キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年12月18日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
ワシントン近郊は先日(16日)、初雪を迎えました。と言っても、本格的に雪が積もったのはペンシルベニア州との州境に近いメリーランド州北部で、DC市内やバージニアは、「雪→みぞれ→冷雨」という、翌朝の路面凍結にまっしぐらの一番いやなパターン。予想通り、17日朝は路面がスケートリンクと化し、政府機関は2時間遅れで始業。一日の予定が大きく狂ってしまいました。この寒さは当面続きそうな感じで、いよいよ冬の到来といった感じです。
今週のワシントンの最大のニュースは12月14日に全米各州で行われた選挙人集会(Electoral College)。この日の選挙人集会で各州の選挙人が大統領候補に対して行った投票結果は、事後、ワシントンDCに送られ、来年1月6日の連邦議会上下両院合同本会議場でその結果が報告されます。その後、合同本会議で選挙人による投票結果が認められて、正式に次期大統領が決定するという手続きです。ただ、この選挙人集会といい、来年初旬の上下両院合同本会議といい、通常の大統領選挙ではほとんど話題にならず、選挙結果を法律に則って正式に認定するための単なる手続きに過ぎません。というのも、通常は、投票日からほどなく選挙に負けた候補が「敗北宣言」を出し、対立候補の当選に祝意を表明、この時期には完全に政権移行モードに入っているからです。
ですが、今年は状況が違います。トランプ大統領は依然として敗北宣言を出していないどころか、ちょっと前まで「選挙人集会で『バイデン勝利』の結果が出たら、それを受け入れる」と言っていたのはどこ吹く風、確たる証拠を法廷で示すことができていないにも拘わらず、ペンシルベニア州、ジョージア州などの激戦州で投票結果を無効にすることを目指した法廷闘争を続ける姿勢を崩さなかったからです。
そのため、普通はほとんど関心を集めない選挙人集会や、1月6日の上下両院合同本会議に尋常でないレベルの関心が集まっています。トランプ大統領が根拠を示すことなく「俺は選挙で勝ったのに、選挙結果が操作された!」というメッセージをツイッターなどのSNSで先月3日の投票日以降、流し続けたため、トランプ大統領の岩盤支持層の極右勢力が、選挙人集会を妨害することに対する警戒感が全米で高まりました。その結果、ミシガン州では選挙人集会当日、集会が行われた州議会議事堂周辺の警備は厳戒態勢。アリゾナ州に至っては、選挙人集会の場所を州議会議事堂から別の場所に変更、集会の場所は選挙人の安全を考慮し、明らかにされませんでした。そのほかの州でも、選挙人集会に参加する選挙人に警備をつけるなど、物々しい雰囲気になりました。各テレビ局も、14日の選挙人集会当日は、各テレビ局とも各州で行われた集会の結果をトップニュースで扱っていました。
とはいえ、14日の選挙人集会の結果がこれまで出てきた各州の投票結果と変わるわけはなく、当日、改めてバイデン前副大統領の大統領選勝利が確認されました。そして、この結果を受けて、ようやく、議会共和党の中で「バイデン勝利」を認める議員が出てき始めました。特に、選挙人集会の結果をもってしても、いまだにバイデン前副大統領の選挙での勝利を認めようとしない共和党議員が大多数の中、選挙人集会の翌日の12月15日にミッチ・マコーネル共和党上院院内総務が、上院本会議での発言の際に「選挙人集会は意思決定をした。ジョー・バイデン次期大統領に祝意を表したい」と述べたことが、大きな話題となりました。当然、トランプ大統領はマコーネル上院院内総務に逆切れ、さっそく同上院院内総務はトランプ大統領のツイッター上で罵詈雑言の対象となっています。しかし、共和党上院院内総務という、議会共和党の中で最も重要なポストについているマコーネル上院議員が「バイデン当選」の結果を認め、バイデン氏を「次期大統領(President-elect)」と呼んだことで、今後、彼の動きに追随する議員が少しずつ増えてくるでしょう。
共和党側がまだまだトランプ大統領の往生際の悪さに振り回される中、バイデン次期大統領は粛々と次期政権の組閣を進めています。今週は、以前のデュポン・サークル便りで、大統領予備選から撤退して以降、ペーソスのきいたツイートや、フォックス・ニュースなど親トランプ大統領のメディアに積極的に登場することを通じてトランプ大統領批判を展開してバイデン氏を側面支援していた「ピート市長(Mayor Pete)」こと、ピート・ブディジェッチ元大統領候補が運輸長官に指名され、同性愛者であることを公言している人としては初の入閣となりました。ほかにも、国立公園やネイティブ・アメリカンの土地の管理を担当する内務長官に、デブ・ハーランド下院議員がネイティブ・アメリカンとしては初めて指名される予定であることが報じられるなど、選挙中から「米国の多様性を反映する組閣」を掲げていたバイデン氏ならではの人事が続いています。また、畑違いとはいえ、スーザン・ライス元国家安全保障担当大統領補佐官が、国内政策会議(Domestic Policy Council)議長に指名されたことは、バイデン次期大統領が、引き続きオバマ大統領の意見を尊重していることを垣間見させる人事として話題になりました。
このような人事を見れば見るほど、バイデン次期政権の要となるのは「チーム・バイデン/チーム・オバマ」であり、「チーム・クリントン」は完全に外野と化してしまったということ。2001年にブッシュ政権が誕生した時も、国防長官にドナルド・ラムズフェルド氏が指名されたことで、当然政権入りできると思っていた共和党系のシンクタンクの研究員の知人・友人の人生設計が大きく狂ってしまいましたが、今回は、民主党系の知人・友人の中に、人生設計が大きく狂ってしまう人がかなりの数出てくるかもしれません。例えば、日本のメディアによく登場する「チーム・クリントン」の民主党系知識人の皆さんは、いったいどうなってしまうのでしょうか。。。。他人事ながら心配です。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員