キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年2月16日(火)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
先週、筆者にとって最大のニュースはチック・コリアが亡くなったことだ。「チック・コリア氏、がんで死去 ジャズ界の巨匠」 AFP=時事は「米国のジャズ作曲家で、エレクトリックキーボード奏者の草分けであるチック・コリア(Chick Corea)氏が今月9日にがんで死去していたことが、彼の公式ページで発表された。79歳だった。」と報じた。
「外交安保」と全然関係ないじゃないか、というお叱りは御尤もだ。が、筆者にとってチック・コリアは単なる「エレクトリックキーボード奏者の草分け」などではなく、過去50年間近い音楽生活の中で聞いたミュージシャンの中でも、最も洗練され、多才で、かつ独特の音楽空間を創造できる異才だった。心からご冥福を祈りたい。
その次に、と言っては失礼だが、気になったのがトランプ前大統領の弾劾裁判の行方だった。「無罪」は想定内だが、正確に言えば、「有罪にならなかった」ということ。評決は有罪57票、無罪43票だったが、実質的には7票対43票、すなわち、上院共和党のうち「造反した」のは僅か7人だったということである。
詳細は今週の産経新聞のコラムに書いたのでご一読願いたい。裁判終了で米国内政治は「ポスト・トランプ」時代に入ったが、それでも「トランプ現象」は残る。要するに、このトランプ氏にとっては二度目となる弾劾裁判の勝者は、トランプでも、共和党でも、民主党でもなく、恐らく中国とロシアとイランではないかという話だ。
ミャンマーでのクーデターから2週間経ったが、混乱は今も続いている。日本と欧米の報道を読み比べて、最も驚いたのはアンサンスーチー前国家顧問に対する評価の違いだ。一番辛辣だったのはファリード・ザカリアの発言。要するに、スーチーは、同じノーベル平和賞を受賞した南アフリカのネルソン・マンデラとは大違いだという。
マンデラは、同じ非暴力主義でも、政治的資質があり、国内の様々な勢力・民族間の和解・協調を進めて、遂に政治的統合を実現した。これに対し、国内各種民主勢力を糾合する政治的資質を欠くスーチーは最後までNLD中心主義、というかスーチー中心主義を変えず、後継者も育てなかった、と実に手厳しい。
しかし、考えてみれば、スーチー女史自身も、国軍と同様、ビルマ民族主義者エリートの一人に過ぎなかったことは、以前から西側識者も分かっていた筈だ。今更そんなことを言われてもね、というのがスーチーさんの本音ではなかろうか。もしザカリア説が正しければ、ミャンマー民主化はポスト・スー・チー時代になるのかも・・・。
〇アジア
WHOのコロナ調査団について、米NSC担当補佐官が声明を発表し、中国は初期感染例の生データを提供すべきだと指摘、調査結果の発表方法を「深く懸念する」と批判したそうだ。バイデン政権は中国のやることなすこと、何でも一言文句を言いたいらしい。でもこれは単なるジャブだろう、本当のパンチは炸裂するのかね?
〇欧州・ロシア
スペインカタルーニャ自治州の州議会選挙で分離独立派が過半数議席を獲得、国政では与党の社会労働党は得票率では首位となる見通しだという。この分離独立派はスペインでは左派なのだが、こうなると何が右で何が左か、訳が分からなくなる。要するに極端な連中なのか・・・・。欧州混乱の予兆でないことを祈るしかない。
〇中東
UAE(アラブ首長国連邦)が、火星探査機が撮影した巨大火山の写真を初めて公開、宇宙開発を加速させるUAEは2024年までに月探査を行うそうだ。ふーん、何か、ピンと来ないね。UAEの科学者も参加しているのだろうけど、結局はお金かな。スポンサーというのなら、納得するけど。失礼、これって、「やっかみ」なのかもしれない。
〇南北アメリカ
二回目の弾劾裁判評決直前、あのニッキー・ヘイリー元国連大使が、強烈なトランプ批判を公然と行ったそうだ。なるほど、彼女も次期大統領選を狙っているのね。前政権時代、彼女はトランプ氏と話せる数少ない閣僚の一人だと思ったが、やっぱり内心はトランプを馬鹿にしていたのか。この女性政治家も、別の意味で怖い人だと思う。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
1月18-3月26日 国連軍縮会議 first part(ジュネーブ)
18-3月26日 フィリピン第18期国会第2常会第3部
8-17日 UN社会開発委員会 第59回会合(ニューヨーク)
8-21日 全豪オープン
11-17日 中国春節休暇(12日旧正月)
15日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ビデオ会議)
15日 ロシア1月鉱工業生産指数発表
15日 米・ワシントン生誕日(ニューヨーク市場は全て休場)
15日 WTO(世界貿易機関)事務局長が正式選出
15日 ソユーズ2.1a(ISS無人補給機プログレスMS-16)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
15-16日 UNウィメン執行理事会 first regular session(ニューヨーク)
16日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
16日 EU2020年10-12月GDP改定値(EU統計局)
16日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星L19 60機)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
17日 米国1月小売売上高統計発表
18日 FOMC 議事録
18日 日本外務省・令和2年度 アジア・エネルギー安全保障セミナー「自由で開かれたインド太平洋とエネルギー・鉱物資源の現在」開催(オンライン)
18-19日 外務省主催・国連調達オンラインセミナーの開催
18-3月12日 APEC第1回高級実務者会合
18-3月26日 フィリピン第18期国会第2常会第3部
19日 軍縮委員会 organizational session(ニューヨーク)
19日 EU教育・若年・文化担当相理事会(ブリュッセル)(教育)
19日 ミュンヘン安全保障会議(オンライン)
20日 ニジェール大統領選挙決選投票
21日 ラオス第9期国民議会議員選挙および第2期地方議会議員選挙
21日 アンタレス(ノースロップグラマン社商用補給機15号機)打ち上げ(ワロップス飛行施設)
<22-28日>
22日 EU外相理事会(ブリュッセル)
22日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
22日 ロシア2020年貿易統計発表
22-26日 国連開発政策委員会 第23回会合(ニューヨーク)
22-26日 WFP執行理事会 first regular session(ローマ)
22-3月19日 国連人権理事会 第46回会合
22日 日本・竹島の日
22-23日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会 非公式会合(ポルトガル・ビラモウラ)
22-23日 パキスタン・カーン首相がスリランカを訪問
22-25日 EU欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
22-26日 UN開発政策委員会 第23回会合(ニューヨーク)
23日 ユーロスタット1月CPI発表
23日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
23日 日本・天皇誕生日
24日 メキシコ2020年12月小売・卸売販売指数発表
25日 メキシコ1月雇用統計・2020年第4四半期GDP発表
25日 米国2020年第4四半期および2020年年間GDP発表(改定値)
25日 日本・国公立大2次試験前期日程開始
25-26日 EU競争力担当相理事会(ブリュッセル)
25-2月2日 ベトナム第13回共産党大会
26-27日 G20財務相・中央銀行総裁会合(ビデオカンファレンス)
26日 米・PCE発表(商務省)
26日 メキシコ1月貿易統計発表
26日 ブラジル2020年12月全国家計サンプル調査発表
26日 インド2020年第3四半期GDP発表
28日 中国2月PMI発表(国家統計局)
28日 エルサルバドル議員選
28日 米ゴールデングローブ賞授賞式(カリフォニア・ビバリヒルズ)
28日 PSLV(ブラジル地球観測衛星Amazonia-1等)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問