キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年3月23日(火)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
先週は米国務長官が国防長官と共に日韓との2+2会合にそれぞれ参加した後、アラスカで中国の外交担当トップと意見交換した。先週お約束した通り、今週はこの一連の動きを総括したい。日本にとっては想定通り、またはそれ以上の成果だろうが、正直なところ、バイデン新政権のインド太平洋外交は多難な船出である。
日米2+2、米韓2+2会合ではそれぞれ共同文書が発表され、共同記者会見も行われた。同盟国同士の会合でもあり、これは想定内だ。一方、米中の意見交換では滅多に文書作成や共同記者会見は行われない。ところが今回は、本来非公開のはずの激しい非難の応酬が内外メディア用冒頭発言の際に繰り広げられた。
案の定、内外メディアの注目はアラスカの米中「意見交換」に集まった。だが、日米、米韓の2+2会合にも論点は少なくない。詳細については先週のJapanTimesと今週の毎日新聞政治プレミアに書いたので、お時間があればご一読願いたいが、簡単に言えば、ほぼ全てが「起こるべくして起きた」ということではないだろうか。
日韓との2+2
日米2+2と米韓2+2の相違点は予想以上に大きかった。米韓関係はやはり微妙である。少なくとも、過去数年来の米韓の溝がようやく埋まり始めたようには到底思えなかった。例えば、
アラスカでの米中会合
最も興味深かったのはアラスカでの米中のやりとりだ。中国側はこれを「戦略対話」と位置付けていたが、成功には程遠い結果となった。新華社は「事前の打ち合わせどおり準備して臨もうとしたのに、米側の冒頭発言が予定時間を大幅にオーバーした」と米側を非難したが、真の原因は時間ではなく、発言内容だったことは明らかだ。
ブリンケン長官は冒頭から、「中国の行動に対する我々の深い懸念、新疆ウイグル自治区や香港、台湾、アメリカに対するサイバー攻撃、同盟国に対する経済的威圧についても話し合いたい。これらは内政問題ではなく、世界の安定を維持するルールに基づく秩序を脅かしているので、米側は取り上げざるを得ない」などと述べた。
これが中国人には受け入れ難い無礼に映ったのだろうか。中国人は、自分の面子を大事にする一方、相手にも他人の面子を潰さないよう求める傾向がある。冒頭から公衆の面前でここまで批判された以上、ここで沈黙できる中国要人はいない。ブリンケンは中国の「壊れた蓄音機」のスタートボタンを押してしまったのだ。
これに対する中国側の反論が興味深い。楊政治局員は、「私は(判断を)間違えた。入室した際、私は米側が冒頭発言のトーンに注意するよう伝えるべきだったが、私はしなかった。中国側が長く話した原因は米側発言のトーンだ。これが米側の望む対話のやり方なのか?米側は必要な外交儀礼に従うのだと思っていた。言わせてもらうが、中国側の前で、米側には強い立場から話したいなどと言う資格はない。」などと一気に畳みかけた。これほど怒りに満ちた中国要人の公開発言は聞いたことがない。
勿論、米側の冒頭発言は事前かつ周到に準備されたものだ。一部に「米側の挑発に中国側がまんまと嵌り、外交的醜態を見せた」とする分析もあるが、中国側は「礼儀を知らない米側の若造たちに反論した」ぐらいにしか思っていないはず。こんな米側のやり方で中国が譲歩するとは到底思えないのだが・・・。
今後米側は対中政策の見直しを進め、いずれ米中は妥協点を模索していくのだろうが、果たして大丈夫か。以前筆者は「今後世界は政治家レベルで判断ミスが繰り返される時代が来る」と書いた。今回のやりとりを通じて米中間、特に「面子を潰された」中国側に、感情的な「しこり」や「不信感」が芽生え、それが中国側の判断ミスを助長することにならないか、筆者は大いに懸念している。
〇アジア
フィリピン政府は、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島のサンゴ礁周辺に今月初旬、約220隻の中国漁船が集結していたことを確認、中国側に抗議したと発表した。これも海上民兵を使う典型的な中国海軍のやり方であり、恐らく米側に対する牽制か、テストなのだろう。フィリピンが再び「腰砕け」とならないことを切に祈ろう。
〇欧州・ロシア
EUの外交安全保障上級代表は、新疆ウイグルでの人権侵害をめぐるEUの対中制裁に対し中国が発表した報復制裁を「残念で受け入れ難い」と述べたそうだ。これも如何にも中国らしいやり方、すなわち「売られた喧嘩は必ず倍返しで買う」スタイルだ。中国はこれを何時まで続けるつもりなのか、結局は孤立するだけなのに。
〇中東
米国防長官が、日韓訪問後にインドを経て、アフガニスタンを予告なしに訪問した。ターリバンとの和平合意で駐留米軍が完全撤退する期限は数週間後に迫っている。一体米国はどうするつもりなのだろう。「引くも地獄、残るも地獄」の選択肢だが、米国の中東での判断は今やインド太平洋に直結するので大いに要注意だ。
〇南北アメリカ
78歳の米大統領は国内各地を遊説中だが、先日大統領専用機に乗り込んだ際、タラップ上で足を踏み外し数度にわたり躓いてしまった。保守系メディアは「鬼の首でも取ったように」はしゃいでいたが、どっちもどっち。バイデンにとっては、インド太平洋外交よりも、米国救済大型予算を如何に国内で売り込むかの方が重要なのだろう。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
2月22-3月19日 国連人権理事会 第46回会合
1-26日 国連総会 第5委員会 first part of the resumed session(ニューヨーク)
1-26日 UN自由権規約人権委員会 第131回会合(ジュネーブ)
15-25日 国際労働機関(ILO)理事会および諸委員会 第341回会合(ジュネーブ)
22日 EU外相理事会(ブリュッセル)
22日 ロシア1月貿易統計発表
22日 日本・首都圏4都県を対象にした緊急事態宣言を解除
22日 ソユーズ2.1a(CAS500-1、ELSA-d、GRUS-1B, 1C, 1D等)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
22日- 日・ウクライナ租税条約交渉の開始
22-23日 EU競争力担当相理事会 非公式会合(域内市場・産業)(ポルトガル)
22-23日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
22-23日 ロシア・ラブロフ外相が中国を訪問
22-25日 米国務長官がベルギー・ブリュッセルを訪問
22-25日 国際決済銀行(BIS)イノベーションサミット
22-25日 第3回「アメリカで沖縄の未来を考える」を実施(東京)
23日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
23日 イスラエル議員選
23日 米・20年10-12月期の経常収支(商務省)
23日 エレクトロン19号機(Electron)’They Go Up So Fast’(BlackSky Global13, Centauri 2, Gunsmoke-J 1, M2等)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
23-24日 NATO外相会議(ブリュッセル)
24日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
24日 メキシコ2月雇用統計発表
24-25日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
25日 ECB一般理事会(フランクフルト)
25日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
25日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表
25日 ギリシャ独立200年記念日
25日 米・20年10-12月期GDP確定値(商務省)
25日 日本・東京五輪聖火リレー出発式(福島県樽葉町)
25日 ソユーズ-2.1b(ワンウェブ衛星#5 36機)打ち上げ(ボストチヌイ基地)
25-26日 欧州理事会(ブリュッセル)
26日 メキシコ2月貿易統計発表
26日 米2月個人消費支出(PCE)(商務省)
26日 インド・モディがバングラデシュを訪問
26日 バングラデシュ独立記念日
25日 米国2020年第4四半期および2020年年間GDP発表(確定値)
28日 トルクメニスタン上院選挙
28日 ブルガリア国民議会議員選
28日 欧州各国が夏時間入り
28日 GSLV(EOS-03)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
<29日-4月4日>
29-4月2日 FAO理事会 第166回会合(ローマ)
30日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会非公式会合(運輸)(オンライン)
30日 ロシア2月雇用統計発表
31日 ブラジル1月全国家計サンプル調査発表
31日 コンゴ大統領選
4月1日 EU司法・内務相理事会非公式会合(統合)(オンライン)
1日 インド第14次5ヵ年計画発表
1日 ブラジル2月鉱工業生産指数発表
2日 グッドフライデー(聖金曜日)で米市場は外国為替市場を除き休場、債券市場は短縮取引
2日 米国3月雇用統計発表
3-5日 中国清明節休暇
4日 ブルガリア国民議会選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問