外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年6月14日(月)

デュポン・サークル便り(6月14日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントン近郊は一気に夏本番となり、今週は最高気温90℉を越える蒸し暑い日が続きました。かと思ったら、11日(金)は大雨。気温も前日から20℉近くストンと落ちてしまいました。ですが気温は下がっても湿気はあり、ジメジメしたお天気です。日本でも東京を含め、連日30℃越えの日が続いているそうですが、皆様、お元気でお過ごしでしょうか。

先週から今週にかけての大きなニュースは、バイデン大統領の初の外遊です。バイデン大統領は11日(金)から、G7首脳会合(英コーンウォール)、NATO首脳会合・米EU首脳会合(ブリュッセル)など複数の首脳レベル会合に出席したあと、16日(水)にジュネーブでウラジミール・プーチン露大統領と初の米ロ首脳会談を行うという、メインイベントだけでも忙しい日程です。しかもコーンウォールとブリュッセル滞在中には欧州各国の首脳と追加で2国間の首脳会談が入っています。

実は、ロシアとの関係が緊張しているウクライナのゼレンスキー大統領もVoxというオンラインメディアのインタビューで「いつでもどこでもいい。どんな短時間でも構わない。ぜひ、米ロ首脳会談の前にお会いしたい」という熱いラブコールをバイデン大統領に送っていました。ですが、バイデン大統領のヨーロッパ滞在日程は「どこにそんな時間が・・」と思わざるを得ないほどタイトなもの。バイデン大統領が「米ロ首脳会談前にはお会いできないけど、ぜひ7月にホワイトハウスに来てください」と返したのも無理はありません。

また、大統領就任後初の外遊ということもあり、今回の外遊はかなり気合が入っています。出発前には、バイデン大統領自らの名前で「私の欧州訪問の目的は、米国が率先して世界の民主主義国に働きかけること」と題する論説を6月5日付のワシントン・ポスト紙に寄稿。この中で各訪問地での目標を論じ、最後に「今の時代を定義づける問いは『民主主義は協力して、この急速に変化する世界の中で国民に成果を示すことができるか?』『前世紀の大部分を形作った民主義国家間の同盟や機構は、現在我々が直面する脅威や敵に対応するキャパシティがあるか?』である。私はこれらの問いに対する答えは『イエス』だと信じる。そして今週の欧州訪問は、そのことを証明する機会となる」と、熱いフレーズで締めくくっていることからも、その気合を感じます。

ですが、外遊出発前のバイデン政権にとっての最重要課題は内政問題。実は、バイデン大統領肝入りのインフラ投資法案をめぐり、共和党との間で合意に達することができるかが大いに注目されていました。しかし、バイデン大統領自身が8日()に共和党上院議員との直接交渉に乗り出したにも拘わらず、交渉は決裂。現在の焦点は、別途超党派で法案作成を試みている議員グループに歩み寄れるかどうかに移っています。

バイデン大統領は、混迷する中東情勢にはブリンケン国務長官を、国境を越えた不法移民問題の震源地である中南米にはハリス副大統領を派遣するなど、閣僚級を次々と外遊に送り出し国際社会における米国の存在感回復のために頑張っています。しかし、内政問題は、上院で議席が拮抗するだけでなく、各種法案をめぐり共和党が一枚岩であるのに対し、民主党内では造反が起きてもおかしくないといった厳しい政治の現実に直面し、思うように成果が出ない状況にあります。そもそも「国内インフラへの投資」問題は、少なくとも総論では民主、共和両党が合意しており、比較的妥協が成立しやすいと思われていた案件ですが、それすら超党派合意に達することができないとなると、これから、両党間で立場に隔たりがある法案の交渉が難航するのは必至で、来年の中間選挙でしっぺ返しを食らうリスクがどんどん高くなります。

しかも、ヤル気満々で出発した欧州歴訪も、ジュネーブで開催される米ロ首脳会談については批判が少なくありません。「時期が早すぎる」「プーチンと直接対話すれば現状を打開できるというアプローチをとったのはバイデンが初めてではない。前任者の轍を踏むだけではないのか」等々、懐疑的な見方が殆どのようです。バイデン大統領はこのような批判を乗り越えて、何かしらの成果を上げて帰国することができるでしょうか。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員