キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年5月31日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
この週末、アメリカは、戦死者を追悼するメモリアル・デーのため3連休でした。実際のメモリアル・デーは5月最終週の月曜日に定められており、今年のメモリアル・デーは5月31日です。毎年、ベトナム戦争中に戦争捕虜になったことが確認されて以来消息不明になったままの米兵を追悼する、ハーレー・デービッドソンをはじめとする大型バイク愛好家のグループがワシントン市内をパレードする「ローリング・サンダー」は、毎年この週末の代表的な行事です(今年からこの「ローリング・サンダー」は「ローリング・トゥー・リメンバー」に名称を改めました)。
また、私が住むバージニア州を含むワシントンDC地域は、今年は「ブロードX(Broad X)」という17年に一度しかふ化しないセミがふ化する年に当たり、先週ぐらいから、セミが大量発生。ただ、気温の上下が激しいため、気温が暖かくなったときにふ化を始めたセミが、その後の急速な冷え込みで完全にふ化する前に死んでいる可哀そうなケースも多発しています。毎朝のジョギングで、どうやってセミの死骸や抜け殻を踏まずに走るかが、最近、頭の痛い問題です。
去年のこの時期のアメリカは、コロナウイルス感染者数がうなぎ上りになり、全米がロック・ダウンの真っ只中にありました。当然、「ローリング・サンダー」をはじめ、大勢の人が集まる行事は全て中止。アメリカではメモリアル・デー週末が夏の始まりを告げるため、各地でプール開きが行われますが、去年はそれも全て取りやめとなりました。でも、今年のメモリアル・デーは去年とは対象的です。全米各地で、すでに12歳以上の若者・成人は、希望すればだれでもワクチンを接種できるようになっていることもあり、各州では、マスク着用義務付けなどの規則が次々と緩和されています。私の住んでいる地域のコミュニティ・プールも、昨年は、プール利用を希望する世帯は2時間の枠で事前予約が必須でした。同じ世帯以外の人とは2メートル以上離れて座らなければならず、入り口で検温などの規制もありました。ところが、今年は、ワクチン接種完了者の数がどんどん増えていることを受け、そのような規制は全てなくなりました。今年は、事前予約など手間が面倒すぎて、全く子供をプールに連れていくことができず、かわいそうな思いをさせましたが、今年はどうやら、いつもの夏が戻ってきそうな気配です。
そんななか、先週から今週にかけて、アメリカ内政では重要な出来事がありました。一つは、黒人男性ジョージ・フロイドさんが警察官の過剰な対応により命を落とした事件からちょうど一周年を迎えたことです。全米各地で人種問題が再燃、「Black Lives Matter」運動が全米に広がるきっかけとなったこの事件は、実は、トランプ前大統領の再選に暗雲が立ち込め始めるきっかけとなった事件でもあります。事件発生から1年が経過した5月25日には、全米各地で追悼集会が行われただけではありません。普段、このような政治問題はまず取り上げないスポーツ専用チャンネルESPNなどでも、事件がプロスポーツ界に与えた影響という角度からこの問題を取り上げるなど、人種問題の根深さを改めて認識させられました。
もう一つの大きなニュースは、米議会の動きです。今年1月6日、大統領選挙の結果を確定させるために連邦議会上下両院合同本会議が開催されている間に、トランプ大統領が根拠なく吹聴し続けた「大型選挙不正」を信じるグループが連邦議会議事堂に押しかけ、「米英戦争以来の議事堂への攻撃」として世界中の話題になったのは記憶に新しいところ。その後、議会では1月6日に何が起きたのか、暴徒が議会を襲撃している間にトランプ大統領は何をしていたのか、議会の警備面などで今後に向けたどのような教訓があるのか、などを調査する超党派調査委員会を設置するかどうかを巡って、民主党と共和党の間でやり取りが続いていました。この超党派調査委員会は、2001年9月11日のテロ事件発生後に設置された「9・11コミッション」と同じような独立委員会を想定していたと言われています。ですが、先週金曜日、民主党と共和党の議席が拮抗する上院で、共和党議員の大半がこのような委員会を設置することに反対する票を投じたことで、超党派調査委員会を設置する計画がとん挫したのです。この調査委員会が設置されることによって、来年の中間選挙に向け共和党に不利な事実が明るみにでることを恐れた共和党議員が大挙して反対に回ったと言われています。一方、民主党にはまだ民主党が過半数を占める下院の特別情報委員会の権限で同じような調査委員会を立ち上げ、共同議長を民主党、共和党それぞれから一人ずつ迎えて調査を行うという次善の策が残されています。中間選挙を睨みながらの両党の駆け引きが注目されます。
さらに、週末には、フロリダ州で25名の死傷者を出す銃乱射事件が発生。9歳の女の子が犠牲者に含まれるこの痛ましい事件を契機に、再び、銃規制問題の議論が再燃することは確実です。この問題を巡る今後の動きも要注目となりそうです。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員