外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2021年2月8日(月)

デュポン・サークル便り(2月5日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンでは週末にかけて今シーズン初の本格的な雪となり、今週の前半はワシントン近郊の学校はほぼみな閉鎖か、2時間遅れの始業となりました。コロナウイルスも、南アフリカやイギリスで発見された変異種がとうとう米国内でも発見され、数種類のワクチンが承認され終わりが見えてきたかと思ったコロナ対策も、まだまだ先は長そうです。日本でも東京や大阪を含む10都道府県で緊急事態宣言が37日まで延長されましたが、日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。先週、不可抗力でお休みしてしまったデュポン・サークル便りですが、また頑張って再開します。よろしくお願いします。

ワシントンでは16日に米連邦議会議事堂が、先鋭化した一部のトランプ前大統領の支持者に襲撃されてから2週間後の120日、警備に厳戒態勢が敷かれる中、大統領就任式が行われ、バイデン政権が発足しました。

バイデン新政権は、「1にコロナ、2にコロナ、3,4がなくて5にコロナ」とでも言わんばかりです。コロナウイルスに対するワクチンの全米配布と国民への接種推進、コロナウイルスの感染拡大が終わりを見せないことで、社会活動や経済活動に対する規制が続く中で職を失った米国民への補助金や、経営が厳しくなった企業に対する財政支援を中心とする大型景気対策法案の成立を目指して、政権発足直後から動き始めました。外交政策でも、大統領就任式直後に、早々と気候変動に関するパリ協定への復帰を宣言。閣僚人事も、いつまでもポストが埋まらず空席が続いていたトランプ前政権とは対照的に、ジャネット・イエレン財務長官、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官、「ピート市長」ことピート・ブティジェッチ運輸長官などをはじめとする主要閣僚が政権発足後1週間で次々と上院でその指名を承認されました。国家安全保障会議(NSC)や国家経済会議(NEC)など、上院の承認を必要としない人事についても、順調にポストが埋まっています。先週、NSCに新設されたインド太平洋担当調整官ポストに、クリントン政権時代にアジア太平洋担当国防次官補代理、オバマ政権時代に東アジア太平洋担当国務次官補を務め日本でもよく知られるカート・キャンベル氏が就任したことは、日本を含めたアジア系メディアで大きく取り上げられました。4日(木)には、バイデン大統領が国務省で外交政策について演説をし、「アメリカは戻ってきた(America is Back)」と宣言。「同盟を修復し、もう一度世界と関与していく」と述べ、トランプ前政権以前のアメリカ外交の復活に向けて強い意欲を示しました。

順調な滑り出しを見せたかのように見えるバイデン政権ですが、国内政治に目を向けると前大統領が残した「トランプ劇場」の余韻はまだまだ残っています。中でも注目されるのが28日前後から始まる予定のトランプ前大統領の2度目の弾劾裁判です。弾劾裁判については、進め方、期間などについてまだまだチャック・シューマー民主党上院院内総務とミッチ・マコーネル共和党上院院内総務の間で調整が続いています。前回の弾劾裁判のように、できるだけ期間を短くしてこの話を終わりにしたい共和党に対して、民主党は「トランプ前大統領は1月6日の議事堂襲撃事件を煽動した責任を取らなければいけない」と主張、何とかして目に見える形でトランプ前大統領に責任を取らせたい意向です。弾劾裁判で有罪の判決を出すためには、67票必要となることから、先週一部の民主党上院議員の間では、共和党上院議員17人が離反しない可能性を見越して、「弾劾裁判の結果はどうあれ、トランプ大統領を強く非難する譴責決議を上院で可決し、この決議の中でトランプ前大統領が今後、一切の公職に就くことを禁じる文言を盛り込もうとする動きが始まりました。弾劾裁判に向けてトランプ前大統領に証言を求める動きもありましたが、トランプ前大統領側はこの要請を拒否しています。

また、先週から今週にかけての政治ニュースのトップを飾っているのは、トランプ支持を公言するジョージア州選出のマジョリー・テイラー・グリーン下院議員の言動に対する議会の対応です。右議員は、昨年の選挙で議員に当選する前から「学校での銃乱射事件はやらせ」だとか、「QANON(極右集団)は愛国者の集まり」「去年の大統領選挙では広範な不正があった」などの問題発言を連発していたことが先月メディアで報じられ、彼女の言動を問題視する他の議員などから、議員辞職すべきだという声が上がっていました。グリーン議員は「今は考え方を改めた」とケビン・マッカーシー共和党下院院内総務との会議で述べるなど、なんとか議員辞職を避けるべく頑張っていましたが、4日(木)に下院本会議で、同議員はすべての委員会からの所属を解かれることが決まりました。

「トランプ後のアメリカ」に向けて進みたいバイデン政権の意向とは裏腹に、国内を見ればトランプ前大統領の負の遺産がまだまだてんこ盛りのアメリカ。まずは、来週にも始まる2度目の弾劾裁判の行方がどうなるのか、注目されます。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員