キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年11月4日(水)
[ デュポン・サークル便り ]
これを書いている今日(11月3日)は、いよいよアメリカでは大統領・議会選挙の当日です。全米各地で朝6時に投票所が開く前から、投票するためにマスクを着用して列に並ぶ人の映像が報じられています。CNNなど主要テレビ局は、4年に一度の「大統領選祭り」状態で、朝からすでに興奮状態の政治記者が延々と、選挙の見通しについて議論しています。朝7時前からこんな感じで、いったい、この人たちは開票結果が出始める深夜まで、体力・気力が持つのでしょうか。
投票日直前の先週末は、トランプ大統領、バイデン前副大統領とも、「最後のお願い」をするために激戦州を行ったり来たり。ペンス副大統領やハリス副大統領も、それぞれ、大統領候補を援護射撃するために、こちらも激戦州を行ったり来たり。以前のデュポン・サークル便りで、ほとんど選挙活動をしていない、とお伝えしていたメラニア・トランプ大統領夫人も、とうとう重い腰を上げてこの週末は選挙集会に登場しました。
選挙直前の世論調査は概ねバイデン前副大統領有利、という結果が出ています。例えばNBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナル紙が11月1日に発表した共同世論調査によれば、支持率ではバイデン前副大統領がトランプ大統領に10%の差をつけてリード。特に、期日前投票をした人の間ではバイデン前副大統領を支持する人が61%となっています。
また、いわゆる「激戦州」と呼ばれる州で、2016年にトランプ大統領が勝利した州とクリントン候補が勝利した州それぞれで最近実施された世論調査の結果を平均したデータでも、
―2016年にトランプ大統領が勝った州
―2016年にクリントン候補が勝った州
という感じで、軒並みバイデン前副大統領優勢、という結果です。
ですが、トランプ大統領は、すでに「11月3日以降は開票を続けるべきではない」という主張を始め、週末の「最後のお願い」集会でも、自分の政策アジェンダにはほとんど触れずに、不在者投票や在外投票などで郵送された票の集計で不正が生じる可能性ばかりを主張、選挙日前から法廷闘争に持ち込む気マンマンです。しかも、票の集計の際に不正が行われる可能性ばかりを強調しているため、トランプ大統領の支持者が、選挙結果によっては、結果を受け入れずに全米各地で暴動を起こす可能性も懸念されています。ワシントンDCでも、大きなオフィスビルは、軒並み、ガラスの扉や窓がベニヤ板で保護され、市内はさながらゴーストタウンと化しています。
実は私も、この1,2週間、立て続けに北東部に行く用事があったのですが、その道中、激戦州の現実を目の当たりにしました。例えばペンシルベニア州では、車で様々なカウンティ(郡)を通過するごとに、トランプ支持の看板が多い地域と、バイデン支持の看板が多い地域が目まぐるしく変わっていました。トランプ支持の看板が多い地域では、トランプ支持者の団体が車列を組んで街中をパレードする光景も見かけましたが、武装民兵を彷彿とさせるいでたちの、大柄な白人男性が、迷彩色を塗装したトラックやジープなどの大型車両を運転して街中をパレードする光景は、日本の愛国党の街宣車が大人しく見えてしまうほど。
また、私の住んでいる北部バージニア州は、一般的に民主党が圧倒的に強い地域と言われており、退役軍人一家ばかりのご近所さんも、2012年にはミット・ロムニー共和党大統領候補に投票した人たちが、今年の大統領選挙では、軒並み前庭にバイデン支持の看板を立てているような場所です。そんな中でも「隠れトランプ支持派」もいるようで、一昨日、犬の散歩で近所を歩いていたら、歩道にチョークで「トランプ2020」と大きく書かれている場所を数か所発見しました。
いよいよ、東海岸各地で投票所が閉まる午後6~7時頃から開票が始まります。どんな結果が出るのでしょうか。トランプ大統領支持者による暴動が広がることなく、平穏な夜が過ぎることを祈るのみです。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員