外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年8月31日(月)

デュポン・サークル便り(8月31日)

[ デュポン・サークル便り ]


夏休みも終盤を迎えた今週は、息子を連れて再び長距離ドライブの旅に出ています。昨日からPGAゴルフのマスターズ・トーナメントで有名なジョージア州オーガスタの友人の家に母子で数日滞在しのんびり過ごしていますが、私が住んでいる北部バージニア州と、ここジョージア州のコロナウイルス対策に対する一般の日人々の姿勢の違いは予想以上に大きいものでした。バージニア州では、レストラン、スーパー、その他のお店がすべてソーシャル・ディスタンシングを徹底、仮にそれが難しい場合でも、コロナウイスへの感染を最大限防ぐため、店内に入る際にはマスク着用を義務づけているところがほとんどでした。レストランやバーもカウンターにはお客さんは座らせない、店内で収容できる人数の上限を厳しく制限するなどの措置もとっています。ところがジョージア州では、バージニアで見慣れた光景とは程遠いものでした。バーのカウンターには当然人が座っていますし、マスク着用についても3分の2はマスクをしていますが、残り3分の1は着用していません。周りを見渡すと、みんながマスク着用を励行しているバージニア州の自宅付近とは全く異なる光景なのです。

そんな中、今週の最大の話題は、8月24~27日の期間、行われた共和党大会でした。ノースカロライナ州で開催された共和党の党大会は、いろいろな意味で前の週に行われた民主党党大会とは対照的なものとなりました。

両党の党大会の最大の違いは、党大会の実施方式です。かなり早い段階で党大会そのものを100%バーチャルで行うことを決めた民主党の党大会に対し、共和党党大会はコロナウイルスのクラスター感染のリスクを軽減するため、各州からの代議員の参加者人数を絞るなどしてはいますが、党大会の会場に実際に人が参加し、対面方式で行われていたのです。特に、25日朝のワシントン・ポスト紙の一面に掲載された、マスクを着用している人、いない人が混在する党大会の会場の様子を撮影した写真は、なかなかインパクトがあり、民主党との違いを強く印象付けました。

第二に、民主党大会が大会を通じ、コロナウイルス対策に失敗したトランプ大統領の「大統領としての資質」を批判するメッセージを一貫して発して「国内の結束」を呼び掛けたのに対し、共和党大会は、バイデン大統領候補以下民主党の要人に「極左リベラル」「社会主義者」などのレッテルを貼り批判する姿勢を貫きました。確かに、このようなレッテル貼りはトランプ大統領の支持基盤である共和党保守系の支持を固める上では適しているかもしれません。しかし、こうした動きはアメリカ国内の分断を助長する行為でもあり、選挙後に禍根を残しかねません。いずれにせよ、今年の大統領選挙の最大の争点が「コロナウイルス対策」であることは明らかなようです。


第三に、民主党は、党大会の期間を通じ、複数の元大統領を始め、過去の民主党政権を支えた要人、元閣僚、議員らが4日間の党大会期間中次から次へと登場。これに「共和党支持者だけど、トランプだけは嫌い」という共和党議員も加わって演説を行いました。ブッシュ(子)政権時代に国務長官を務めたコリン・パウエル元国務長官まで登場した今回のスピーカーのラインナップは、民主党だけでなく、共和党穏健派も巻き込んで、政権奪還を目指す強い意志が感じられました。これに対し、共和党党大会はブッシュ元大統領や、ブッシュ元政権を始め、歴代の共和党政権を支えた閣僚クラスによる演説が一切なく、トランプ大統領の息子のドンJr、娘のイバンカ、ミッチ・マコーネル共和党上院院内総務、ルドルフ・ジュリアーニ元NY市長など、「トランプとその仲間たち」が登場しただけでした。アメリカ全体はおろか、共和党でさえ、トランプ再選に向けて団結を促すことが難しいのではないかと感じさせるプログラム構成だったのです。正直なところ、民主党大会では毎日、「この人のスピーチは聞いておこう!」と思う演説がありましたが、共和党大会では「どうしてもこの人の話は聞いておきたい」と思うスピーカーはトランプ大統領を含めゼロ。とにかく義務感で共和党大会を見る時間が長かったです。

さらに共和党大会を見ていて問題だなぁと思ったのは「公私混同」です。共和党大会では、トランプ大統領本人はもちろん、メラニア夫人まで、演説場所はホワイトハウスでした。マイク・ポンペイオ国務長官に至っては、公務出張中のイスラエルで事前録画した演説で共和党党大会に「参加」しました。ホアキン・カストロ下院国際委員会監視・捜査小委員会委員長は、現職国務長官の党派的活動参加を規制するハッチ法に違反した可能性があるとして、スティーブン・ビーガン国務副長官に、回答期限を9月1日に指定し、ポンペイオ長官演説の合法性に関する様々な質問を送るところまで事態が発展しました。更に、党大会の2日目の8月25日には、新たに米国籍を取得した人が出席を義務付けられている帰化式(naturalization ceremony)や恩赦の発表までが党大会の公式スケジュールに登場。いくら何でも、これでは行政府の権力乱用ではないかという声が広がっています。

このような問題を抱えつつも、27日に共和党大会は閉幕。これから11月まで「トランプVSバイデン」の構図で選挙戦は加速していきます。引き続き、気を緩めずにウォッチしていきたいと思います。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員