外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年4月13日(火)

デュポン・サークル便り(4月10日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週、一旦、2月半ばに季節が戻ったかと思いきや、今週のワシントンは確実に春の訪れを告げる陽気が続いています。ただ、風が強い日が続いているので、先週、満開になったソメイヨシノはそろそろシーズン終了です。アメリカは先週末は復活祭(イースター)でした。大人数のパーティはまだまだ自粛モードが強い一方、ポカポカ陽気のお天気だったこともあり、家族や親戚、隣人と屋外で集まるぐらいなら・・という雰囲気の中で、日中、子供たちを屋外で遊ばせながら大人はカクテル、そのあとは各家庭に分かれてディナー、という光景が私の周りでは多く見られたように思います。

今週ワシントンでは、今後米国の対中政策を見ていく上で非常に興味深い出来事がありました。すでに日本でも報じられていますが、4月8日、上院外交委員会が超党派の合意を得て「2021年戦略的競争法案」を今後審議していくと発表したのです。アメリカでは、議会がこのような法案の成立を通じ、外交政策など、本来は直接関与が難しい政策分野で物申すことは珍しくありません。しかし、今回のように特定の国を対象とした法案が、民主、共和両党の合意を得て審議に入るというのはめったにないケースです。こうした議会側の動きを受け、バイデン政権がどのような対応を取るかが要注目となります。

とはいえ、一般の人々の関心は、全く別のところにあり、中でも、ミネアポリス市の元警察官デレク・ショービン氏の裁判が注目されています。4月2日付のデュポン・サークル便りでも少し触れましたが、ショービン氏は昨年5月、黒人男性ジョージ・フロイドさんを逮捕した際、彼の首根っこを膝で押さえつけ死亡させた警官です。フロイドさんが意識を失うまでの様子はビデオ録画され、SNSなどを通じ全米に拡散し、その後各地で人種差別抗議活動や暴動が起きるきっかけを作った人物でもあります。公判は2週目に入り、出廷する証人はミネアポリス市警察関係者、法医病理医学者などに移行、尋問の焦点もショービン氏がフロイドさんの首根っこを膝で押さえつけたことが、警察官の被疑者拘束として適切な対応なのか、フロイドさんの死因は窒息が原因なのか、それともショービン氏側が主張するように、フロイドさんの持病である呼吸器官系の発作によるものなのか、などに移っています。

これまでのところ、公判ではショービン氏に不利な証言が続出しています。ショービン氏にとって「身内」であったはずのミネアポリ市警察署長は、フロイドさんを押さえつけるために首根っこを膝で押さえつけたことは「署の規則違反」であると証言。また、同警察署で警察官の訓練を行うユニット長も、現場のビデオを見て「こういうやり方は当署では訓練しない。なんでこういう対応になったのか理解できない」とバッサリ切り捨てました。更に、7日には著名な肺疾患の専門家が、フロイドさんの死因は「酸欠によるもの」と証言、8日には法医病理学者が「フロイドさんの直接の死因は彼を取り押さえるために法執行当局の捜査官が用いた手法」と述べるなど、ショービン氏は厳しい立場に追い込まれています。

当地でニュースを賑わせているもう一つの話題は、なんと現職の共和党下院議員が未成年の女性と不適切な関係を持っただけでなく、児童買春業者と取引をしていた疑惑が浮上している、というスキャンダルです。先月末一部メディアは、フロリダ州選出のマシュー・ゲイツ下院議員が複数の未成年の女性と不適切な関係を持っただけでなく、その写真を同僚の下院議員にも見せていたと報じました。それ以来アメリカではゲイツ議員に対する批判が高まっています。しかもこのゲイツ議員、トランプ前大統領の熱烈な支持者で、トランプ前政権時代には同大統領に批判的な人々であれば、共和党関係者であっても、舌鋒鋭く攻撃していたことでも知られています。そのせいか、同僚の共和党議員の間ではあまり人気がなく、ゲイツ議員の疑惑が報道されても、同議員を弁護する議員はほとんど皆無でした。一方、トランプ前大統領を刺激するのを恐れてか、同議員を表立って批判する議員もほとんどいません。しかし、この数日間、ゲイツ議員と親しいと言われる人物が児童買春業者との関係などにつき有罪を認めて司法当局と司法取引をする可能性が高いとも報じられています。この報道と前後し、もともとトランプ前大統領やその支持者に対し批判的だった共和党議員が、ゲイツ議員に対し公然と議員辞職を求め始めました。連邦議員たちは今週イースター休暇から再びワシントンに戻ってきていますが、今後、ゲイツ議員に対し議員辞職の圧力が高まるのか、それとも、トランプ前大統領の意向を慮ってか、表立ったゲイツ議員批判を控える状態が続くのか。既にホワイトハウスは去ったものの、トランプ前大統領がどの程度共和党内で影響力を維持しているかを示す事案として、アメリカのメディアは公判の行方に注目しています。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員