外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年5月21日(金)

デュポン・サークル便り(5月21日)

[ デュポン・サークル便り ]


今週のワシントンは、前半こそ例年のこの時期よりも少し涼しめな天気が続きましたが、水曜日以降は一気に真夏に突入。来週はまた涼しくなるようですが、どうなることやら。私自身は、実はこの数日間、コロナ後初の出張で、会議のためにハワイに来ております。まだまだ飛行機内でのマスク着用の義務付けは続いていますし、観光地ハワイですら、レストランやお店の営業時間は引き続き短縮されたままのところも多数。「脱コロナ」というにはほど遠いですが、それでも、まさか再び飛行機にのって出張に来ることができる日がやってくるというのは夢のようです。日本はそろそろ梅雨の気配でしょうか。

今週のアメリカの最大のニュースは2つ。どちらもコロナウイルス関連です。まず第1は、全米疫病統制センター(CDC)が、12歳~15歳の間の学童もファイザー製コロナウイルスワクチンの接種をうけることができる旨発表したことです。この決定を受けて、早いところでは今週から全米各州で、12歳~15歳の学童に対する予防接種が開始されました。

私の息子はまだ11歳なので、12歳の誕生日が数か月後に来るまでは、予防接種は受けられませんが、早くも息子のかかりつけの小児科クリニックから、12歳~15歳の児童に対するコロナウイルスワクチン接種を実施するというお知らせがEメールで。一本目と二本目の接種日は事前指定され、決められた時間枠の間にクリニックがある建物の外に臨時設置される接種会場に行くと、ワクチン接種が受けられる仕組みです。しかも、健康保険の有無に拘わらず、無料で接種が受けられます。

さらに、今週は、CDCが、ワクチン接種終了後2週間が経過した人は、普段の生活でマスクを着用する必要はないというガイドラインを発表、これも大きな話題となりました。ただ、コロナウイルスの被害者が倍々ゲームのようなペースで増えていた昨年夏ですら、マスク着用をかたくなに拒む人が全人口の半分はゆうにいたお国柄。しかも、CDCの新しいガイドラインは、「ワクチン接種が終わった人でも、大規模コンサートなど、大勢の人が集まる場所では引き続きマスク着用を“推奨”する」などの但し書きが付く、実にわかりにくいもの。発表直後から、「マスクを着用していない人が、単にマスクをしたくないからしていない人なのか、それともワクチン接種を完了した人なのか、レストランや娯楽施設などで確認するすべがない」「不明確過ぎて、混乱を招くだけ」など批判が殺到。しかも、この新しいガイドラインが出ても、私が現在訪問中のハワイ州は引き続き屋内外でのマスク着用を義務付けているのに対し、テキサス州のように、逆ばねで「学校で学童に対してマスク着用を義務付けてはいけない」という知事命令が出てしまう州もあり、各州の対応はバラバラ。今後の展開が注目されます。

外交政策面では、今週中東でイスラエルとパレスチナ側の武力衝突が再び激化。バイデン政権はイスラエル、パレスチナ双方に閣僚クラスが自ら、緊張緩和と武力攻撃の停止を働きかけ、火消しに追われています。思えば、いきなり一国主義に急旋回したトランプ政権を除き、2001年の9.11テロ攻撃以降、ブッシュ政権もオバマ政権も、政権発足当初はアジア太平洋地域を戦略的に最も重要な地域と認定、この地域における活動に傾注する意思を明らかにしていましたが、結局は中東での火消しに時間を割かざるを得なくなった歴史があります。イラクやアフガニスタン情勢に精力を割かざるを得なくなったブッシュ、オバマ両政権とは状況が違うとは言え、やはり中東はアメリカの歴代政権を「そっとしておいてくれない」ことがこの1,2週間で改めて明らかになりました。こちらも、今後の展開が注目されます。

一方、先週は石油精製・流通会社のコロニアル社が、同社に対するサイバー攻撃により一時操業停止を余儀なくされました。数日間ながら、1970年代のオイル・ショックなみのパニックを引き起こしたこの騒動も、先週末に同社が完全に操業を再開したことを宣言してからはあという間に鎮静化。これを機会に特にガソリンの値段が急騰するわけでもなく、地味に普段の生活に戻りつつあります。

コロニアル社騒動といい、コロナワクチンの流通と接種のスピード感といい、アメリカという国の基礎体力の強さを目の当たりにするエピソードが続くこの数週間です。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員