外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年4月23日(金)

デュポン・サークル便り(4月23日)  

[ デュポン・サークル便り ]


4月19日付の「デュポン・サークル便り」で、「ワシントンは着実に春の陽気です」とご報告した舌の根も乾かないうちに、今週は先週よりはるかに気温が下がっています。これを書いている今日(22日)は朝起きた時の気温が摂氏零度を下回り、風も強く、冬の陽気に逆戻り。せっかく、先週、家のエアコンを冷房に切り替え、冬物の洋服も全部片づけたというのに、またクローゼット奥から冬物を引っ張り出しています。日本では東京、大阪を始めとする数か所で再び緊急事態宣言が出されるようで、東京モーターショーも中止になったりと、なかなか「ポスト・コロナ」が見えてこない感じですが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

今週のアメリカも、外交政策ではバーチャル気候変動サミットなどのイベントが目白押しではありますが、人々の関心は全く別のところに。週の前半は、昨年5月に黒人男性のジョージ・フロイドさんを拘束する過程でフロイドさんが死亡した事件で、彼を窒息死させた疑いで起訴された元ミネアポリス市警察官のデレク・ショービン氏が、起訴罪状3つの全てで有罪判決を受けたことが大きな話題となりました。アメリカでは警察が被疑者を拘束する過程で被疑者が大小のケガをしたり、最悪、命を落としたりする場合でも、ほとんどが「被疑者拘束の過程での正当防衛の範囲内の行動」とされ、警察官が罪に問われること自体が稀です。ましてや複数の罪状すべてで陪審員が有罪判決を下すことは、異例中の異例です。ですが、今回のケースは、

  1. フロイドさんが拘束される過程でどんどん意識を失っていく様子が9分以上に亘るビデオで克明に録画されていたこと、
  2. 公判に証人として呼ばれた警察関係者が皆、口をそろえてショービン氏がとった行動は行き過ぎたと批判したこと、
  3. 公判を通じて被告席に座っているショービン氏が反省している様子をかけらも見せなかったこと

などの要素から、結審前から、「無罪なんてありえない」「執行猶予つき判決なんてありえない」というムードがムンムンしていました。ショービン氏に有罪判決が出て以来、ことの一部始終を携帯電話のカメラで録画し続けたティーンエイジャーの女性の行動を、全米の主要メディアだけではなく、オプラ・ウインフリーをはじめとする黒人セレブや人種問題を扱う非営利団体が賞賛する事態に発展しています。この公判が始まった後も、シカゴでシカゴ市警察官が13歳のヒスパニック系の少年を射殺した事件や、オハイオ州コロンバスで、ティーンエイジャーの女の子同士の屋外での喧嘩に対応するために出動した警察官が、女の子の一人を射殺した事件が発生しており、警察改革をめぐる議論は、当面続きそうな気配です。

もう一つの話題は、22日に、米連邦議会下院で、ワシントンDCを州に格上げする法案が可決されたことです。ご存じの方も多いと思いますが、ワシントンDCは「特別区」と呼ばれ、州とは法的地位が異なります。下院に代議員(delegate)が一人選出されてはいますが、DCを代表する上院議員はおらず、知事ではなく、市長がDCの行政の長です。また、各州の予算と異なり、DCの予算は連邦予算の一部に含まれます。ワシントンDCの車のナンバープレートに「Tax without representation」というフレーズが刻まれているのは、DCの住民は連邦にもDCにも税金を納めているのに、他の州のように上下両院に議員を送ることができていないことを皮肉ったものです。

このような背景から、ワシントンDCでは「特別区から州にDCの法的地位の格上げを」が、長年の悲願でした。ですが、ワシントンDCの住民は民主党支持者が多く、州に格上げされると、2議席増える上院の議席の両議席が民主党議員になることがほぼ確実であることから、共和党は「DCの州への格上げ=民主党が常に多数党の地位にいるための工作」であるとして強く反発。1993年に初めてDCを州に格上げする法案が下院で可決されて以来、全く議論に進展がないまま、現在に至っています。ですが、今回、下院だけではなく、上院でも民主党が多数党、大統領も民主党のバイデン大統領、という政治状況に加え、昨年の大統領選挙以来、「すべての有権者が選挙権を行使できるために何が必要か」という議論が盛り上がっていることもあり、改めて「DCの州格上げ問題」が注目され始めています。

コロナ対策に加えて、警察改革、人種問題、移民問題、DCの州格上げ問題・・・と内政上の課題がどんどん増えていく中、来週の水曜日にバイデン大統領は議会の両院合同会議で政策演説を行います。毎年大統領が1月に行う一般教書演説の時と同じように、大統領の演説が終わった直後、野党である共和党側が反論演説を行います。この反論演説を行う人は、この演説に抜擢されたことがきっかけで、知名度全国区になり、そのあと大統領選挙に出馬するケースもあることから、毎年、誰がこの役割を担うのかが注目されます。今回、共和党は、共和党上院議員の中で唯一の黒人上院議員であるティム・スコット上院議員をこの大役に抜擢。来週の水曜日にバイデン大統領が何を語るかだけでなく、「白人大統領VS黒人上院議員」という構図が早くも、今から注目されています。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員