニュースが話題となりました。

お天気は、先週前半の蒸し暑さとは打って変わって、夜は長袖が必要なほどの涼しさになるくらい過ごしやすくなったこともあり、全米が「コロナ前にほぼ戻った」どころか、コロナ前以上に興奮した週末となりました。まるで去年の3月から自己隔離にソーシャル・ディスタンシング、旅行はおろか外食もできない日々が1年以上続いたストレスを発散させるかのように。私の住んでいる地区でも、毎年、独立記念日に合わせて行われるバーベキュー・パーティに、今年は史上最多の75人が参加。花火もバンバン打ち上がり、子供たちが寝た後も、大人は朝4時ぐらいまで宴会を続けていました。

ホワイトハウスでも、バイデン大統領夫妻が、政権発足後最大規模のパーティーを独立記念日の7月4日に主催。軍関係者や、コロナウイルス対策最前線の医療関係者が招かれました。このパーティーで演説したバイデン大統領は、「アメリカは、致死率の高いウイルスからの『独立』を宣言できるすぐそこにまで来ている」と宣言。とはいえ、特に、ワクチン接種率が低い州で、変異種のケースがじわじわと増加していることを踏まえ、まだワクチン接種率が低いと言われる20代~30代の若年層や有色人種(特にアフリカ系アメリカ人)に対して、「ワクチンを接種することが、最も愛国的な行為です」とワクチンを接種するよう呼びかけました。

このように全米が独立記念日のお祝いムード一色に包まれる中、6月30日に、ドナルド・ラムズフェルド元国防長官死去のニュースが流れました。同国防長官は、イリノイ州シカゴ出身。プリンストン大学を卒業後、海軍のパイロットとして4年間勤務したのち予備役に編入し、オハイオ州選出下院議員のかばん持ちとして政界でのキャリアをスタート。海軍予備役には1989年まで勤務、大佐の階級で退官しています。1962年に下院に初当選してから4期下院議員として勤め、それ以降は、ニクソン、フォード、ブッシュ(子)各政権の中枢ポストを務めた生粋の保守系政治家です。フォード政権で史上最年少の国防長官として指名されたのち、ブッシュ(子)政権で史上最高齢の国防長官として指名されました。今でも、この記録はどれも破られていません。

ブッシュ(子)政権の国防長官時代には、2000年9月11日にペンタゴンがテロリストにハイジャックされた民間航空機に突っ込まれて炎上した時、自ら血まみれなりながら、スーツ姿で負傷者を担ぎ出している様子がメディアで報じられ、一躍男を上げました。が、その後、イラク攻撃をめぐりNATO諸国と対立した際に、攻撃に懐疑的だったドイツやフランスを「古いヨーロッパ」と呼んだことが話題になったり、イラク人捕虜の取り扱いや、尋問の際に用いられた手法が厳しく批判されるなど、話題には事欠きませんでした。

ラムズフェルド元国防長官は、2006年に国防長官の職を去った後は、回顧録を出版したり、収益の一部を傷痍軍人のサポートに充てるスマホのアプリの開発に携わるなどしてはいたものの、最近はほとんど公の場に姿を見せることなく、先週、88歳で静かにこの世を去りました。彼が国防長官時代に、軍事問題の補佐官として彼をサポートしていた退役陸軍大佐である私の友人は、当時を振り返って「アメリカという国をとても愛していた。スタッフにはいつも気を遣ってくれた。支え甲斐のある上司だった」と言っていました。連邦議会が相変わらずの機能不全ぶりを連日見せてくれる中、共和党のあだ名「古き佳き政党(Grand Old Party, GOP)を体現する政治家がまた一人、この世から去ったことに、一抹の寂しさを覚えます。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員