外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年12月1日(火)

デュポン・サークル便り(12月1日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週の11月26日(木)は、アメリカでは感謝祭という日本のお正月に当たる大行事でしたが、大統領選挙関連でも大きな動きがありました。11月23日(月)に、米一般調達局(General Service Administration, GSA)が、大統領選挙で勝ったのはジョー・バイデン前副大統領で、その結果、政権移行に向けた公式な手続きを始めることを認めるという決定を下したからです。GSAによるこの認定が出るまでは、正式な政権移行のプロセスを始めることができません。11月20日付の「デュポン・サークル便り」でもお伝えしたとおり、バイデン次期大統領は、すでに政権移行に向けてウェブサイトも立ち上げ、着々と情報発信を行っていますが、GSAが大統領選挙でバイデン次期大統領が勝利したことを認めるまでは、政権移行チームが連邦政府各省庁の職員と業務の引継ぎや申し送りをするために各省庁の建物に入ることもできません。また、政権移行チームの事務局はGSAの建物の中に置かれますが、GSAから認定が出るまでは当然、これもできないわけです。それだけでなく、GSAの認定なしには政権移行のために次期政権が使うことが認められている国家予算も支出が認められません。つまり、政権移行の手続きが著しく滞ることになるのです。

それでも、GSAが選挙結果の認定をしない間、選挙で負けた(はず)のトランプ大統領が大統領としての職務を遂行してくれていれば、まだいいのですが、肝心のトランプ大統領は、選挙が終わってからというもの、ほとんど公の場に姿を見せていません。アメリカ国内で再びコロナウイルスが爆発的に感染している中、コロナウイルス対策は二の次三の次、「選挙不正だ!」「選挙に勝ったのは自分だ!」と各州で着々と「バイデン当選」の投票結果が検証され認定されているにも拘わらずツイートするだけです。つまり、政権移行の手続きが始められない中、肝心の大統領が職務放棄しているに等しい状態が11月3日以降、ずっと続いているのです。

先週、GSAの認定を受けてようやく「政権移行手続きが始まる」とツイートしたトランプ大統領ですが、転んでもただでは起きません。大統領選挙の結果が正式に確定するためには、12月8日までに全米各州が選挙結果を認定し、その結果に基づいて12月14日に選挙人(electoral college)が投票することが必要です。12月8日までに選挙結果の認定を終えられない州については、状況によっては投票のやり直そこで現在、大統領の顧問弁護士であるルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長を筆頭にした弁護団はペンシルベニア、ウィスコンシンなど激戦州を中心とする複数の州で「選挙不正」を論拠に票の再集計を求める訴訟や、選挙結果認定の日付を遅らせることを求める訴訟を起こしています。

ですが、トランプ弁護団によるこれらの訴訟は今までのところ「証拠不十分」ですべて却下されています。しかも、トランプ陣営の要求が認められて票の再集計が行われたウィスコンシン州では、再集計してみたらバイデン次期大統領の得票数が微増したという皮肉な結果に。今週は激戦州のひとつであるジョージア州が票の再集計を始めます。ジョージア州は親トランプ派の共和党知事で、選挙結果の認定に重要な役割を果たす州務長官も共和党ですが、すでに州務長官が「トランプ政権に、票の再集計の件で圧力をかけられている」と公けに発言し、政権を批判しています。何はともあれ、今週は全米メディアや政治記者の関心がジョージア州に集まることは必至です。

トランプ陣営が最後の悪あがきをする中、バイデン陣営側は、着々と政権移行に向けたプロセスを進めています。23日にGSAが選挙結果を認めたのを受けて、国務長官を含む、バイデン政権の外交政策で重要に役割を果たすことになる政権幹部の人事を発表しました。国務長官にはバイデン次期大統領に長年仕えてきたアントニー・ブリンケン氏が指名されました。同氏はニューヨーク出身で、父親のアラン・ブリンケン氏は長年の民主党にとっての主要献金者。1988年に父親のアラン氏と一緒に当時の民主党大統領候補だったマイケル・デュカキス・マサチューセッツ州知事の選挙活動を手伝ったのをきっかけに、政治家への政策アドバイスをする世界に足を踏み入れたベテランです。上院外交委員会で長年、民主党側の委員会事務局長としてバイデン次期大統領を支え、オバマ政権では副大統領安全保障担当補佐官を経て、国務副長官を務めました。今年の大統領選挙ではバイデン陣営の首席外交政策アドバイザーを務めています。選挙終了直後は、バイデン陣営がオバマ前大統領に配慮して、スーザン・ライス元国家安全保障大統領補佐官を国務長官に指名するのではという観測も流れましたが、バイデン氏がより信頼するブリンケン氏が指名された形となりました。

ホワイトハウス内でバイデン政権の外交・安全保障政策形成の要となる役割を果たす国家安全保障大統領補佐官にはジェイク・サリバン氏が指名されました。サリバン氏はヒラリー・クリントン国務長官の下で国務省政策企画部長を務めましたが、アントニー・ブリンケン(当時)国家安全保障担当副大統領補佐官が国務副長官に指名されたため、その後任として副大統領国家安全保障担当補佐官に就任しました。国家安全保障担当副大統領補佐官時代は、「ややこしい問題の担当はジェイク・サリバン」と言われ、複雑な省庁間調整が必要な外交・安全保障問題は必ずと言っていいほど彼が調整に奔走したと言われています。また2016年大統領選挙では彼はヒラリー・クリントン元国務長官の首席外交政策アドバイザーを務めており、当時、彼女が当選していれば彼が国家安全保障担当大統領補佐官に就任するのか確実、と言われていました。彼は「チーム・クリントン」から「チーム・オバマ/バイデン」にスムーズに移動しているので、こちらも順当な人事と言えるでしょう。

また、トランプ政権では閣僚級ポストから格下げされてしまった国連大使も、再びバイデン政権では閣僚級ポストに復活。こちらのポストにはリンダ・トーマス・グリーンフィールド元アフリカ担当国務次官補が指名されました。バイデン次期大統領のトランプ大統領に対する批判の一つが、政治任用ポスト以外で、自分の意向に沿わない官僚を左遷・更迭したり、辞職に追い込むことを厭わず、その結果、連邦政府全体を空洞化させた、というものでしたが、国連大使に指名されたトーマス・グリーンフィールド女史は、黒人としてはスーザン・ライス元国家安全保障担当大統領補佐官に続いて二人目というだけでなく、1982年に国務省に入省後、2017年にアフリカ担当国務次官補を務めて退職するまでの35年を国務省で過ごしたベテラン外交官です。

このような主要外交ポストの人選を見ても、バイデン次期政権人事の人脈については「チーム・バイデン」が主体となることが明確になりました。

そこで気になるのが国防長官人事です。選挙前はバイデン勝利の暁にはミシェル・フロノイ元国防次官が初の女性国防長官として指名されることがほぼ確実と思われていましたが、23日に発表された人事の中には国防長官が含まれていませんでした。外交・安保担当閣僚人事は国務長官、国防長官、国連大使、国家安全保障担当大統領補佐官の4名がまとめて発表されることが通例のため、国防長官人事が含まれていなかった23日の発表は、私にとっては意外でした。バイデン次期大統領は、「国内の分断に終止符を打つ」という閣僚の人選にあたって、共和党議員も対象に入れる意向を持っていると言われています。過去に、クリントン政権で共和党のウイリアム・コーエン(当時)上院議員が国防長官を務めた前例もありますし、なにより、ミシェル・フロノイは元は「知チーム・ヒラリー」。国防省が政権が変わるたびに発表する「4年毎の国防見直し(QDR)」に1990年代から何らかの形でかかわり続け、「QDRの母」という異名も持つ彼女、党派を超えて信頼されている人であることは間違いないので国防長官に指名されれば、スムーズに指名承認されることは確実ですが、アメリカでも「人事は水物」。もしかすると意外な人選がされるのかもしれません


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員