外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年5月14日(金)

デュポン・サークル便り(5月14日)

[ デュポン・サークル便り ]


今週のワシントンは、例年のこの時期よりも少し涼しめで、朝晩は羽織るものが必要です。が、ほぼ毎日が晴れで、湿気も少なく、日中はとても気持ち良い日が続いています。私はコロナワクチンの2度目の接種を無事12日に終えましたが、副作用でよくあると言われる、風邪のような症状が接種当日の夜から出て、今日も発熱はないものの、全身がだるく動くのもおっくうです。日本では緊急事態宣言延長が5月末まで延長されましたが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

今週のワシントンは大きな話題が3つありました。一つ目は共和党内の内紛です。チェイニー元副大統領の娘さんのリズ・チェイニー下院議員が、トランプ前大統領に批判的な言動を続けていることを問題視され、5月12日に下院共和党ナンバー3のポストである両院協議会対策長のポジションから降ろされたのです。後任にはニューヨーク州選出でトランプ前大統領を盲目的に擁護してきたエリース・ステファニク下院議員が選出されることがほぼ確実視されています。

ただ、さすが元副大統領の娘さん、下院共和党指導部のポストからひきずり降ろされても、チェイニー下院議員は全くひるむ様子を見せません。下院共和党両院協議会対策委員長ポスト降板が決まった直後、記者会見で「共和党は、(トランプ)前大統領の嘘に引きずられることなく、保守的政策アジェンダを国民に示すことができる政党であり続けなければいけません。私はこれから、トランプ前大統領が二度と大統領職に近づけないようにするために、自分でできる限りのことをします」と、トランプ前大統領に堂々と宣戦布告しました。また、下院共和党議会指導部によるチェイニー議員の追い落としのような、明らかにトランプ前大統領におもねる動きを良しとしない100名以上の共和党関係者は12日、共和党に現在の方針を変えることを要求、要求が受け入れられない場合には、共和党に対抗するための第3政党を結党することも辞さない、とする公開書簡を出しました。この公開書簡には、ブッシュ(子)政権で国土安全保障長官を務めたトム・リッジ元ペンシルベニア州知事、同じくブッシュ(子)政権で環境保護庁長官を務めたクリスティーン・トッド・ホイットマン元ニュージャージー州知事などが名を連ねています。来年の中間選挙に向けて、今回、露呈された共和党内の内紛がどのような展開を見せるかが注目されます。

二つ目のニュースは、アメリカ東海岸~東南部諸州の石油供給の約半分を担う大手石油精製会社のコロニアル社のネットワークがロシアのハッカー集団によるサイバー攻撃を受けた事件です。この結果、同社による石油精製作業が先週末からストップしてしまい、今週は、バージニア、ノースカロライナ、テキサスなどの各州でガソリンスタンドが軒並みシャットダウンする大騒ぎとなりました。バージニア州に住む私にとっても、これは他人事ではなく、昨日は、ガソリンを満タンにするために、シャットダウンしていないガソリンスタンドを探すこと1時間。5軒目にしてようやく、まだガソリンが残っているスタンドを見つけ、事なきを得ました。今回の騒動で最大の被害を受けているのはノースカロライナ州で、今日(13日)の時点で、州にあるガソリンスタンドのうち約75%がシャットダウン。バージニア州も今日の時点で56%のガソリンスタンドがシャットダウンしており、まだかろうじてガソリンが残っているスタンドには、オイル・ショック時を彷彿とさせる車の列ができ、交通渋滞を引き起こしています。コロニアル社は、サイバー攻撃から立ち直り、すでに昨日から操業を再開していますが、騒動が落ち着くまでにはあと1週間はかかりそうです。今回の騒動は、改めて、アメリカの重要インフラのネットワーク防護の必要性を認識させるもので、今後、バイデン政権がどのような具体策を打ち出すかが注目されます。

今週3つ目の大きなニュースは、13日、CDCが12~15歳の学童にファイザー社のコロナワクチン接種を受けることを認めたというニュースです。今、すでにアメリカでは16歳以上の男女はワクチン接種の対象になっていますが、ワクチン接種の対象が12歳まで引き下がったことは、今年9月の新学期に向けた準備をする全米の学校関係者にとって朗報。すでにメリーランド州やバージニア州では、成人の70%以上が、少なくともコロナウイルスワクチン1本目の接種を済ませているとして、来週以降、レストランやイベント会場などの人数制限が撤廃させる見込みです。今後は、12歳以上の学童が対面授業を受ける際のワクチン接種義務付けを行うかどうかが、教育関係者の間では議論の対象となりそうです。

共和党政治に重要インフラに対するサイバー攻撃、そしてコロナ対策、と今週のワシントンは大忙しでした。これから夏に向けて、ますます、忙しくなっていくのでしょうか。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員