外交・安全保障グループ 公式ブログ

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2020年11月6日(金)

デュポン・サークル便り(大統領選特別号パート2・11月6日)

[ デュポン・サークル便り ]


11月3日に行われた大統領・議会選挙から2日たった115日夜、この原稿を書いています。選挙から2日経った今日も、ジョージア、ペンシルベニア、アリゾナ、ノースカロライナ、ネバダ各州で「当確が出せないほど接戦(too close to call)」のまま開票が続いています。5日夜10時の時点でのアップデートでは、選挙当日3日の時点でトランプ大統領が大きくリードしていたジョージア州で大統領のリードがわずか2000票以下となり、得票率では事実上同率、同じくペンシルベニア州でもトランプ大統領のリードはどんどん小さくなっています。アリゾナ、ネバダ両州でもバイデン前副大統領がリード、現時点でトランプ大統領優勢が確実なのはノースカロライナ州だけという状況です。

バイデン前副大統領は現時点で、大統領選挙に勝利するために必要な選挙人270人のうち253人をすでに獲得しています。ですから、現在開票が続いている州のうち、自身が優位に立っているアリゾナ州とネバダ州に加えて、実質得票率で同率に並んだジョージア州、の3州のうちいずれか2州で勝利することができれば、270人の選挙人を獲得し当選が確定します。このため、まだ開票が続く各州、特に、20人を超える選挙人を抱えるペンシルベニア州、伝統的に共和党が強いジョージア州に加え、ネバダ州とアリゾナ州でいつ頃、投票結果の大勢判明がいつになるかに注目が集まっています。これら各州の州務長官や、選挙委員会の幹部が一日中、断続的に各テレビ局に登場しています。

選挙当日からほぼ24時間体制で連日登板している各テレビ局のアナウンサーやコメンテーターたちも、投票日から2日が経過して、さすがに疲労の色が濃厚です。目の下のクマを隠すため、男性はドーランが、女性はお化粧がどんどん濃くなってきています。

今晩の最大の話題はジョージア州で起こった「異変」です。ジョージア州は、かつては南部の州の中でも民主党が強い州として知られていました。ですが近年ジョージア州では、1992年のクリントン大統領を最後に民主党大統領候補が大統領選挙で勝てていません。2016年もジョージア州はトランプ大統領が取りました。さらに現在のジョージア州政府は、知事も州務長官も共和党であり、特にプライアン・ケンプ州知事はトランプ大統領シンパとして知られている人です。この状況で、今バイデン前副大統領が票差2000票以下まで差を縮めつつありジョージア州で勝つ可能性がでてきました。アトランタなど州内の大都市郊外から送られた不在者投票・期日前投票で投じられた票の開票作業が進むにつれ、ジョージアでバイデン前副大統領がどんどん票を伸ばしている、これは大事件なのです。

また、バイデン前副大統領はアリゾナ州でも、トランプ大統領に少し差を縮められているとはいえ、いまだに優位を保っています。興味深いのは、「もし、アリゾナ州の投票結果が選挙結果を左右するようなことになったら、ドナルドに伝えてくれ。『私が仕組んだことだ』とね」という台詞でにっこり微笑む故ジョン・マケイン上院議員の写真がSNSで拡散していることです。故マケイン上院議員は存命中、トランプ大統領批判の急先鋒であり、マケイン一家は同議員が亡くなった後の葬儀にオバマ前大統領やバイデン副大統領、ジョージ・ブッシュ大統領を招待する一方、トランプ大統領だけは招待しませんでした。また、今年の大統領選挙でも、同議員の未亡人のシンディ・マケイン夫人がバイデン前副大統領支持を早々と表明しています。という訳なので、このような写真が出回るのも当たり前といえば当たり前ですが・・・

事態がここまで来て、トランプ大統領の支離滅裂ぶりも異次元に突入しています。連日、トランプ陣営からは、まだ開票を続ける州の選挙委員会は「不法行為をしている」と主張するステートメントが出され、既にペンシルベニア州やジョージア州では訴訟も起こしています。トランプ大統領は、必要であれば連邦最高裁まで法廷闘争を続ける意思をすでに明らかにしています。ですが、もし「不正が発生した」と主張し法廷闘争に持ち込むのであれば、不正行為の存在を誰が見ても明らかな証拠として下級審に提出する必要があります。すでにジョージア州では、「不正行為があった」とするトランプ陣営の主張は「根拠がない」として退けられました。

いったい、トランプ大統領は、いつまで法廷闘争を続けるつもりなのでしょうか。。。。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員