外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年4月13日(火)

外交・安保カレンダー(4月12-18日)

[ 2021年外交・安保カレンダー ]


この原稿を執筆中に大ニュースが二つも飛び込んできた。一つは、米ジョージア州オーガスタ・ナショナルで行われたゴルフのマスターズで松山英樹選手が通算10アンダーでメジャー初制覇を果たしたこと。もう一つは、イラン原子力庁長官が、ナタンズの核施設で11日に起きた「異常事態」を「テロ」と断定したことである。

まずはイランの核施設から。イスラエル政府は沈黙しているが、同国の公共放送は複数の情報機関筋を引用し、モサドがサイバー攻撃を仕掛けたと報じたそうだ。一方、イラン国営メディアによれば、原子力庁広報担当者はナタンズ施設で「電気配線に問題が発生」と説明したという。電気配線に問題?それってサイバーテロだろう?

サイバー戦に詳しい向きなら、2009-10年に何者かがスタックスネット(Stuxnet)と呼ばれるコンピューター・ウイルスをイランの核施設内に侵入させ、ウラン遠心分離機を数百台破壊した事件を覚えているだろう。仕掛けたのはアメリカかイスラエルだと言われるが、実態は今も不明だ。いずれにせよ、攻撃を公式に認める国はないだろう。

このサイバー攻撃は、元々ドイツのシーメンス社が自社の汎用機械制御装置をサイバー攻撃から守るため、米国の研究所と共にウイルス防御の研究を始めたことがきっかけだといわれる。イランがウラン濃縮用遠心分離機等を制御するためシーメンス社製工作機械を使用していることが分かり、件の攻撃が計画されたようだ。

「こうした技術が防御に使えるならば、攻撃にも使えるのではないか」と誰かが考えたのだろう。シーメンス製工作機械のコンピューターシステムの弱点を見つけ、それを逆手に取るウィルスとしてStuxnetを最適と考えたらしい。誰かは知らないが、同ウイルスをナタンズに送り込み、何千機もある遠心分離器の10%を破壊したそうだ。

手口は実に巧妙で、遠心分離機用モーターの回転速度を狂わせたのだという。ある時はゆっくり、ある時は速く回転させ、それを何度も繰り返すとモーターが壊れてしまうらしい。あまりに巧妙で、当時イランはサイバー攻撃に全く気付かなかったそうだ。何ともお粗末な話だが、「二度あることは三度ある」のが中東である。

されば、イランの核施設が再びサイバーまたは爆弾などによる巧妙な攻撃を受けた可能性は高いだろう。十年前のサイバー攻撃の成功でイランの核開発は数年遅れたそうだが、恐らく、今回もかなりの被害が出ている可能性はある。筆者には目的が現在ウイーンで行われているイラン核合意関連交渉を「潰す」ためだとしか思えない。

続いて、松山選手のマスターズ初優勝だ。彼の長年の努力が実ったことは勿論誇らしいのだが、勝利決定後に帽子を取りコースに一礼した彼のキャディの行動も称賛されている。あるツイートにはこう書かれていた。Following Hideki Matsuyama's Masters win, his caddie, Shota Hayafuji, bowed to the course after returning the pin on the 18th hole.アメリカでも見ている人は見ているのである。

もう一つ嬉しいことは、松山選手の勝利で最近米国各地で頻発する対アジア系ヘイト犯罪に対する批判が一層高まる可能性があることだ。例えばこんなツイートを見つけた。In a year where there has been so much unnecessary Asian hate it’s awesome to see Hideki win The Masters.こうした声が新たな流れを生むと信じたい。

〇アジア
韓国メディアは韓国政府消息筋を引用し、北朝鮮が三千トン級潜水艦の建造作業を終えたと報じている。韓国側は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)3発を搭載可能と見ているそうだが、16日の日米首脳会談直前にも進水式や発射実験を行う可能性があり要注意だ。もっとも、北朝鮮の潜水艦が「静か」だとは到底思えないのだが。

もう一つ、米上院外交委員会が「2021年戦略的競争法案」を超党派でまとめ公表している。中身は全編「対中警戒論」の塊で、「対中競争は米国外交の最優先事項」と規定し、台湾についても「通常の外交団と同様に接遇せよ」「台湾を国連等に加盟させよ」などと言いたい放題。ふと、1924年の「排日移民法」制定を思い出した。


〇欧州・ロシア
ウクライナ東部で親ロシア派武装勢力との緊張が高まりつつある。国境を接するロシア側のボロネジ州ではロシア軍の増強が続いており、鉄道駅周辺にはロシア軍の物資集積所が構築されているようだ。ロシアが中国と共にバイデン政権の意図をテストしようとしている。この種の「戦争」はロシアが最も得意とするので要注意だ。


〇中東
ヨルダンの「クーデター騒ぎ」後初めてアブドラ国王とハムザ王子が共に姿を現したという。一応「手打ち」したことを示すのだろうが、これで一件落着という訳にはいかない。先代のフセイン国王も実弟のハッサン皇太子との関係が微妙だったが、今回はそのハッサン元皇太子が両者の仲裁役を務めたそうだ。やはりコップの中の嵐なのか。


〇南北アメリカ
撤退期限の5月1日を前に米軍のアフガニスタン撤退問題が宙に浮いている。ターリバーンが先月下旬、極秘米軍基地を2度も攻撃していたことが判明。ワシントンではターリバーンが米軍を標的にした作戦を加速させる恐れが懸念されている。引くも地獄、進むも地獄、これこそ英国やソ連が経験したアフガニスタンの本質である。


〇インド亜大陸
焼却されるはずの廃棄された使用済みマスクを使って、何とマットレスを製造していた業者がインドで摘発されたという。うーん、やっぱりインドは恐るべし、だ。今週はこのくらいにしておこう。


5-23日 国連軍縮委員会 annual session(ニューヨーク)
7-20日 UNESCO 執行理事会 211回会合(パリ)
11-13日 パキスタン・クレーシ外相がドイツを訪問
12日 インド2月鉱工業生産指数発表
12日 日本・新型コロナウィルスワクチンの高齢者向け接種開始
12日 日米両政府による米軍普天間飛行場の返還合意から25年
12日 東京都などへの「まん延防止等重点措置」の適用開始
12-15日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
12日-5月12日ごろ ラマダン月(サウジアラビア)
13日 EU司法・内務相理事会 非公式会合(オンライン)
13日 ブラジル2月月間小売り調査発表
13日 中国第1四半期貿易統計発表
13日 米国3月消費者物価指数(CPI)発表
13日 日独外務・防衛閣僚会合(「2+2」)開催(テレビ会議形式)
14日 ベージュブック(FRB)
15日 米国3月小売売上高統計発表
15日 北朝鮮の故金日成首席誕生日
16日 EU3月CPI発表
16日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
16日 中国第1四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額など)発表
16日 米・第48回アニー賞授賞式(オンライン)
16日 日米首脳会談(ワシントン)
16-17日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会 非公式会合(ポルトガル)
18日 カーボベルデ国民議会議員選挙
18日 GSLV(EOS-03)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)


<19-25日>
19日 EU外相理事会(貿易)(ルクセンブルク)
19-21日 国連世界気象機関 (WMO)執行理事会 第73回会合(ジュネーブ)
19-21日 国連国際農業開発基金(IFAD)執行理事会 第132回会合(ローマ)
19-28日 上海モーターショー(一般公開は21日から)
20 日EU一般問題理事会(ブリュッセル
20-21日 国連欧州経済委員会(ECE) 第69回会合(ジュネーブ)
21日 エリザベス英女王95歳の誕生日
22日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
22日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(エネルギー)〔ポルトガル〕
22日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
22日 メキシコ3月雇用統計発表
22日 ファルコン9(SpaceX社 有人型ドラゴン運用2号機)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
22-23日 気候変動サミット(オンライン)
22-23日 黒海経済協力機構(BSEC)理事会
23日 EU環境相理事会 非公式会合(ポルトガル)
23日 ロシア中央銀行理事会
23日 メキシコ2月小売・卸売販売指数発表
23日 ジブチ選挙(第2回投票)(第1回目で過半数以上の得票者がいなかった場合上位2人)
25日 名古屋市長選
25日 アルバニア議会選
25日 第93回米アカデミー賞授賞式(ロサンゼルス)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所研究主幹