外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年8月25日(火)

デュポン・サークル便り(8月24日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週、暑さがすっかり和らぎ、「秋か?」と思ったのは・・・ぬか喜びでした。今週は夕立あり、真夏並みの暑さあり、しかも湿度も高いです。日本でもまだまだ残暑が厳しいようですが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

先週は、やや変則的に民主党大会の前半が終わったところでデュポン・サークル便りをお届けしました。今週は、24日(月)からいよいよ共和党側の党大会が始まりますので、その前に民主党大会を最後まで見て感じたことを、一足先にお伝えしたいと思います。

81720日まで、コロナウイルスの感染拡大を防ぐために100%バーチャルで行われた民主党大会。日替わりの進行役に加え、内容のほぼ9割は事前録画された演説やビデオ。818日(火)の各州代議員による投票で、ジョー・バイデン前副大統領、カマラ・ハリス上院議員が正式に大統領候補、副大統領候補に指名されたプロセスも、すべてバーチャル。通常であれば、午後6時ぐらいからようやく盛り上がりを見せ始め、そのあとも夜11時ぐらいまでダラダラ続いていた党大会も、今年は毎日2時間というタイトなスケジュール。いろいろな意味で異例の大会となりました。

先週のデュポン・サークル便りでは、党大会前半の二日間で民主党の「打倒トランプ」に向けた意思の強さを感じた、と書きました。また、その証左として、大会を通じて「ジョー・バイデンはアメリカ国内の幅広い層から支持を得られる候補」であることをアピールするプログラム構成についても言及しました。1920日の党大会後半戦でも、このテーマは変わりませんでした。例えば、最終日の19日には、民主党大統領選挙予備選でバイデン候補と大統領指名をかけて争った10名あまりの候補のほぼ全員が、候補の一人だったコーリー・ブッカー上院議員の司会のもとにZoom座談会を行っています。ここでは、10分余りの所要時間で、「コマーシャル休憩の間にジョーが自分のところに来て『君の経済政策のアイデアは、いいね』と声をかけてくれた(アンドリュー・ヤン元候補)」、「僕に『君が今、大統領選予備選で候補として戦っている、このこと自体がとても大事なことだよ。頑張れ』と激励してくれた(ブッカー上院議員)」など、いかに「バイデンが、ライバルにもきちんと配慮できるいい人か」「いかに、いろいろな声に耳を傾ける懐がある人か」を強調するエピソードを各人が披露し、最後は「こんなジョーだから、私たちは精いっぱい、11月にバイデン大統領が誕生するように頑張ります」というメッセージで締めていました。

第二のテーマ、「トランプ大統領は大統領職を務める資質に欠けている」というメッセージについても然り。党大会の前半戦でこの点について最も効果的な演説をしたのは、初日の17日のトリとして登場したミシェル・オバマ前大統領夫人でした。持ち時間10分で(1)トランプ批判、(2)バイデンに投票することの重要性、(3)投票することの重要性の3つをすべて網羅。2008年の大統領選挙の時、重要な人の支持を獲得するための「最終兵器」として登場したと言われるのも納得の圧倒的なパフォーマンスだったことは先週お伝えしたとおりですが、後半戦では、19日にバラク・オバマ前大統領が登場。通常、党大会の後半戦2日間は、副大統領候補と大統領候補がそれぞれトリで指名受諾演説することで日程が終了するのですが、19日に限っては、副大統領候補指名受諾演説をしたカマラ・ハリス氏の後に、オバマ前大統領が党大会のトリとして登場するという別格の扱いでした。演説の録画場所としてアメリカ独立戦争と切っても切り離せないフィラデルフィアを選び、感情的なトランプ批判に走ることは一度もなかったものの、「トランプ大統領が、私の政策を引き継いでくれるなどという幻想は最初から持っていなかった」「ただ、少なくとも、大統領職の重みを次第に感じるようになり、大統領としての職務に真面目に取り組んでくれるようになることは期待していた」「だが、この数年間ではっきりした。彼は大統領職にはなじめない。なぜなら、その能力がないからだ」と、冷静な語り口で畳みかけるようにトランプ大統領の「大統領としての資質の欠如」を真正面から批判。「直近の大統領経験者が、ここまではっきり現職の大統領の批判をするのは異例」という事後評価が複数のメディアから出ました。

最終日の20日は、ジョー・バイデン氏が大統領指名受諾演説を大トリとして行いました。トランプ大統領が何かとダークな印象を与えることを意識してか、「私が大統領になったら、アメリカの最も良いところを引き出すようにする」など、アメリカという国の将来に「光」を灯す存在に自分はなるのだ、と強調する演説でした。しかも、これまでは高齢からくる活舌の悪さや、たまに「??」なことをカメラの前でも口走ることから、トランプ大統領に「眠気を誘うジョー(sleepy Joe)」というあだ名をつけられ、「ジョー・バイデンはちゃんと文を簡潔にさせることすらできない」と揶揄されていた人物とは思えない、感情のこもった力強い演説で、「バイデンのこれまでの演説の中でベスト」という評価を大部分のメディアから獲得。親トランプのフォックス・ニュースからも「トランプ大統領はこれまでバイデンの演説下手をなにかと取り上げて揶揄してきたが、今日の演説は、はたして、これからもその戦術を使うことが適切なのかどうかを考えさせるものだった」という、好意的な評価を得ました。

そして、何よりも、今回の民主党大会を見ていて強く感じたのが、民主党の中心が完全に「クリントン元大統領夫妻」から「オバマ前大統領夫妻」に移行したことでした。演説時間の割り当て一つとっても、クリントン元大統領夫妻は、それぞれ5分だったの対し、オバマ前大統領夫妻は、登場した党大会日程でそれぞれトリを務め、演説時間もクリントン元大統領夫妻の少なくとも2倍。バイデン大統領候補も、指名受託演説の中で何度もオバマ政権時代に副大統領を務めたことをいかに誇りに思っているかを言及するなど、民主党が「オバマ時代」に突入したことを強く感じさせました。ということは、これからはバイデン大統領候補を支える政策スタッフも、バイデン派の次にオバマ派が影響力を持つようになることを意味するでしょう。今後、大統領選が本格化していくにつれ、このような政策スタッフの動きも、これからは目が離せなくなっていきます。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員