外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年9月18日(金)

デュポン・サークル便り(9月15日)

[ デュポン・サークル便り ]


夏の終わりを告げるレーバー・デーの週末が過ぎたと思ったら、ワシントンはいきなり秋の陽気になりました。先週まで半袖・短パンで歩いていたと思ったらもう、厚手のトレーナーが必要な季節です。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。

日本でも、自民党総裁選挙、新総理選出とあわただしい10日間でしたが、アメリカでもいよいよ大統領選が本格化してきました。そんな中、またもやトランプ大統領は、自分自身の発言が原因で窮地に立たされています。ニクソン大統領のウォーターゲート事件を取材したことで一躍知名度を高め、近年は歴代大統領の評伝を書いてきたことで知られるワシントン・ポスト紙の超ベテラン記者ボブ・ウッドワード氏がトランプ大統領伝の新刊「Rage (怒り)」を出版します。その中でウッドワードは、今年の1月末の時点ですでにコロナウイルスの深刻さについてブリーフィングを受けていたにも関わらず、トランプ大統領が「国内でパニックを招きたくない」との理由で、コロナウイルスの影響について故意に、それほど真剣になる必要はないとの姿勢を貫いてきたことを暴露したからです。

ウッドワード記者側は合計18回のトランプ大統領との単独インタビューを録音したテープを持っており、トランプ大統領がこの発言を否定したくても、もう言い逃れの余地はありません。

それにしても、これまでフォックスニュースなどの例外を除いて、単独インタビューそのものに後ろ向きだったトランプ大統領が、どうして何度も単独インタビューを受けただけでなく、インタビュー録音まで許可したのか?というのが今ワシントンでは話題になっています。

この点についてはCNNが面白い分析をしています。ウッドワード氏は、新刊の「Rage」の前に、2018年の時点で一度、トランプ大統領伝第1弾として「恐怖(Fear)」という本を出版しています。どちらもトランプに否定的な本であることは間違いないのですが、ウッドワード氏の「Fear」を読んだトランプ大統領は、自分に対する直接取材がほとんどない中で同書が執筆されたことに不満を持っていた。だから、もしウッドワード氏と直接話すことができれば、自分の行為を正当化することができ、本の批判的トーンが少しでも和らぐと信じていた。だから、ウッドワード氏と何度も直接インタビューを行い、録音まで許可したのではないかというのです。

しかも、ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件を暴いたウッドワード氏は、米調査報道界の重鎮。そんな彼に「あなたの評伝を書いている」と言われるのは、「自分は大物なんだ!」と実感できる瞬間だというのです。ほとんどの人は「あのウッドワードが自分の評伝を書いている」という事実だけで舞い上がり、単独インタビューOK、録音もOKという普通の調査報道記者ならまず絶対に得られないようなアクセスを与えてしまう。この点は、トランプ大統領も例外ではない、ともCNNオンライン版の記事は分析しています。

こんな中、第一回目の大統領候補者討論会(ディベート)が928日に実施される予定です。ディベートは必ずしも得意ではないバイデン氏がどのようなパフォーマンスを見せるかが注目されます。私も、これからますます夜更かしする機会が増えそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員