外交・安全保障グループ 公式ブログ

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2021年1月25日(月)

デュポン・サークル便り(1月22日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンDC近郊は、16日の連邦議会議事堂襲撃事件以来、ずっと落ち着かない日が続いていました。大統領就任式当日の警備体制に万全を期すため、ワシントンDCとメリーランド、バージニア各州を繋ぐ橋は114日以降、すべて封鎖されました。ワシントンDC市内も、大統領就任式が行われる連邦議会議事堂からホワイトハウスまでの地域はすべて通行止め。メトロ(地下鉄)も就任式が行われるエリアを通る駅はすべて封鎖されるなど、戒厳令さながらの物々しい状態となりました。大統領就任式翌日の21日、ワシントンDCと近郊の州を繋ぐ橋は順次、封鎖が解除されていますが、まだまだDC市内ではバリケードの除去作業が続いており、日常が戻るのは来週になりそうです。

コロナウイルスの影響と、16日の連邦議会議事堂襲撃事件を受けた厳重な警備体制のダブルパンチで、120日に行われた大統領就任式は、近年に例を見ない形式での開催となりました。通常、大統領就任式の日は、就任式が行われる連邦議会議事堂のバルコニーが見えるナショナルモールのエリアは、遠目でも就任式を見ようとする市民で埋め尽くされます。就任式終了後、ホワイトハウスまで新大統領・新副大統領とその家族を乗せた車列が通る道も、いつもなら車列をほんの一瞬でも見ようとする市民で沿道が埋め尽くされます。ホワイトハウスまで12ブロックほど近づいたところで、新大統領・新副大統領とその家族が車から降り、沿道の市民に手を振りながらゆっくりと歩いてホワイトハウスまで向かうのも恒例の行事です。また、就任式当日の夜は、様々な団体が主催する大統領就任式祝賀パーティーがワシントン市内の大小のホテルで開催され、市内は、パーティーに出席するために着飾った人を乗せた車で一杯になります。また、大統領就任式と祝賀パーティーで新大統領夫人が来たドレスなどは事後、スミソニアン博物館に寄付され、展示されます。

ですが、今年は、状況が状況なので、大統領就任式に対面で出席したのは、元大統領夫妻や、連邦議員など、ごく一部の人のみ。コロナウイルスの影響で、一般市民はいつものようにモールで就任式を見ることができませんでした。また、就任式後に行われる連邦議会議事堂からホワイトハウスまでの祝賀パレードも、パレードを報道する報道関係者以外は沿道への立ち入りができず、バーチャル・パレードとなりました。当然、いつもなら華々しく開催される祝賀パーティーもすべて中止。代わりに、「就任祝賀コンサート」が開催され、ブルース・スプリングスティーンなどの著名アーティストが参加し、コンサートの様子はテレビで全米に生中継されました。

そんな異例づくしの大統領就任式で一貫して強調されたのは「団結(unity)」。共和党の党色である赤と民主党の党色である青を混ぜるとできる色の「紫」をあしらった洋服をカマラ・ハリス副大統領だけでなくミシェル・オバマ前大統領夫人も、ヒラリー・クリントン元大統領夫人が揃って着ていたことが、報道では繰り返し報じられました。それだけでなく、通常は政策について何らかのメッセージを出す新大統領の就任演説も様変わりでした。今回は「融和」「和解」「団結」を前面に打ち出した、ジョー・バイデン新大統領の人柄が良く表れる演説です。通常はこの手の演説に厳しい評価を出すメディア各局も、「内容的には決してバイデン大統領のベストのものではないが、この演説のポイントは内容ではなく、融和を前面に出したトーンが大事だった」という評価がほとんど。バイデン新政権発足よりも、「脱トランプ祝賀」ムードが色濃く漂う就任式となりました。

そんなトランプ前大統領は、最後の最後まで歴代大統領が行ってきた慣習をぶっちぎり続けました。歴代大統領は、通常、次期大統領をホワイトハウスに招待し、報道関係者に冒頭、取材をさせた後で、事務の引継ぎを行います。更に、就任式前夜には次期大統領夫妻を米国版迎賓館であるブレア・ハウスに招待し、就任式にも夫妻で出席。就任式後には新大統領・新副大統領を乗せた車列が就任祝賀パレードに向けて出発するのを見届けてからワシントンを出発します。また、大統領と大統領夫人がそれぞれ、新大統領夫妻に手紙を残すのも重要な慣習の一つです。

ところが、トランプ前大統領夫妻は、これらの慣例をことごとく破りました。今に至るまで敗北宣言を出していないのは序の口。バイデン大統領夫妻をホワイトハウスに引継ぎのために招待することも、就任式前夜のブレア・ハウス宿泊に招待することもしませんでした。それどころか、なんと大統領就任式をボイコット。就任式当日の早朝、はやばやとワシントンDCを後にし、大統領専用機でフロリダ州マー・ラー・ゴに出発してしまいました。かろうじて、トランプ前大統領がバイデン新大統領に手紙を残したことは報じられましたが、メラニア夫人については、ジル・バイデン新大統領夫人に残した手紙すらスタッフに書かせていたことが早々とメディアに暴露されました。

対照的にマイク・ペンス前副大統領は就任式数日前にハリス副大統領に電話。大統領就任式にも夫妻で出席し、ハリス副大統領夫妻が祝賀パレードの車列に乗り込んだのを見届けてから議事堂を去っただけでなく、ハリス副大統領夫妻を乗せる車が議事堂前に到着するのを待つ間、副大統領夫妻と笑いながら談笑していた様子がテレビで報じられ、最後の最後まで「副大統領としての責務を淡々と果たしているだけなのに、上司が奇天烈すぎて、通常以上の高評価を得る」というパターンが崩れることはありませんでした。

ですが、当然このような祝賀モードがいつまでも続くわけではありません。また、上院でトランプ前大統領を二度目の弾劾裁判にかけるか否かをめぐって、上院の民主党と共和党の指導部の間で調整が続いています。まだまだ、ワシントンに平穏な日常が戻ってくるまでにはしばらく時間がかかりそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員