キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年6月7日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
メモリアル・デーの三連休が明け、アメリカは、いよいよ夏本番を迎えました。今週末以降は、気温も一気に華氏90度近くまで上昇し、湿気も増す模様。ワシントンDCは地形上、霧がたまりやすい地域であることから、メトロの駅に「霧深い低地(Foggy Bottom)」という駅名もあるほどです。とは言え、朝から晩まで蒸し暑い日が何日も続くこの地の夏、特に9月半ば近くまで続く残暑は、ワシントンに来て25年以上経つ今でも慣れません。東京も夏日が続いているようですが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
今週も、ワシントンの主な話題はコロナと内政案件です。来週、バイデン大統領はG7首脳会合出席のため、大統領就任後、初の外遊に臨みますが、こちらでは大統領の外遊よりも、「ワクチン外交」を最前線で果敢に展開するアントニー・ブリンケン国務長官の外遊の方が注目を集めています。
そのコロナワクチンですが、アメリカでは、食品医薬品局(FDA)が数週間前にファイザー社のワクチンを12~15歳の子供にも接種させてよいと認可し、米国内のコロナワクチン接種率の向上にむけて大きな一方を踏み出しました。さらに今週、全米疾病管理センター(CDC)が、11月の感謝祭までには、12歳以下の子供にもコロナワクチンを接種することの安全性が確認できる可能性が高い、という見解を出したことが注目を集めました。
さらに話題になったのは、バイデン大統領が6月を「コロナワクチン接種推進月間」にすると公言、コロナワクチンの安全性に懐疑的な人々の間でワクチン接種を推進するため企業とタイアップする試みを発表したことです。例えば、床屋や美容院などに、コロナワクチン接種会場として店の一部を開放するように呼び掛ける。さらに、バドワイザーで有名なアンハイザー・ブッシュ社も「花より団子」よろしく、バイデン政権が目指す「7月4日までの成人の7割が少なくとも一本目のワクチンを打っている状態にする」目標が達成された暁には、全米の成人に無料でビールが飲めるクーポンを提供すると発表。お酒を飲まないバイデン大統領も、記者会見の檀上で「ワクチン打ってビールを飲もう(Get a shot and have a beer)」と宣伝。日本でも人気のドーナツ・メーカーのクリスピー・クリーム社は、ワクチン接種が終了したことを証明するCDCのワクチン接種票を提示すると、ドーナツ一個が無料になるというサービスを始めています。ビール会社とまでタイアップしてしまうところに、何としてもワクチン接種率を上げるんだというバイデン政権の気合を感じます。
また、今週から来週に向けては、「ポスト・コロナ」経済政策の柱のひとつである全米インフラ投資予算案をめぐる議会との綱引きが大詰めを迎えます。同法案の後に「保育園や幼稚園のスタッフを対象にした一定レベルの収入の確保」など中産階級支援を狙った法案をめぐる交渉を控えているバイデン政権としては、なんとか、共和党からも協力を得られやすいインフラ投資予算案を先に成立させて実績を作りたいところ。ですが、共和党の立場に寄りすぎると、バーニー・サンダース上院議員をはじめとする民主党左派から反発が出るのは必至で、これをどううまく抑えることができるのか。さて、バイデン政権は民主党内からの造反を防ぎつつ、共和党からも支持を得られる法案を作ることができるでしょうか。上院議員歴ン十年のベテラン、バイデン大統領の力量が試される局面が訪れることは確実です。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員