外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年10月7日(水)

デュポン・サークル便り(10月7日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週の金曜日(10月2日)のデュポン・サークル便りを仕上げて、翌日の子供のサッカーの練習に備えていつもより早く就寝、翌朝起きたら、世界が一変していました。

10月2日午前1時頃にトランプ大統領がツイッターで、大統領自身とメラニア夫人のコロナウイルス感染を発表したことでワシントンには激震が走りました。しかも、「微熱がある程度で軽症」のはずのトランプ大統領は、2日午後には治療のためにウォルター・リード米軍病院に入院。週明けの5日(月)夕方には退院、ホワイトハウスに戻ったものの、退院までの数日間は、「本当に軽症なら、入院する必要はないのではないか」「実は重症なのでは」といった憶測を呼び、入院中のトランプ大統領の病状に関する担当医師団の記者会見は、「記者からの質問にきちんと答えていない」、「透明性に欠ける」などと強く批判されました。

しかも、トランプ大統領が1日の段階で自分がコロナウイルスに感染していたことを知っていたにも拘わらず、発表を2日未明まで遅らせたこと、週末の入院中に、病院前に集まった支持者に顔を見せるために、車でわざわざ病院の周りを一周したこと、などが、周囲の人間を不必要にコロナウイルス感染のリスクに晒す無責任な行為だとして、厳しい批判の対象になっています。実際、トランプ大統領のコロナウイルス感染が発覚してから、ケイリー・マクナニー大統領報道官や、スティーブン・ミラー大統領上級アドバイザーなど、トランプ大統領側近のコロナウイルス感染が連日報じられていますし、トランプ大統領がコロナウイルス感染を発表する直前に出席していた選挙集会の関係者は、集会参加者からの問い合わせに右往左往。一時は、10月15日に予定されている第2回大統領候補討論会も延期せざるを得なくなるのではないかとまで言われていました。5日に、医師団のお墨付きを得て何とか退院はしたものの、当面の間、トランプ大統領が最も得意とする、対面の大規模な選挙集会に出席することは当然ながらできませんし、バイデン候補との第2回大統領候補討論会も、対面になるのかバーチャルになるのかがまだ見えない状態です。

しかも、予定では11月3日の投票日までにあと2回行われる予定の大統領候補討論会開催の可否が不確定になってきたため、10月7日に行われるマイク・ペンス副大統領とカマラ・ハリス民主党副大統領候補の間で行われる副大統領候補討論会の重要度が急上昇、俄然注目を集め始めました。

それでも、5日に退院したトランプ大統領本人は、1か月弱しか残っていない選挙戦を「コロナウイルスに勝った不死身の男」というイメージを前面に出して戦うことを検討していると言います。自分のコロナウイルス感染というピンチを露出度アップというチャンスに変えようとしているわけですから、転んでもただでは起きないとはまさにこのこと。さて、トランプ大統領の思惑どおりにいくでしょうか。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員