キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年1月26日(火)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
先週20日に行われたバイデン新大統領の就任式は実に異様だった。議会議事堂から見下ろすモールは黒い金属メッシュのフェンスで覆われ、立ち入り禁止となった。25000人もの州兵が配備され、各地にチェックポイントが設置された。「まるでバグダッドのグリーンゾーンの如き厳重警備だ」とある米識者は語ったが、冗談じゃない!
グリーンゾーンではスチール製フェンスなど全く役に立たない。弱く軽すぎて自動車爆弾を阻止できないからだ。本当のグリーンゾーンは、恐らくトランプ前大統領が夢に見たであろう、高く分厚いコンクリート製の巨大な壁で覆われている。それでも、反米勢力が郊外から打ち込んでくるロケット弾の着弾だけは阻止できなかったが・・・。
それはともかく、就任式から一週間。トランプさんは一体今、どこにいるのか。CNNばかり見ていると、バイデン新政権は、まるでトランプ政権の4年間を黙殺するかの如く、矢継ぎ早に新政策を打ち出している。勿論、トランプ氏の影は今も見え隠れするのだが、どうやら連邦議会も、「ポスト・トランプ」に向けて動き始めたようだ。
トランプ前大統領の弾劾裁判は2月8日の週に始まるという。ロイターなどは、「共和党議員の間で亀裂」が深まり、「弾劾賛成派と反対派がメディアで公開論争」などと報じているが、それは半分希望的観測だろう。弾劾成立には共和党議員17人の賛成が必要だが、まだまだトランプ氏の力を恐れる共和党議員は少なくないからだ。
先週もう一つ気になったのが中国の動きだ。国営メディアは全人代常務委員会が中国海警局の任務や権限を定めた「海警法」を可決したと伝えた。「中国が管轄する海域に違法に入った外国の船舶を強制的に排除したり、差し押さえたりする権限」を与え、「停船命令や立ち入り検査に従わない場合は武器の使用も認める」という。
更に、報道によれば、「中国が管轄する海域や島などに外国の組織や個人が設けた建造物なども強制的に取り壊せる」権限も与えるのだそうだ。早速某テレビ局から説明を求められた。「海警局」とは中国の海上法執行機関であり、米国の沿岸警備隊や日本の海上保安庁に相当する機関。そのくらいは、誰でも知っているだろう。
昔は「ファイブドラゴンズ」、すなわち、国土資源部国家海洋局海監総隊(海監)、公安部辺防管理局公安辺防海警総隊(海警)、交通運輸部海事局(海巡)、農業部漁業局(漁政)、海関総署緝私局(海関)、が海上法執行を別々に担当していたが、これらが2013年に統合され、2018年には一括して武装警察部隊に編入されたようだ。
日本の海上保安庁とは異なり、「中国海警局」の実態は、人民解放軍の一部である武装警察の隷下にある海警総隊が行う海上法執行活動だ。当然、その活動は中国共産党中央と中央軍事委員会の集中統一指導を受ける。日本では海警局の船舶を「公船」と呼ぶが、その実態は海軍に「限りなく近い」ものになりつつある。
今回の法制定の目的につき日本の専門家は「係争がある国々の行動を抑止しようという意図がある」「海洋権益を拡大しようと一歩一歩、行動していて今回の法律の制定もその一環」だと説明している。筆者に異論はない。しかし、中国は今回の法制定で、初めて「武器使用」や「建造物取り壊し」が可能になった訳では決してない。
従来から「公船」は武装しており、その気になれば「建造物破壊」だって十分可能な能力を持っている。されば、法制定の目的は「新たな抑止力の強化」というより、海警局「公船」の指揮命令系統、交戦規程(rules of engagement)、特に実力行使の条件を明確にすることにより、不測の事態の回避を狙ったのではないかと筆者は見る。
バイデン政権の対中強硬姿勢は変わらない。されば、東シナ海や南シナ海での海上保安庁や米海軍との衝突発生の可能性も十分あるだろう。されば中国は、海警局の指揮命令系統の混乱や、前線の司令官個人による判断ミスや誤算を最小限に抑え、外国との不必要な誤算に基づく衝突を回避しようと考えているのかもしれない。
それ自体は結構なことだろうが、逆に言えば、中国が本気で東シナ海や南シナ海での海洋覇権確立を目指し、これまで以上に活動を強化しようとする証左と見ることも可能だ。そうであれば、日米側もこの種のrules of engagementをより明確化し、中国を抑止しつつ、不必要な誤算に基づく衝突を避ける努力が求められるだろう。
〇アジア
中国軍戦闘機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したのに対し、米国務省は「台湾が十分な自衛能力を維持するよう支援していく」との声明を公表した。トランプ政権は台湾問題で政権末期に相当踏み込んでいたが、バイデン政権は前政権の方針を変えないらしい。今回は中国の「テスト」にバイデン政権が合格した、ということかな?
〇欧州・ロシア
ロシア全土で反体制派指導者の釈放を求める抗議集会が続いている。過去10年で最も激しい反政権デモで、拘束者は3千人を超え、一部参加者は過激化したという。同指導者に実刑を科せば、デモは更に拡大するかもしれない。さてさて、プーチン氏のお手並み拝見というところだが、彼に往年のような力量はあるのだろうか。
〇中東
中東でもバイデン政権は同盟国重視を模索している。最近米日刊紙や外交専門誌で、中東における中国の影響力拡大や同地域の米同盟国の結束をテーマにした小論が目立つ。確かに、トランプ政権により中東における米国の同盟ネットワークはかなり劣化してしまった。これらを再構築するのは決して容易ではなかろう。
〇南北アメリカ
小さい話だが、ホワイトハウスの報道官による定例ブリーフィングが復活した。昔外務省北米局にいた頃は、まず同ブリーフの記録全文に目を通すのが朝の日課だった。それがトランプ政権では殆ど意味がなくなり、大統領のツイートばかり注目された。実に馬鹿げた4年間だったと思う。ようやくワシントンは元に戻り始めたのだろうか。
〇インド亜大陸
インドがコロナワクチン外交を本格化させている。中国に対抗するのか、ネパール、ブータン、バングラ、ミャンマーに無償供与するそうだ。先日筆者の大学の同期会でも「日本のワクチン製造能力(または意図)の欠如」が話題になったが、インドは大したものである。今週はこのくらいにしておこう。
18-3月26日 国連軍縮会議 first part(ジュネーブ)
18-3月26日 フィリピン第18期国会第2常会第3部
20-27日 UNESCO 執行理事会 第210回会合(パリ)
25日 EU外相理事会(ブリュッセル)
25日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
25日 東地中海問題でトルコとギリシャが協議(イスタンブール)
25日 米下院が上院にトランプ前大統領の弾劾訴追決議送付
25日 トリニダード・トバゴ下院議員選
25-28日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
25-29日 ダボス・アジェンダ(バーチャル形式)
25-2月2日 ベトナム共産党大会開幕(ハノイ)
26日 一般問題理事会(ブリュッセル)
26日 インド共和国記念日
26日 メキシコ2020年11月小売・卸売販売指数発表
26日 国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(午後8時)
26日 日本・経団連労使フォーラム(オンライン)
26-27日 米国FOMC
27日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星18 60機)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
28日 米国2020年第4四半期および2020年年間GDP発表(速報値)
28日 ブラジル2020年11月全国家計サンプル調査発表
29日 米・2020年12月米個人消費支出(PCE)(商務省)
29日 新型インフルエンザ等対策特別措置法等改正案が衆院で審議入り(見込み)
30日 世界保健機関(WHO)新型コロナ緊急事態宣言から1年
30-31日 外務省・国際協力機構(JICA)および特定非営利活動法人国際協力NGOの三者共催で「国際協力キャンペーン・EARTH CAMP」を開催
<2月1-7日>
1日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
1日 EU2020年12月失業率発表
1日 ブラジル下院議長・上院議長選挙
1日 インド・暫定予算案発表
1-5日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行理事会 First regular session(ニューヨーク)
1-5日 INCB(国際麻薬統制委員会) 第130回会合(ウィーン)
1-9日 WHO執行理事会 第148回会合(ジュネーブ)
2日 ブラジル2020年12月鉱工業生産指数発表
4日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
4日 国連軍縮諮問委員会 第75回会合(ニューヨーク)
5日 米国2020年12月貿易統計発表、1月雇用統計発表
5日 長征3B/E(天絵三号)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
7日 エクアドル大統領および総選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問