キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年1月19日(火)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
今週20日にワシントンで大統領就任式がある。1月6日の議会議事堂襲撃事件後に様々な政治的動きが試みられたが、結果的に、憲法修正25条は発動されず、下院は暴動扇動を理由に二度目の大統領弾劾を即決したものの、上院は「有罪」に向けて動きそうにない、という結果だ。まあ、大方の予想通り、というところだろう。
要するに、民主党はトランプ氏を辞任に追い込むことに失敗したのだ。となると今後の注目点は、①バイデン新大統領就任後も上院がトランプ弾劾裁判に関する審議を続けるのか、②トランプは自己と家族や顧問弁護士などに対する事前の包括的恩赦を決断するのか、③仮に恩赦を実施した場合、法的に有効なのか、などに移るだろう。
もう一つの注目点は、就任式がある20日のワシントンで一体何が起きるかだ。現在既にワシントンは厳戒態勢下にあり、最大二万五千の州兵が配備されるという。そこで騒ぎを起こせば、ProudBoysであれQAnnonであれ、相当の打撃を受ける。騒動が起きるとすれば、各州都で行われる抗議運動がきっかけになるのではないか。
興味深い報道が幾つかある。1月6日の議事堂乱入の模様はテレビで生中継された。心ある関係者は直接、あるいはイヴァンカやクシュナーを通じて、何とかトランプ氏に連絡を取ろうとしたが、結局連絡はつかなかったという。理由は簡単、トランプ氏はテレビ生中継放送を見ている間は電話等に決して出ないからだ、というのだ。
信じられない話だが、どうやら毎度のことらしい。トランプ氏がビデオメッセージで公式に「暴力を非難」したのは議事堂での騒ぎが始まってから6時間も経った後のこと。それも、クシュナー夫妻やホワイトハウス次席補佐官、ペンス副大統領らが説得した結果渋々応じたらしい。これがトランプ政権末期の恐るべき実態である。
トランプ氏が表舞台から退場することで、米内政に新しい時代は来るのか?筆者はあまり期待していない。たしかに、SNSを失い、ドイツ銀行を失い、PGAツアーの興行権も失ったトランプ氏の政治的生命は絶たれつつあるとも報じられるが、それは希望的観測に過ぎない。決してトランプ氏の力量を過小評価すべきではない。
トランプ氏の逆境での生き残り能力は実に見事。不動産事業で失敗しても、新たにプロレス事業に参入し、白人労働者層の心を知ることで新たな境地を切り開いた。自身がホストを務める人気TV番組「アプレンティス」が終了したら、今度は政治に自己実現の可能性を賭けた。大統領選敗北の次にトランプ氏は一体何を見付けるのか。
〇アジア
北朝鮮で最高人民会議が開かれ、昨年までの経済発展5カ年戦略は電力生産など経済目標を達成できず、責任者の無責任な態度や旧態依然の事業方式が問題だと結論付けたそうだ。おいおい、いくら何でも可哀想だろう。こんなことで粛清される経済分野の幹部に就任するのは命懸けのギャンブルに近い。心から同情申し上げる。
〇欧州・ロシア
毒殺されかかりドイツで治療を受けていたロシアの反体制派指導者がロシアに帰国直後拘束された。同氏の執行猶予は取り消され、実刑になる可能性もあるという。可哀想に、ロシアで野党を張るのも命懸けのようだ。毒殺されなくても、政治的に抹殺される。これが運命でも、戦う政治家がいるだけ、ロシアは中国よりマシである。
〇中東
1月17日は阪神淡路大震災から26年だが、実は湾岸戦争が始まったのも30年前のこの日だった。忘れもしない、当時は「too little, Too late」と揶揄され、日本は屈辱を味わった。恐らく若い人はそんなこと知らないだろう。同戦争後、米軍の湾岸地域駐留が恒常化し、更に2003年のイラク戦争で我々はイラクを「壊してしまった」。今の湾岸地域の混乱の根源はイラクのサッダーム・フセインの大誤算である。
〇南北アメリカ
Kキャンベル氏がバイデン政権のNSCでインド太平洋を担当することになった。本人はともかく、アジアの米同盟国には朗報だろう。同氏とはクリントン政権の国防省アジア担当時代に交渉したことがある。オバマ政権では国務省アジア担当次官補を務め、「アジアピボット」を推進。あれから苦節8年だが、期待したい人事ではある。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
18日 ユーログループ(ブリュッセル)
18日 キング牧師生誕記念日で米市場休場
18日 韓国・朴前大統領への賄賂事件でサムスン電子副会長の差し戻し審判決(ソウル)
18日 中国・2020年10-12月期のGDP(国家統計局)
18日 LauncherOne(ELaNa XX)打ち上げ(カリフォニア州モハベ/ボーイング747-400空中発射)
18日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星17 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
18-19日 アジア金融フォーラム(香港)
18-19日 UNWTO執行理事会 第113回会合(マドリード)
18-21日 欧州議会本会議(ストラスブルー)
18-3月26日 国連軍縮会議 first part(ジュネーブ)
18-3月26日 フィリピン第18期国会第2常会第3部
19日 EU経済・財務相理事会(ブリュッセル)
19日 長征3B/E(天絵シリーズ)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
19-20日 ブラジル中央銀行、Copom
20日 第46代米国大統領就任式
20日 EU2020年12月CPI発表
20日 双曲線一号(方舟二号Fangzhou-2)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
20-27日 UNESCO 執行理事会 第210回会合(パリ)
21日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(金融政策)(独・フランクフルト)
21日 メキシコ2020年12月雇用統計発表
21日 ファルコン9(10機のStarlink, Whitney1,2, XR-1 等 )打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
22日 初めての核兵器禁止条約が発効
24日 ポルトガル大統領選挙
24日 日本・山形、岐阜県各知事選
<25-31日>
25日 EU外相理事会(ブリュッセル)
25日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
25日 トリニダード・トバゴ国民投票
25-28日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
25-29日 ダボス・アジェンダ(バーチャル形式)
26日 一般問題理事会(ブリュッセル)
26日 インド共和国記念日
26日 メキシコ2020年11月小売・卸売販売指数発表
26-27日 米国FOMC
28日 米国2020年第4四半期および2020年年間GDP発表(速報値)
28日 ブラジル2020年11月全国家計サンプル調査発表
29日 米・2020年12月米個人消費支出(PCE)(商務省)
30日 世界保健機関(WHO)新型コロナ緊急事態宣言から1年
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問