外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年6月22日(火)

デュポン・サークル便り(6月21日)

[ デュポン・サークル便り ]


日本の皆さん、Juneteenthという記念日はご存じでしょうか?すぐにピンときた方は、アメリカの奴隷解放の歴史にかなり精通されていらっしゃいます。1866年6月19日に初めてお祝いされたこの日は、南部諸州で奴隷が解放されたことを祝う記念日です。テキサス州で始まったこの記念日は、その後年々、全米に拡大。なんと、今年ついに、連邦政府の祭日となりました。しかも、この祝日が成立したのは、前々日6月17日(木)の午後。さらに今年は6月19日が土曜日に当たってしまうことから、連邦政府は急遽、6月18日(金)を今年の奴隷解放記念日の祝日に制定しました。

祭日が増えるのはありがたいのですが、なんといっても決まったのが前日の午3時半過ぎ。おかげで全米各地の団体・企業は大混乱。ワシントンのシンクタンクの祭日は連邦政府と連動するところが殆どのため、金曜日の終業時刻間際に、「急にごめんなさい、明日はお休みです」メールがそれぞれのシンクタンクで飛び交ったものと思われます。せめて水曜日の夜にバイデン大統領が署名してくれていれば、週末の予定を立て直すこともできたのに・・・

それはさておき、先週の最大のニュースは、バイデン大統領の初の外遊でした。6月14日付の本号でもお伝えしたとおり、外遊中のバイデン大統領は、イギリスでG7首脳会合、ブリュッセルでNATO首脳会合・米EU首脳会合にそれぞれ出席したのに加えて複数の個別2国間会談をこなし、最後にジュネーブでウラジミール・プーチン露大統領と初の米ロ首脳会談に臨みました。

大統領就任後初の外遊ということもあり、出発前に自分の名前でワシントン・ポスト紙に寄稿してしまったほど、気合を入れて臨んだ今回の出張。もちろん、G7首脳会談、NATO首脳会談、米EU首脳会談がそれぞれ行われたあとの共同宣言の中で「台湾海峡の平和と安定」に関する言及があったり、中国に対する批判的文言が含まれたり、と内容の面でも話題を集めました。ですが、それ以上に印象深かったのは、バイデン大統領による「米国が国際社会の舞台に全力で戻ってきた」ことを印象付ける、といういわば「PR外交」の大勝利でした。

といっても、国内ではインフラ投資法案をめぐる交渉の行き詰まり、という大きな頭痛の種を抱えての外遊でしたが、上院議員時代のほとんどの時期を上院外交委員会で過ごしたバイデン大統領にとって、外交舞台はむしろ自分の強みです。外遊中、特に普段と違う様子だったわけではありません。むしろ印象的だったのは、バイデン大統領を迎えた欧州諸国の首脳の様子でした。苦虫をかみつぶしたような顔でトランプ前大統領を迎えたのはメルケル独首相。最初の訪米時になんとかトランプ前大統領との「握手戦争」に勝ち、その後、フランスを訪問したトランプ前大統領に凱旋門前で第1次世界大戦勝利記念パレードを見せつけ、「ワシントンでも軍事パレードをやるんだ!」とトランプ前大統領に言わせてなんとかやり過ごしたマクロン仏大統領。トランプ政権の4年間をなんとかやり過ごした欧州各国首脳ですが、そんな彼らがバイデン大統領を欧州に迎え「やった!もうトランプと話さなくていいんだ!」とでも言わんばかりの、にじみ出る喜びが、CNNをはじめとする米主要メディアのあらゆる映像から伝わってきたのが一番印象に残りました。

とはいえ、今回の欧州訪問の「本丸」と言われていたプーチン大統領との米ロ首脳会談は、そもそも期待値が低かったとはいえ、どう見ても、お互いがお互いに対して思っていることを言い合い、それぞれの国内的に「俺は言ってやったぜ」というアリバイを作っただけ、と言われても仕方ない結果となりました。それでも、外遊出発前に、記者団に外遊の目的について問われ「同盟関係を修復し、中国やロシアに『米国は戻ってきた』ということ、同盟はゆるぎないものだということをはっきりと見せることだ」と言い切ったバイデン大統領。NATOEU諸国首脳の反応を見ると、少なくとも、その目的は達成したと言えるようです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員