キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年2月9日(火)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
先週、ニクソン、レーガン政権で財務長官、国務長官などを歴任したジョージ・シュルツ氏が100歳で亡くなった。第二次大戦後の米共和党黄金時代を支えた偉人の一人。個人的には、トランプ氏が一期で終わるのをしっかり見届けるようにして逝ったシュルツ氏がトランプ政権を如何に評価していたのか、とても気になるところだ。
シュルツ氏はニューヨーク出身、プリンストン大卒。第二次大戦中は海兵隊に所属し、戦後マサチューセッツ工科大で博士号を取得。シカゴ大経営大学院学部長から、ニクソン政権で労働長官、行政管理予算局(OMB)の初代長官、財務長官に就任、その後を建設大手ベクテルの社長を経て、レーガン政権で国務長官に就任する。
絵に描いたような共和党の政策エリートだが、決してエリート臭さはなく、人間味ある人格者でもあった。安倍晋三首相の父安倍晋太郎元外相と親交が深かったが、晋太郎大臣が親しみを込めてシュルツ長官のことを話す姿を同大臣の秘書官事務取扱だった筆者は今も覚えている。二人の信頼関係は本物だった。ご冥福をお祈りしたい。
もう一つ、今週気になったニュースがブリンケン新国務長官と中国の楊潔篪共産党中央政治局委員の電話会談だ。この会談につき時事通信は「米中外交トップが舌戦 『核心的利益』で対立―『一つの中国』は再確認」と報じた。これだけ読むと、台湾をめぐる米中間で意見が一致したかのようにも読めるのだが・・・。詳しく分析してみよう。
時事の次の報道ぶりは極めて正確だ。「台湾問題について楊氏は、米中関係で『最重要かつ最も敏感な核心的問題』だと説明し、中国大陸と台湾を不可分とする『一つの中国』原則の順守を求めた。中国外務省によれば、ブリンケン氏は『一つの中国』政策を実行する立場に変化はないと確認した。」と書いている。
あれ、「一つの中国」政策を堅持してきた筈の米国が「一つの中国」原則を受け入れたの?そんな筈はないだろう。皆さん、この違いがお分かりだろうか。実は台湾に関する米中の立場は微妙に異なっている。注目すべきは中国側が使う「原則」と米側が使う「政策」という言葉の違いなのだが、これだけでわかる人は相当のプロだろう。
中国は一貫して「一つの中国」原則One China Principleの順守を米国に求めてきた。これに対し、米国は1972年以来一貫して「一つの中国」政策One China Policyを実行してきた。そうした「政策」の下で米国は、1972年の米中共同コミュニケで中国側の「中国は一つ」との立場(原則)を「アクノレッジ(知っている)」としているだけだ。
同時に、米国は1979年の台湾関係法により、中国との外交関係樹立は「台湾の未来が平和的に解決されることを期待することを基礎とし」、「台湾に、あくまで台湾防衛用のみに限り米国製兵器の提供」を行い、「台湾居民の安全、社会や経済の制度」を守る「防衛力を維持し、適切な行動を取る」義務を負うことも「政策」としてきた。
要するに、ブリンケン国務長官が言ったのは、こうした米国のOne-China Policyが「変わらない」ということだけで、中国のOne-China Principleを受け入れた訳では決してない、ということだ。更に、ブリンケン長官は「台湾を含むインド太平洋地域の安定を脅かす行為には、同盟国と連携し中国に責任を負わせる」とまで強調している。
米中の溝はむしろ広がっていると見るべきだろう。
〇アジア
ミャンマーのクーデターについては様々な続報があるが、伝聞情報ばかりで、真相は未だ不明だ。恐らく間違いないことは、国軍は何が何でもスーチー元国家顧問を政治に関与させたくない、ということぐらい。今のところ、米側の対応も慎重のようだし、これは長期戦になりそうである。
〇欧州・ロシア
Polexitという言葉があるらしい。ポーランドEU離脱だが、今のポーランドにとっては自殺行為に近い。他方、ポーランド内政は権威主義的傾向が強く、EUとは相容れない部分も少なくない。イギリスは欧州大陸の外だったから良いが、万一、内陸ポーランドで反EU感情が高まったら、これは本当の「終わりの始まり」にもなりかねない。
〇中東
イスラエル首相が収賄容疑の裁判に出廷した後、突如立ち去ったという。その後も裁判は同首相なしで続いたそうだが、ネタニヤフという人は恐ろしく「人を食った」政治家なのか、それとも百戦錬磨の「余裕」の結果なのかは分からない。バイデン政権にとっては、イランも手強いが、イスラエルもそれ以上に手強い相手となるに違いない。
〇南北アメリカ
世論調査で、2024年にトランプ前米大統領が再出馬することに関し、共和党支持者の間でも関心が急落しているらしい。英語でもOut of sight, out of mindという言葉がある。去る者は日日に疎しの英語版だが、本当にこのままトランプは消えていくのだろうか。希望的観測である可能性は未だ捨てきれないのだが・・・。
〇インド亜大陸
インド政府の農業新法に対する農民の抗議運動が続く中、北部ではヒマラヤ氷河の一部が崩れ川に落ちて大洪水が発生、150人が行方不明、50人以上が死亡したらしい。可哀想に、これも地球温暖化の結果なのか、現時点で原因は不明のようだ。今週はこのくらいにしておこう。
1月18-3月26日 国連軍縮会議 first part(ジュネーブ)
18-3月26日 フィリピン第18期国会第2常会第3部
2月1-9日 WHO執行理事会 第148回会合(ジュネーブ)
8日 メキシコ1月自動車生産・販売・輸出統計発表
8日 ソマリア大統領選挙
8日 トランプ前大統領の弾劾裁判開始
8日 北朝鮮の朝鮮人民軍創建日
8日 日本・10都府県を対象とする緊急事態宣言の延長開始
8-11日 欧州議会本会議(ストラスブール)
8-17日 UN社会開発委員会 第59回会合(ニューヨーク)
8-21日 全豪オープン
9日 メキシコ1月CPI発表
9日 ブラジル1月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
9日 軍縮諮問委員会 第75回会合(ニューヨーク)
9-12日 UNICEF執行理事会 First regular session(ニューヨーク)
10日 ブラジル2020年12月月間小売り調査発表
10日 中国1月CPI発表
10日 米国1月消費者物価指数(CPI)発表
11日 メキシコ2020年12月鉱工業生産指数発表
11日 軍縮諮問委員会 第75回会合(ニューヨーク)
11日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星L19 60機)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
11-13日 韓国旧正月休暇
11-17日 中国春節休暇(12日旧正月)
12日 インド2020年12月鉱工業生産指数発表
12日 ロシア中央銀行理事会
13日 日本・新型コロナウィルス対策に関する改正特別措置法などが施行
13-14日 日本・大学入学共通テスト特例追試験
14日 中央アフリカ大統領選挙決選投票
14日 スペイン・カタルーニャ自治州議会選
<15-21日>
15日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
15日 ロシア1月鉱工業生産指数発表
15日 米・ワシントン生誕日(ニューヨーク市場は全て休場)
15日 ソユーズ2.1a(ISS無人補給機プログレスMS-16)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
15-16日 UNウィメン執行理事会 first regular session(ニューヨーク)
16日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
16日 EU2020年10-12月GDP改定値(EU統計局)
17日 米国1月小売売上高統計発表
18-19日 外務省主催・国連調達オンラインセミナーの開催
18-3月12日 APEC第1回高級実務者会合
18-3月26日 フィリピン第18期国会第2常会第3部
19日 軍縮委員会 organizational session(ニューヨーク)
19日 EU教育・若年・文化担当相理事会(ブリュッセル)(教育)
20日 ニジェール大統領選挙決選投票
21日 ラオス第9期国民議会議員選挙および第2期地方議会議員選挙
21日 アンタレス(ノースロップグラマン社商用補給機15号機)打ち上げ(ワロップス飛行施設)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問