外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年10月9日(金)

デュポンサークルだより(10月9日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週の金曜日以降の1週間は、アメリカ政治で近年、例を見ない激動の7日間となりました。ワシントン時間102日午前1時頃にトランプ大統領がツイッターで、大統領自身とメラニア夫人がコロナウイルスに感染したことを発表、その日の午後には「微熱がある程度で軽症」のはずのトランプ大統領は、2日午後には治療のためにウォルター・リード米軍病院に入院。ところが、コロナウイルスに感染した患者は14日間自己隔離しなければいけないはずなのに、トランプ大統領は週明けの5日(月)夕方には退院、ホワイトハウスに戻ってしまいました。

退院したトランプ大統領本人は、1か月弱しか残っていない選挙戦を「コロナウイルスに勝った不死身の男」というイメージを前面に出して戦う気満々で、自分のコロナウイルス感染というピンチを露出度アップというチャンスに変えようとしています。ところが、そうは問屋が卸しません。108日(木)、大統領候補討論会管理委員会が、1015日に予定されている第2回目の大統領候補討論会は、予定通りに実施するのであれば、トランプ大統領がコロナウイルス感染を発表して14日間が経過する前であることを理由に、バーチャルで行うことを決定、これに対しトランプ大統領は「バーチャル討論会には参加しない」とボイコット。当初は、「第2回討論会も対人でできるように1週間程度開催を延期しよう」という提案をバイデン陣営が出し、トランプ陣営もこれに同意する声明を発表したことで、一件落着するかと思いきや、15日の討論会の順延は確定したものの、再来週の22日が最後の討論会となるのか、それとも投票日から1週間を切る1029日に3度目の討論会を実施するのかで、まだまだもめています。しかも、トランプ大統領は、退院後初のインタビューで、コロナウイルス感染後まだ1週間も経過していないにも拘わらず、対面での選挙集会を再開する意欲満々であるところを見せ、カマラ・ハリス民主党副大統領候補に対して、女性差別・人種差別満載の批判を繰り出すなど、相変わらず暴走状態は全開です。

退院早々、トランプ大統領が暴走状態全開モードになったため、本来であれば今週最大のニュースだったはずの7日(水)に行われたマイク・ペンス副大統領とカマラ・ハリス民主党副大統領候補の間の副大統領候補討論会が、本稿を書いている現時点では完全にかすんでしまっています。ですが、実は今回の副大統領候補討論会は今後4年間のアメリカ政治を見る上で重要な意味を持っていました。

というのも、先週行われた第1回大統領候補討論会が、トランプとバイデンという老人二人の痴話喧嘩に近い、アメリカ政治史上未曾有のレベルの低さで終わってしまったこともあり、副大統領候補討論会では少しは政策イシューに関する議論が聞けるだろうという期待感があったことはもちろんです。しかし、副大統領候補討論会が重要である最大の理由は、トランプ(74歳)、バイデン(77歳)と、両陣営ともに高齢な大統領候補を抱えていることから、大統領に万が一のことがあった場合に大統領代行となる副大統領候補の資質そのものに関心が集まったからでしょう。

実際、副大統領候補討論会は、ペンス副大統領、ハリス副大統領候補ともに、お互いの大統領候補に批判の対象を絞り、持ち前の議論を展開する、という形になり、先週の大統領候補討論会に比べるとはるかにまともな討論会となりました。事後の評価も、ペンス副大統領に軍配を上げる人とハリス副大統領候補に軍配を上げる人がそれぞれ50%ずつぐらいでしょうか。

ただ、トランプ政権のコロナウイルスに対する姿勢にドン引きする人は確実に増えています。例えば、ミッチ・マコーネル共和党院内総務が、「ホワイトハウスのコロナ対策に疑義あり」との理由で8月以降、ホワイトハウスに立ち入っていないことを明らかにしたことがこの1、2日間、ニュースになっています。私も、つい先日、同僚のママ友が、共和党議員の立法補佐官の夫に、トランプ大統領のコロナウイルス感染報道をうけて「ホワイトハウスのスタッフとの面会禁止」を言い渡した、といった話を聞いたばかりです。

しかも、「コロナから回復した」と主張するトランプ大統領の健康状態が本当のところどうなのかは、よくわからないのが実情です。トランプ大統領専属の医師団は、「大統領の容体は安定している」という立場をとっていますが、トランプ大統領の側近中の側近の一人であるケリーアン・コンウェイ女史の娘のクラウディア・コンウェイが、自身のSNSからケリーアン・コンウェイ女史がコロナウイルスに感染していて自己隔離していることに絡めて「トランプ大統領は全然、大丈夫じゃないわ!毎日、彼の容体を安定させるために、ホワイトハウスは大騒ぎよ!」というコンテンツを載せていることが話題を呼んでいます。しかも、9日(木)のニュースは、昨年11月にトランプ大統領がお忍びでウォルター・リード米軍病院に検査入院し、その際、大統領と接触する可能性がある医師、看護師その他の医療スタッフは、機密保持に同意する書類に署名を求められただけでなく、このような書類への署名を拒否した医師は、トランプ大統領との接触を認められなかったことをかなり大きく報じており、コロナウイルス以前のトランプ大統領の健康状態はどうだったのかにも関心が集まっています。

毎週毎週、あまりにネタが多すぎて、その一部しかお伝えできないのがもどかしいですが、大統領選挙当日まで残すところ4週間足らず、引き続き頑張って大統領選の動きをフォローしたいと思います。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員