外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年3月9日(火)

外交・安保カレンダー(3月8-14日)

[ 2021年外交・安保カレンダー ]


米東部時間で今週11日、バイデン大統領が重要演説を行うらしい。新型コロナウイルス関連救済策として進めてきた1.9兆ドル(約200兆円)規模の大型経済対策法案が6日に連邦上院を通過し、再び下院での審議を経て近く成立する可能性が高まったからだ。バイデン政権にとっては大統領選での重要公約実現ということになる。

発足後45日経ったバイデン政権は「giant step forward」だと手放しで評価しているようだ。基本的には米国内政治の問題なので、日本ではあまり詳しく報じられていないが、各種報道によれば、「アメリカン・レスキュー・プラン(アメリカ救済計画)」と題された今回の法案の骨子は次の通りであるらしい。

①高額所得者を除く大多数の国民に1人あたり最大1400ドル支給
②連邦政府が支払う失業保険追加給付として週300ドル給付
③州政府や自治体に3500億ドル、学校には1300億ドルを支給
④新型コロナウイルス検査・研究に490億ドル、ワクチン供給に140億ドル支出
⑤年収7.5万ドル未満の納税者に現金1400ドルを給付
⑥中小企業への支援金、等々

若干注釈を加えよう。①の1400ドルは選挙戦中からの経緯がある金額で、確かトランプ氏も主張していた額だ。②の300ドルは元々400ドルだったが上院で100ドル減額されたもの。民主党のリベラル派は大いに不満だろうが、3月14日に失業保険が切れるので、失業者にとっては朗報である。⑥についてはレストラン・バーに250億ドル、航空各社に150億ドル、空港に80億ドルなどを割り当てるそうだ。

要するに、史上空前のバラマキ予算なのだが、やらない訳にはいかない。このツケはいつか必ず回ってくるが、それはその時考えれば良い、ということだろう。更に、筆者が関心を持つのは米国の経済貿易政策だ。先月末に次期USTR(米通商代表)の議会承認公聴会が開かれたが、その内容が実に様変わりだったからである。

詳細は毎日新聞政治プレミアに書いたのでご一読願いたいが、結論はこうだ。

①USTRの発言の中から「自由貿易」という言葉が消え、
②新たに「米国労働者の利益」、「高水準の労働環境」が加わり、
③日本批判に代わって中国批判が急増したということである。

だが、筆者が気になるのはこれだけではない。 

実は2月24日にバイデン大統領がある重要な大統領令に署名している。報道ではこれにより「370億米ドルの連邦政府投資を行い、半導体の供給不足に対応するための道が開かれる」という。米半導体業界も歓迎しているそうだが、おいおい、これって米国が長年忌み嫌ってきた「産業政策」そのものではないのかい?

この大統領令では、「米国の競争力を保護および強化していく上で不可欠な4つの重要製品のサプライチェーンについて、直ちに100日間のレビューを行う」とされ、対象は半導体に加え、主要な鉱物/材料、医薬品、高性能バッテリーとされている。「背に腹は代えられない」のだろうか、明らかに中国を意識した政策転換だろう。

現在バイデン政権では、米政府全体で対中政策に関する総合的見直しが進んでいるらしい。その全貌が見えてくるのは数カ月先になるだろうが、安全保障分野だけでなく、経済貿易分野でも、米国の対中政策が、ゆっくりではあるが、確実に方向転換し始めていることだけは間違いなさそうである。

 
〇アジア
ミャンマーでは今も流血が続いているが、7日、中国の国務委員兼外相は「対話と交渉を続け、憲法の枠組みによって対立を解決し、民主化プロセスを継続することを望む」と述べたそうだ。おいおい、それを言うなら、まずは中国内とは言わないが、せめて香港からでも「民主化プロセス」を再開しては如何だろうか。

〇欧州・ロシア
スイスで7日、イスラム教徒女性を念頭に、公共の場で顔を隠す衣装の着用を禁止する提案につき国民投票が行われ、賛成約51%で可決された。投票率も約51%だったというから、本当に僅差である。確か、似たような禁止令はフランスやベルギーにもあったと思うが、イスラム教徒なら「スイスよ、お前もか?」と言いたいところだろう。

〇中東
先週もサウジアラビア東部にある国営石油会社サウジアラムコの石油施設で無人機やミサイルによる攻撃があった。イエメンの「フーシ派」が犯行を認めたというが、彼らがドローンやミサイルを作れるとは到底思えない。これも6月のイラン大統領選挙まで続く米イラン間の「代理戦争」の一部と見るべきだろう。


〇南北アメリカ
昨年は新型コロナウイルス対策で英雄視すらされたニューヨークのクオモ知事が政治的危機に瀕している。高齢者施設での死亡者数過小発表や元同僚などに対するセクハラ疑惑で身内の民主党関係者からも批判が出始めたからだ。「驕る平家久しからず」、英語ではThe longest day must have an end.ともPride will have a fall.とも言うそうだが、この諺だけはクオモ知事の辞書にないかもしれない。

〇インド亜大陸
インドがクアッド(QUAD日米豪印協力体制)でインドのワクチン生産能力拡大への資金援助を呼びかけていたと報じられた。恐らく当たらずとも遠からず、だろう。決して容易ではないが、インドへのこの種の投資は戦略的に極めて重要だ。今週はこのくらいにしておこう。

2月22-3月19日 国連人権理事会 第46回会合
1-26日 国連総会 第5委員会 first part of the resumed session(ニューヨーク)
1-26日 UN自由権規約人権委員会 第131回会合(ジュネーブ)
5-8日 ローマ教皇がイラク初訪問
7-12日 国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)(京都市)
8日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星L20 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
8-11日 欧州議会本会議(ストラスブール)
9日 ユーロスタット2020年第4四半期実質GDP成長率発表
9日 メキシコ2月CPI発表
9日 経済協力開発機構(OECD)世界経済見通し(オンライン)
9日 日本・外務省「第2回核軍縮の実質的な進展のための1.5トラック会合」の開催
9日 日本・デジタル改革関連法案が衆院本会議で審議入り
9-12日 化学兵器禁止機関(OPCW) 執行理事会 第96回会合(デンハーグ)
10日 中国2月CPI発表
10日 米国2月CPI発表
10日 カナダ中央銀行政策金利発表
10-11日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する(TRIPS)協定理事会
11日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
11日 EU司法・内務相理事会非公式会合(司法)(オンライン)
11日 ブラジル2月IPCA発表
11日 東日本大震災から10年
11日 世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルスの「パンデミック」表明から1年
11日 中国全人代第13期第4回会議閉幕(北京)
11日 欧州医薬品庁(EMA)が米J&Jのコロナワクチンの承認の可否を決める臨時会合
11-12日 CIS国際経済フォーラム「CIS-30年」(ロシア・モスクワ)
11-12日 EU司法・内務相理事会非公式会合(内務)(オンライン)
12日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
12日 ブラジル1月月間小売り調査発表
12日 インド1月鉱工業生産指数発表
12日 国公立大2次試験後期日程開始
12日 長征7A(高軌道試験衛星 Xinjishu Yanzheng-6-02)打ち上げ(海南省文昌衛星発射センター)
14日 グラミー賞授賞式
14日 米国が夏時間入り
14日 ドイツ バーデン・ビュルテンベルク州議会選挙
14日 ドイツ ラインラント・プファルツ州議会選挙
14日 山口県下関市長選

<15-21日>
15日 ユーログループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
15日 米・アカデミー賞ノミネート発表
15日 中国1-2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15日 ファイアーフライ・アルファ(DREAM)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
15-16日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(社会)(ブリュッセル)
15-17日 米・ブリンケン国務長官とオースティン国防長官が訪日
15-18日 欧州議会委員会会議
15-18日 香港インターナショナル・フィルム&テレビ・マーケット
15-25日 国際労働機関(ILO)理事会および諸委員会 第341回会合(ジュネーブ)
16日 EU経済・財務相理事会(ブリュッセル)
16日 米国2月小売売上高統計発表
16日週 APEC財務大臣代理・中央銀行総裁代理級会合
16-17日 米国FOMC(FRB)
16-17日 ブラジル中央銀行、Copom(金融政策委員会)
17日 ユーロスタット2月CPI発表
17日 オランダ下院選挙
18日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
19日 ロシア中央銀行理事会
21日 千葉市長選
21日 ソユーズ2.1a(CAS500-1、ELSA-d、GRUS-1B, 1C, 1D等)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問