外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年8月20日(木)

デュポン・サークル便り(8月20日)

[ デュポン・サークル便り ]


今週の頭から、ワシントンはいきなり秋になりました。もちろん、日中はまだまだ気温が上がりますが、朝晩は半袖だと少し寒いぐらいの気温です。日本はまだまだ残暑が厳しいようですが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。今週と来週は、民主党と共和党の党大会がそれぞれ行われるので、デュポン・サークル便りのスケジュールは少し変則的になりますが、何卒ご容赦のほどを。

今週のワシントンの最大の話題は、民主党大会です。実は、これを書いている今夜、カマラ・ハリス上院議員が、副大統領候補指名受諾演説をするのですが、彼女の演説を聞いてからだと、ウェブ掲載が間に合わないので、とりあえず8月17~18日の前半戦について感じたことをお伝えしたいと思います。

8月17日からスタートした民主党の党大会は、コロナウイルスの感染拡大を防ぐために100%バーチャル。毎日違う人物(これまでのところ、全部女性、しかもヒスパニック系か黒人)が進行役として登場しますが、それ以外の人の演説などは、すべてバーチャルか、事前に録画されたものです。8月18日(火)に各州からの代議員による投票で、バイデン前副大統領が正式に大統領候補の座を勝ち取りましたが、そのプロセスもすべてバーチャル。通常であれば、朝からずっといろいろな人が演説をして、夕方6時~夜11時ぐらいに佳境に入る党大会が、今年は、テレビ中継されるのは夜の9~11時の二時間のみ。話し出すと止まらないビル・クリントン元大統領のスピーチも5分以下に抑えるという奇跡。盛り上がっているような、いないような、なんとも不思議な雰囲気の中、今年の民主党大会は進んでいます。

党大会前半戦を見ていて強く感じたのは、民主党の「打倒トランプ」に向けた意思の強さです。そのために、今回の党大会は二つの大きなテーマに沿って進行しているように感じます。一つが「ジョー・バイデンはアメリカ国内の幅広い層から支持を得られる候補」というアピール。17日の党大会の演説では、これが全面に出ました。2016年に共和党から大統領選予備選に出馬したジョン・ケーシック元オハイオ州知事や、クリスティン・トッド・ウィットマン元ニュージャージー州知事をはじめ、今も共和党員であったり、共和党支持者だったという人や、無党派層だけれども、変化を期待して2016年はトランプ大統領に一票を投じたという人が一様に「トランプに投票するんじゃなかった」と発言しているビデオが流れる。そうかと思えば、コロナウイルスで父親をなくした若いヒスパニック女性が「私の父は健康な65歳でした。唯一の既住症は、ドナルド・トランプを信じたこと。もう沢山(enough is enough)」と訴えるビデオ映像も。2016年大統領選挙でトランプ大統領に希望を託した有権者の「裏切られた感」が前面に出た初日でした。クリントン政権時に下院議員として、クリントン大統領のモニカ・ルインスキーさんとの不倫疑惑に端を発した弾劾裁判の際、共和党側でクリントン大統領を激しく追及したケーシック元知事が、まさかの民主党党大会で「党派の違いを乗り越えて、アメリカの魂を救うため、ジョー・バイデンに投票しよう」と訴えているビデオは、時代の流れを感じさせるに十分なもので、感慨深く見入ってしまいました。

第二のテーマが「トランプ大統領は大統領職を務める資質に欠ける」というもの。この点について最も効果的な演説をしたのは、初日の17日のトリとして登場したミシェル・オバマ前大統領夫人。トランプ大統領がメディアとのインタビューで、コロナウイルスの感染拡大が国内で止まらないことについて聞かれた時に「それが現実なんだからしょうがない(it is what it is)」と答えたフレーズをそのまま引用して、「ドナルド・トランプは大統領職を務める資質を持っていません。彼は、その能力があることを証明するために十分すぎる時間を与えられました。彼には今、私たちが直面している課題に対応する能力はありません。それが現実なんだから仕方ありません(it is what it is)」といきなり切り込みました。これを皮切りに、トランプが「郵送投票は危ない」など、あれやこれや理由をつけて11月の選挙で敗北をなかなか認めない可能性を念頭に、「今回の選挙では、反論の余地がないほどの大差でバイデンを勝たせる必要があります」「2016年の大統領選挙では、各投票所での票差はたった2票でした。その2票差でトランプを勝たせてしまったつけを、私たちは今も払っています」「投票日には履き心地のいい靴を履いて、お弁当を持って投票所で並びましょう。徹夜になっても大丈夫なように、翌日の朝ごはんも、お弁当に入れた方がいいかもしれません」など、持ち時間10分で(1)トランプ批判、(2)バイデンに投票することの重要性、(3)投票すること自体の重要性の3つをすべて網羅。2008年の大統領選挙の時、重要な人々の支持を獲得するため「最終兵器」として登場したと言われるのも納得。それほど圧倒的な前大統領夫人のパフォーマンスでした。

18日には、ジル・バイデン前副大統領夫人が、教育学者の見地から夫を支援する演説を、一日の締めくくりに行いました。ワシントン・ポスト紙は、一見、控えめに見えるジル夫人が、特に今回の大統領選挙では、これまでと打って変わって積極的に大統領選挙戦略にかかわり、副大統領候補の選出に関与し、バイデン前副大統領候補への支持を取り付けるために、小さな集会をくまなく回る「内助の功」ぶりを大きく報じています。確かにジル夫人の積極的な活動ぶりは、トランプ政権発足後、ほとんど公の場に姿を見せないメラニア・トランプ夫人とは対照的。オバマ政権時は、キャラが立ちまくっているミシェル夫人の横で目立たない存在でしたが、来年、バイデン政権が発足したら、ジル夫人が大化けしそうな予感のする記事でした。

次号では、民主党党大会後半戦の様子をお届けしたいと思います!


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員