キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年3月5日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
ワシントンは、まだ朝夕は少し冷えますが、日中は少しずつ春らしい陽気になってきました。毎年ワシントンDCでは3月末から4月上旬にかけて、ポトマック川沿いの桜が綺麗に咲く時期に合わせ「桜祭り」が行われます。ところが、今年はこの人気行事がコロナウイルス対策の一環で中止になるという残念な発表がありました。まだまだ「ポスト・コロナ」の生活になるには時間が必要だということを改めて感じさせられました。
先週のデュポン・サークル便りでは、予算管理局(OMB)局長人事でバイデン政権が躓いていることをお伝えしました。連邦予算をまとめる過程で中心的役割を果たす予算管理局(OMB)局長には、ワシントンのシンクタンクの中でも最も民主党寄りという評価の全米進歩政策研究所(Center for American Progress, CAP)のニーラ・タンデン所長が指名されていました。ですが、彼女がCAP所長時代に、共和党、民主党両党の連邦議員の言動や投票行動を名指して批判するツイートを頻繁にしていたことを複数の上院議員に問題視され、彼女の人事が揉めていました。結局、この人事はタンデン氏が今週、自ら指名承認を辞退したことで落ち着いたものの、コロナウイルス対策のための景気浮揚策パッケージをはじめ、予算が絡む案件で議会との交渉を行う重要なポストが空席のままの状態が続くことは政権にとっては望ましくありません。
OMB局長人事がタンデン氏のツイートで炎上したかと思えば、今度は国防省の政策担当次官に指名されたコリン・カール氏(オバマ政権時にバイデン副大統領(当時)国家安全保障担当副大統領補佐官だった人です)の指名承認が同じように彼のツイートで炎上。4日に上院軍事委員会で行われた彼の指名承認公聴会では、同委員会に所属する共和党議員が次々にカール氏を突き上げ、カール氏は共和党上院議員に陳謝する羽目になりました。タンデン氏といい、カール氏といい、自分自身のツイートで指名承認が停滞することになるとは、まさに「身から出た錆」以外の何物でもありません。普段から、言動には気を付けたいものです。
コロナウイルス関連では、まだまだ全米のほとんどの州で公の場でのマスク着用が必須とされている中、3月2日にテキサス州とミシシッピー州の2州で、州知事が「マスク着用は個人の自由!州政府によるマスク着用義務付けはおしまい!」という仰天発表がありました。テキサス、ミシシッピー州とも州知事は共和党ですが、この2州の州知事決定にホワイトハウス側は猛反発。バイデン大統領がこの決定に対するコメントを記者団に求められて「今この時期にマスク着用義務付けを辞めてしまうなんて、ネアンデルタール人的メンタリティだ」と発言し、全面対決となっています。
コロナウイルス関係の事案といい、指名承認公聴会といい、バイデン政権発足直後の「挙国一致でコロナウイルスがもたらした国難を乗り越えよう!」というムードが完全に吹っ飛んでしまったワシントン。その一方で先週行われた保守派が年に一度集う最大の政治集会である「保守系政治活動委員会(CPAC)」の会議に登場したトランプ前大統領が絶大な人気を集めるなど、アメリカ政治は2022年の中間選挙、そして2024年の大統領選挙に向けて早くも動き始めています。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員