外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年5月18日(火)

外交・安保カレンダー(5月17-23日)

[ 2021年外交・安保カレンダー ]


冒頭から私事で恐縮だが、今週筆者が最も安堵したのは、17日昼頃、自衛隊が運営する東京大規模接種センターのオンライン予約に成功したことだ。たかがワクチン、されどワクチン、高齢者にとって早く打てるに越したことはない。申込開始当初は待たされたが、結果的には30分ぐらいで予約が取れた。正直、拍子抜けしたほどだ。

予約には杉並区が発行した「新型コロナワクチン接種クーポン券」が必要だが、予想以上にスムーズだった。やっぱり緊急時には自衛隊が頼りになる。それにしても「接種クーポン券」とは理解に苦しむ。クーポンとは確かフランス語で「利札」のこと、今では切り離しできる金券、割引券などを指すが、それって、ちょっと違うだろうが・・・。

それはさておき、海外ニュースで最も驚いたのは先週末韓国中央日報が報じた「洪準杓議員、『李在明知事が大統領になれば文大統領は1年以内に監獄へ』と発言」という記事だ。この話はある程度の背景情報、特に、名前が出てくる洪準杓議員と李在明知事を知らないと理解し辛いかもしれない。という訳で、少しばかり調べてみた。

まず、洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員だが、彼は元検察官の保守政治家で、ハンナラ党の代表などを務めた後、2017年5月の大統領選挙に自由韓国党の候補として出馬したものの、「共に民主党」の対立候補である文在寅氏に大敗している。

一方、李在明(イ・ジェミョン)知事は韓国の弁護士、市民活動家の左派政治家だが、文在寅大統領とは犬猿の仲。内外メディアは李知事を「韓国のトランプ」と呼び、そのポピュリスト的・強権的姿勢を韓国の保守派は「韓国のチャベス」「韓国版ドゥテルテ」などと呼ぶそうだ。要するに、文在寅氏より更に強硬左派の御仁。どっちもどっちだ。

その李在明氏について洪準杓氏が、「文大統領にとって李知事は最も危険な候補」であり、「文大統領は李知事以外に信頼できる人をどうつくるかを考えているはず」で、「李知事が大統領になれば文大統領は1年以内に監獄に行く可能性がある」とまで言っている。文在寅大統領を含め、この3人は一筋縄ではいかない政治家のようだ。

さて、一筋縄ではいかないというなら、イスラエルのネタニヤフ首相も同類だ。報道によれば、先週末バイデン大統領はネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長とそれぞれ電話会談を行ったという。だが、この程度の米国からの働き掛けに素直に応じるネタニヤフ首相ではない。

バイデン政権は、「イスラエルとパレスチナ武装勢力の衝突が激化する中、米国が緊張緩和に向け中東諸国と協議中であることを説明し、双方に自制を促した」そうだが、ちょっと甘いなぁ。エルサレムやガザで起きている事件は、単なるイスラエル・ハマス紛争ではなく、ネタニヤフ首相生き残りのための国内政治の一環だからだ。

過去2年間でイスラエルでは4回総選挙が行われたが、ネタニヤフ政権は安定するどころか、同首相失脚の瀬戸際にある。当然、ネタニヤフ首相はいつもの切り札を切る。「対パレスチナ強硬策」により議会内「超保守派」勢力の支持を取り付ける手品、この見え透いたマジックが再び始まった。そう考える方がより現実に近いだろう。

可哀想なのは、イランに依存するハマスと、当事者能力を欠くアッバースPLOしか選択肢を持たない、パレスチナ人たち。彼らには有能で責任感ある指導者がいないのだ。他のアラブ諸国も、見て見ぬふり。過去20年間でパレスチナ問題は「アラブの大義」ではなくなりつつあるのか。1970年代のPLOを知る者にとっては隔世の感がある。

〇アジア

日米韓3カ国が6月中旬のG7サミットで首脳会談を開く方向で調整に入った、と報じられた。米国主導の動きだろうが、3カ国の首脳会談は2017年以来。「馬を水辺につれていけても水を飲ませることはできない」という諺があるが、今回馬になるのは韓国か、それとも日本か。いずれにせよ、デリケートな扱いが不可欠である。

〇欧州・ロシア

マイクロ波による攻撃が原因ともいわれるハバナ症候群が、キューバ・中国だけでなく、ヨーロッパ・ロシア・アジアなどの世界各地に赴任する米政府職員の間でも広がり、被害者は全体で130人以上だという。ロシア諜報機関GRUの犯行である可能性が高いとも報じられたが、本当にそうなのか。また、日本は大丈夫なのか、気になる。

〇中東

エルサレムやガザではパレスチナ人とイスラエル治安部隊の大規模な衝突が続いているが、ここで報道が「止まっている」のが「イラン核合意」に関する米イラン交渉である。この種の交渉は「騒がしいほど実態は思ったように進まず、静かであるほど実質的な議論が起きている」可能性もあるので、要注意。朗報を待ちたい。

〇南北アメリカ

「次期駐日大使に指名」と報じられたエマニュエル前シカゴ市長をめぐり、与党・民主党の急進左派勢力が「大使に不適格」と反対姿勢を強めているらしい。民主党内の急進左派の動きは前から気になっていたが、同前市長はオバマ政権の首席補佐官でもあった政治のプロ中のプロ。党内では評判が悪いのだろう。どうなることやら。

〇インド亜大陸

インドに対する米中の「ワクチン外交」が佳境に入りつつある。外交も良いが、先ずは1日30万人というインドの悲劇的な感染者数を何とかしないと・・・。今週はこのくらいにしておこう。

4月26-6月4日 国際法委員会 第72回会合 first part(ジュネーブ)
5月10-6月25日 国連軍縮会議 second part(ジュネーブ)
5月12-31日 日本・4都府県(東京、大阪、兵庫、京都)への緊急事態宣言の延長期間が開始、愛知、福岡両県も宣言に追加。
12-31日 日本・埼玉、千葉、神奈川、愛媛、沖縄の5県を対象とするまん延防止等重点措置の延長期間開始
17日 EU一般問題理事会 非公式会合(ポルトガル)
17日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
17日 中国4月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
17日 イギリスが海外旅行解禁
17-18日 EU教育・若年・文化担当相理事会(ブリュッセル)
17-20日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17-28日 国際麻薬統制委員会 第131回会合(ウィーン)
17日-6月4日 フィリピン第18期国会 第2常会第4部
18日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
18日 EU一般問題理事会 非公式会合(結束)(ポルトガル)
18日 フランス フラン圏開発融資首脳会議
18日 長征4B(海洋二号D )打ち上げ(山西省 太原衛星発射センター)
18日-6月4日 APEC第2回高級実務者会合
19日 EU4月CPI発表
19日 ロシア1-4月鉱工業生産指数発表
19-20日 北極評議会閣僚級会合(アイスランド・レイキャビク)
20日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
20日 UNEP(国連環境計画)常駐代表委員会 第154回会合(ナイロビ)
20日 米露外相会談(アイスランド・レイキャビク)
20日 米FOMC議事要旨(FRB)
20日 長征7(天舟Tianzhou-2 )打ち上げ(海南省 文昌衛星発射センター)
21日 ユーラシア経済連合(EEU)サミット(ビデオ会議)
21日 メキシコ3月小売・卸売販売指数発表
21日 韓国文大統領が米国を訪問(ワシントン)
21-22日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会 非公式会合(ポルトガル)
23日 ベトナム第15期(2021-2026年)国会議員・全国選挙
23日 キプロス代議員選
23日 さいたま市長選

<24-30日>
24日 エクアドル新大統領就任
24-27日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
24-28日 ガーナ(アクラ)アフリカ開発銀行年次総会
24-6月1日 WHO世界保健 総会 第74回会合(ジュネーブ)
25日 EU外相理事会(開発)(ブリュッセル)
25日 メキシコ4月貿易統計発表
25日 ロシア4月雇用統計発表
25-26日 ASEAN軍事医学会議バーチャルシンポジウム
25-27日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
26日 シリア大統領選挙
26日 ケイマン諸島・立法議会選
26日 メキシコ第1四半期GDP発表
27日 EU外相理事会 非公式会合(ポルトガル〕
27日 EU競争力担当相理事会(域内市場・産業)〔ブリュッセル〕
27日 ロシア1-3月貿易統計発表
27日 米国第1四半期GDP発表(改定値)
27日 メキシコ4月雇用統計発表
27日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
27日 長征3B(風雲4B)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
28日 EU外相理事会 非公式会合(防衛)(ポルトガル〕
28日 EU競争力担当相理事会(研究・宇宙)〔ブリュッセル〕
28日 米・4月個人消費支出(PCE)(商務省)
28日 CIS首相会議(ベラルーシ・ミンスク)
28日 ソユーズ-2.1b(ワンウェブ衛星#7 36機)打ち上げ(ボストチヌイ基地)
30日 キプロス共和国議会選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問