外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年2月19日(金)

デュポン・サークル便り(2月19日)

[ デュポン・サークル便り ]


今日の早朝から降り始めた雪・みぞれ・氷雨の「3重苦」でワシントン近郊では学校は軒並み休校、連邦政府もお休みとなりました。明日もきっと、2時間遅れの始業となりそうで、共働き家庭は、この時期、本当に天気に振り回されます。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

先週の最大のニュースだったトランプ前大統領の二度目の弾劾裁判は、下馬評どおり213日に上院でトランプ前大統領が無罪判決を受けたことで幕を閉じました。とはいえ、今回の弾劾裁判は、第1回目の弾劾裁判とは、裁判を取り巻く雰囲気も、最終的な投票結果も全く異なるものでした。

ご存じのとおり、第一回弾劾裁判の罪状は「トランプ大統領が、ホワイトハウスでの首脳会談を餌にウクライナの大統領に圧力をかけたか」「ロシアが2016年大統領選挙で情報工作してヒラリー・クリントン元大統領候補に不利な情報を意図的に流布したことをトランプ大統領が承知していたかどうか」でした。この時は、罪状とトランプ大統領の間にはっきりとした関連性が示せなかったこともあり、裁判後、20202月に上院で行われた投票では無罪判決となりましたが、それでも、ミット・ロムニー上院議員(共和党)が造反して「有罪」の投票をした以外は、民主党上院議員の全員が「有罪」に、共和党上院議員は全員「無罪」に投票する、という党派に沿った投票結果でした。

ですが、1月6日の連邦議会議事堂に対する極右集団による襲撃を煽動・教唆した」という罪状で行われた今回の弾劾裁判では、「有罪」に投票した上院議員は57人、「無罪」に投票した議員は43人。過半数の上院議員が「有罪」票を投じたのです。昨年11月の選挙の結果、民主党上院議員は50名ですから、7名の共和党上院議員が造反したことになります。ただ、「有罪」判決を出すためには上院100名の3分の2にあたる67票が必要だったため、10票届かず無罪になった、というのが現実です。

また、トランプ大統領は昨年11月の大統領選挙の結果を受け入れず『広範な不正が行われた結果、自分は選挙に負けた』という根拠のない発言を続けましたが、票後の共和党上院議員の発言も、トランプ前大統領を弁護する内容のものは皆無。「無罪」票を投じた共和党議員のほとんどが、「前大統領を弾劾裁判にかけるのは合憲性の面で納得がいかない」という論点を「無罪」票を投じた理由に挙げています。この点については弾劾裁判初日に上院で採決が行われて、前大統領を弾劾裁判にかけるのは合憲、という合意ができていたはずですが・・・。

そればかりか、「無罪」投票をしたはずのミッチ・マコーネル共和党上院議員は、投票直後の上院本会議での発言で「16日の事件は恥辱だ」「暴動に至るまでのトランプ前大統領の行動は恥ずべきもので、(大統領としての)責務の放棄だ」「1週間前の発言を繰り返したい。トランプ前大統領があの日の出来事に対して実際的にも道徳的にも責任があることは明らかだ」などなど、トランプ前大統領に対する批判のオンパレードの仰天演説を行い、「『無罪』投票しといて、今更言うな!」という批判を民主党から集めたほどです。

要は、まだまだ共和党支持者にトランプ前大統領を支持する人が多い現状を考えると、とても「有罪」票を投じる勇気はない、でも、トランプ前大統領を弁護する気もない、という悩ましい選択を迫られた共和党上院議員の多くが、手続き論を理由にすることでなんとか自分の投票行動を正当化しようとした、というのが現実のようです。

今回の弾劾裁判で何よりも明らかになったのは、選挙の際に共和党が最も頼りにする超保守派の心をトランプ前大統領がガッシリと掴んでおり、「トランプ後」に向けて舵を切るのは容易ではないということではないでしょうか。2024年の大統領選挙に向けて、トランプにおもねるのか、「脱トランプ」の共和党をけん引していくことを目指すのか。2024年の大統領選に出馬するのではないかと噂されるテッド・クルーズ上院議員、マルコ・ルビオ上院議員、ニッキー・ヘイリー元国連大使、ラリー・ホーガン・メリーランド州知事などの面々のうち、クルーズ、ルビー上院議員は明らかに前者、ヘイリー大使とホーガン知事は後者の立場をとっています。2024年大統領選挙に向けた共和党内のバトルはすでに始まっていると言っても過言ではなさそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員