外交・安全保障グループ 公式ブログ

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2020年10月23日(金)

デュポン・サークル便り(10月23 日)

[ デュポン・サークル便り ]


大統領選挙投票日まで2週間を切った今週の最大の話題は、なんといっても22日夜にナッシュビルで行われた第2回大統領候補討論会です。これを書いている今も、まだまだ、各テレビ局で討論会後の事後分析が続いています。

今回の討論会は、本来であれば、先週の15日に第二回目討論会が行われた後の3度目の討論会となるはずでした。ですが、10月2日にトランプ大統領夫妻がコロナウイルスに感染したことが明らかになったことを受け、15日に予定されていた討論会が、やれバーチャル討論会に移行だ、やれ順延だなどとすったもんだの末に中止となったため、今回が113日の投票日前に行われる最後の大統領候補討論会となりました。

929日におこなわれた第1回討論会は老人の罵り合いと化し、近年例を見ない酷い低レベルの討論会でした。そこで今回は、この第1回討論会の教訓を踏まえ、各候補が2分間、質問に対して答える時間を与えられている間、相手候補のマイクをミュートにするなどの対策が取れられました。さらに、コロナウイルスに対する懸念を意識して、トランプ大統領とバイデン民主党大統領候補の演題の間隔を2メートル以上しっかりとったのはもちろん、討論会直前まで、各候補が立つ演壇の周りも抗菌ガラスの間仕切りを立てるなどの対策が取られました(演壇の周りをガラスで仕切ることに対しては、特に共和党支持者の間で「なぜ?」という声が沸き起こったため、実際には、間仕切りは直前で取り除かれましたが、基本的には「安全第一、健康第一」を意識した対応がとられました。)

このような環境の中で行われた討論会ですが、事後評価は、「最初から最後まで嘘をつきまくった」というトランプ大統領への厳しい評価とは対照的に、バイデン民主党大統領候補のパフォーマンスは、大きな失言もなく安全運転だったとの声が多く、結果としてトランプ大統領にとってはあまりよくない討論会だったのでは、という評価が一般的なようです。バイデン陣営は、トランプ大統領が自分のハンター・バイデンに対する批判を始めたら、トランプ大統領を基本的には無視して、討論会をテレビで見ている有権者に語り掛ける戦法をとった方がより賢明だというスタンスでしたが、22日の討論会では、まさにそれを試した形となりました。

対するトランプ大統領は、第1回目の討論会の時ほどバイデン候補の発言を遮ることはありませんでしたが、コロナウイルスへの対応について「責任を取っていない」と批判された時に「もちろん責任は感じている」といった直後に「でも、私のせいじゃない。中国のせいだ」と秒速で責任転嫁するなど、相変わらず支離滅裂な発言が続きました。

私も、この討論会、テレビで見ていましたが、トランプ大統領があまり健康そうに見えなかったのが印象的でした。ドーランの塗りすぎなのか、顔色がオレンジ色に近く病的な感じで、「好々爺」的に色白なバイデン候補とは対照的。また、討論会が終わった直後に、メラニア・トランプ夫人とジル・バイデン民主党候補夫人が、それぞれ、演壇に登ったわけですが、どこかよそよそしい感じのメラニア夫人に対して、バイデン民主党候補夫人は、バイデン候補と仲が良さそうなのがよくわかるリアクションと、こちらも対照的でした。

それもそのはず、メラニア夫人、今年の大統領選挙では、共和党大会で演説した以外は、ほとんどトランプ大統領のための選挙活動らしい活動はしていないのです。通常の大統領選挙では、大統領候補夫人は、夫である大統領候補の人間味ある側面を有権者に伝えるという重要な役割を果たします。ブッシュ(父)政権時のバーバラ夫人はもちろん、ブッシュ(子)政権時のローラ夫人、オバマ政権時のミシェル夫人などなど、ややもすれば夫の大統領よりも人気があるのが大統領夫人ですから、選挙で夫人に活躍してもらわない手はありません。ですが、メラニア夫人は、2016年選挙の時に続いて今年も、ほとんど選挙集会などに出席せず、トランプ大統領陣営をいら立たせている、という報道もちらほら見かけるようになりました。

さらに今週は、元ニューハンプシャー州共和党委員長が、全米どこでも読めるUSAトゥデイ紙に「共和党の魂を救済するにはトランプ大統領の再選を阻むしかない」という刺激的な内容の論説を寄稿したり、CNNオンライン版でも、大統領職を2009年に退いて以降、政治からは距離をとっているジョージ・ブッシュ元大統領が「トランプ大統領を敗北に追い組める切り札」であるとして、ブッシュ元大統領にバイデン候補支持を表明するよう呼び掛ける論説が掲載されました。他人の目を人一倍気にするトランプ大統領が、身内である共和党支持者の間でこうした動きが始まりつつあることに気づかないわけがありません。

投票日まであと1週間強、大統領選挙のラストスパートを引き続き見ていきたいと思います。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員