キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年11月20日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
トランプ大統領はまだまだ敗北宣言を出すことを拒み続けていますが、バイデン次期大統領は着実に、新政権発足に向けた準備を進めています。すでに政権移行に向けた専用ウェブサイトも立ち上がり、ホワイトハウスでバイデン次期大統領を支える柱となる上級顧問、大統領首席補佐官及び次席補佐官の人事も発表されました。上級顧問には大統領選中バイデン陣営で中心的な役割を果たしたマイク・ドニロン氏とジル・バイデン夫人の首席補佐官を長年務めたアンソニー・バーナル氏が、首席補佐官にはバイデン次期大統領の長年の側近でオバマ政権時には副大統領首席補佐官を務めたロン・クライン氏が、次席補佐官にはこちらも選挙時にバイデン陣営の組織化に重要な役割を果たして、大統領選を勝利に導いた初の女性選挙マネージャーであるジェン・オマリー・ディロン女史がそれぞれ指名されています(https://buildbackbetter.com/the-administration/white-house-senior-staff/)。
各省毎の政権移行チームもすでに発表されていますが、政権移行チームの参加者全員が政権入りするわけではありません。例えば、私のワシントンDCでの職場であるスティムソン・センターからは、2008年にオバマ大統領が当選した際、政権移行チームに当時のセンター長のエレン・ライプソン元国家情報会議副議長や、国連平和維持活動の研究を専門にするビクトリア・ホルト主任研究員が入っていました。ですが、最終的にホルトは国連担当の国務次官補代理として政権入りしたものの、ライプソンはスティムソン・センター所長の職に留まりました。
それでも、政府全体で3000~4000人と言われる政治任用ポストの人事を考える上で、誰が移行チームに入っているかは重要なポイントになります。
今回、ホワイトハウスの主要スタッフに任命された人たちの背景や政権移行チームに名を連ねている人をざっと見て、強く印象に残ったことが2つほどありました。一つは、今年の選挙で、政権人事の人脈については完全に「脱クリントン」で、「チーム・バイデン」「チーム・ハリス」+「チーム・オバマ」の混成部隊だということ。夏の党大会でも、オバマ夫妻の演説時間がクリントン元大統領・元国務長官夫妻よりもはるかに長く、「脱クリントン」の民主党という印象を強く持ちましたが、各省担当の政権移行チームは、バイデン次期大統領夫妻にゆかりの人、おそらくハリス上院議員つながりだろうと思われるカリフォルニア州出身の人に加えて、オバマ政権時に中堅幹部を務めた人、という構成になっています。また、女性が多いのも印象的です。
二つ目は、いつものことではありますが、東アジア政策を専門にする人がほとんどと言って良いほどいないということです。今回の政権移行チームをざっと見て、アジアを専門にしていることがぱっと見でわかるのは、国防省の政権移行チームに入っているイーライ・ラトナー新米国安全保障研究センター(CNAS)研究部長だけです。とはいえ、政権移行チームに序列が上過ぎて入っていない民主党系のアジア専門家が大勢いるのも事実です。例えば、カート・キャンベル元国務次官補、エバン・メデイロス元NSCアジア上級部長、バイデン次期大統領に上院外交委員会で長く務めたフランク・ジャヌージ・マンスフィールド財団所長などがその例でしょうか。
これらの人たちの政権入りの可能性を測る一つの重要な物差しが、選挙後の露出の高さです。政権入りの可能性が高い人ほど、かん口令が敷かれ、露出が減っていきます。例えば、国防長官指名がほぼ確実視されるミシェル・フロノイ元国防次官や、国家安全保障担当大統領補佐官就任の可能大と言われているアントニー・ブリンケン元バイデン副大統領国家安全担当補佐官などは、選挙戦が本格化し始めてからというもの、全くと言っていいほど、公の場に姿を見せていません。
その一方で、政権入りできるかどうか微妙なため、次期政権の人事を握る人にアピールしたい人は露出が高くなる場合がよくあります。バイデン政権人事情報もこんな視点から見ると、少し違った風景が見えるかもしれません。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員