外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年7月31日(金)

デュポン・サークル便り(7月31日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンDC近郊では引き続き、連日蒸し暑い日が続いています。ワシントンDCでは7月に90℉(32℃)を超える日が26日も続き、これまでの「最も暑い7月」の記録を塗り替えました。毎朝のジョギングもスタートが朝9時を過ぎてしまうと、サウナの中を走っているようです。週末は少し気温が下がるようですが、どうなることやら。日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。

相変わらず全米各地でコロナウイルスの感染再爆発が続くアメリカでは、外出規制などの緩和を一旦停止する州も出てきました。ワシントンDCは、「感染爆発地(hot spot)」認定されている27州からワシントンDCを訪問する人に対して14日間の自己隔離期間を求める行政命令を出しました。とはいえ、ワシントンDCの通勤圏内のメリーランド州とバージニア州は、この命令の対象外となっています。確かに、メリーランド州とバージニア州からワシントンDCに入る人にいちいち14日間の自己隔離を求めていては、ワシントンDCの経済活動は完全に止まってしまいますので、やむを得ない例外措置と言えるでしょう。とは言え、私の住んでいるバージニア州でも、南西部、またバージニア・ビーチなど、夏場に観光客が集まる地域では感染拡大傾向が止まる気配がないため、この地域のみを対象に再び外出規制を強化する決定を州知事が下したばかり。お隣のメリーランドでは、州政府レベルでの軌道修正はありませんが、ラリー・ホーガン州知事は、各都市における規制をどうするかは各地域の市長の判断に委ねる意向をすでに明らかにしています。全米各州の公立の小・中学校及び高校で、秋からの新学期を全面的にオンライン授業とする決定が下され、大学でも対面授業とオンライン授業のバランスをいかにとるか、関係者が頭を悩ませています。コロナウイルスに振り回される生活が、すくなくとも年内は続くことになる気配が濃厚です。

このような中、トランプ政権の暴走ぶりにも拍車がかかる一方です。先週、国内政策でも対外政策でも喧嘩を売りまくるトランプ政権の動きをご紹介しましたが、今週は、内政面にフォーカスして、その暴走ぶりの一端をご紹介したいと思います。

まずは、人種問題を巡って各地で続く抗議活動への対応です。これまでもトランプ政権は、民主党知事を擁する州に標的を絞って抗議集会を鎮圧するため連邦職員(federal agent)を派遣することを決定し、厳しい批判に晒されていてました。ところが、そんな批判をものともせず、今週、オレゴン州ポートランド市に、連邦職員を増派する決定をしました。7月28日に下院司法委員会で行われた公聴会では、同委員会の主に民主党議員の委員とバー司法長官が、人種問題に対する見解や、平和的に行われている抗議集会を強制的に排除することの是非をめぐって激しく衝突しました。

さらに、公民権運動の活動家として名を馳せたジョン・ルイス下院議員(ジョージア州選出、民主党)が7月17日に亡くなりましたが、トランプ大統領は彼の逝去を悼む各行事に一つも出席しませんでした。そんなトランプ大統領とは対照的に、バイデン前副大統領は夫人を伴ってワシントンを訪れ、米議会に安置されたルイス下院議員の棺の前で黙とうしている姿がメディアで報じられましたし、30日に行われたルイス議員の追悼集会では、オバマ前大統領が演説をしています。これらによって「人種問題に鈍感なトランプ」のイメージは一層際立っています。

トランプ大統領は今でも米国内のコロナウイルス感染が鎮静化の兆しを見せないことを一切、認めようとしていませんが、27日(月)にはついに、ホワイトハウスのロバート・オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官がコロナウイルス検査で陽性となったことが発覚しました。また、30日(木)には、2012年大統領選挙候補の共和党予備選に出馬したこともある黒人のハーマン・ケイン氏が死去。彼はトランプ大統領支持を最後まで貫いていましたが、オクラホマ州タルサでの選挙集会に参加した後コロナウイルスに感染したことが発覚し、入院していたようです。こうしたこともあり、コロナウイルス感染拡大防止のためのマスク着用の必要性をなかなか認めようとしないトランプ大統領の方針には、再び批判の目が向けられています。さらに、共和党の党大会も中止となりました。ノースカロライナ州からフロリダ州に場所を移して対人で開催する予定でしたが、フロリダ州でコロナウイルス感染者が劇的に増加し続ける状況を無視するわけにもいかず、中止を余儀なくされたようです。早い段階で党大会を基本バーチャル環境で開催することを決めていた民主党との違いがここでも際立ってしまいました。

このように、トランプ大統領は政治的に追い詰められる日々が続いているわけですが、30日(木)に再び仰天ツイートをしました。なんと、郵送での投票の結果は「信用できない」として「大統領選を延期した方がいいんじゃないのか?」とつぶやいたのです。

各党の予備選の日程の変更については各州知事にその権限が与えられていますが、大統領選の日程は法律に基づいて決められています。つまり、大統領選の日時を、現在予定される11月3日から変更しようとする場合には、議会の承認がいるということ。上院では僅差で共和党が多数党の位置を維持しているとはいえ、下院は民主党が議席の過半数を占める今の状況では、そのような承認が下りるはずがありません。しかも、「大統領選挙は11月の第一火曜日」と法律で定められて以来、南北戦争の時も、第一次、第二次世界大戦の時も、公民権運動が全米を席捲していた時も、日程が変更されたことは、アメリカ建国以来、一度もないのです。トランプ大統領のこのツイートには、さすがの共和党議員も同調することはできず、「大統領選挙は予定通り実施する」というメッセージを多数の議員が一斉に発しています。

来週は、バイデン前副大統領が、副大統領候補として誰を選んだかを発表する予定になっています。コロナウイルスでアメリカ内政がひっかきまわされる中、大統領選もいよいよ本番が近づいてきました。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員