外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年7月10日(金)

デュポン・サークル便り(7月10日)

[ デュポン・サークル便り ]


 東京では7月5日に行われた都知事選は現職の小池百合子都知事の圧勝に終わりました。東京版「疫病管理センター(CDC)」創設や来年夏に延期された東京五輪の簡素化を掲げていましたが、なんといっても頻繁に東京都のコロナウイルス対策ニュースでの露出が増えて、「最前線で頑張ってる」感がプラスに働いたのでしょうか。とは言え、ここ数日、東京都内でコロナウイルス新規感染者数がジリジリと増えているようで、まだまだ警戒感を緩めるわけにはいかないようですね。

 こちらアメリカでも引き続き、新規感染者数が毎日増え続けています。そんな中、学齢期の子供を抱える全米の家庭にとって最大の頭痛の種が「新学期はどうなるの?」問題です。というのも、アメリカでは日本のように、学校の年間スケジュールがどこにいってもほぼ同じというわけではないからです。それぞれの州の教育制度は、州によって異なり、場合によっては同じ州の中でも、自分の住んでいる場所がどの郡や市などの地方自治体に属しているかでも違うのです。例えば、私が住むバージニア州は、毎年、秋学期は8月最終週から始まりますが、お隣のメリーランド州では、秋学期が始まるのは、9月第1週のレーバー・デーの祝日が終わった後です。全米の他の地域では、速いところでは8月の第1週、2週ぐらいに新学期が始まる地域もあります。全米50州のうち、33州で、コロナウイルスの新規感染者数が増え続けている状態で、どのように教育関係者と生徒の両方のリスクを最小化して新学期開始にこぎつけるのか。特に共働き家庭にとっては、子供が3月~6月までのように100%在宅学習になるのか、週の半分は登校・半分は在宅学習という「ハイブリッド」型になるのか、それとも週5日、登校できる状態になるのかは、重要な問題なのです。

 各州の教育関係者が「子供の教育」と「公衆衛生の維持」のバランスに頭を悩ませる一方で、「自分たちの政権はコロナをやっつけた」アピールをする気満々のトランプ政権は、各州に対して「コロナウイルスを学校再開しない言い訳にするな」と圧力をかけ続けています。8日には記者会見でベッツィー・ダボス教育長官が、「学校を再開できないのは現場の関係者の怠慢」とでも言いたげな発言を連発、さすがにまずいと思ったのか途中から、会見に同席していたペンス副大統領がダボス長官に代わって記者団からの質問に応じる事態となりました。それでも、トランプ大統領は「対人教育を再開しない学校に対する補助金の減額を検討する」とこれまた恫喝じみた発言を繰り返し、トランプ政権の浮世離れした対応への批判は強まるばかりです。

 しかも、7月3日の独立記念日前日にサウスダコタ州のマウント・ラシュモア国立公園で行われた祝賀行事や、翌4日にワシントンで行われた記念祝賀行事の際にホワイトハウスで行った演説にも疑問符が付きました。普通このような場では国民の連帯を呼び掛ける内容の演説をするのが通例となっているにも関わらず、トランプ大統領は、南北戦争の時に南軍側で戦った将軍の銅像や、彼らの名前を冠した学校や道路の名前を変更しようという動きを「リベラルがこの国の歴史を抹殺しようとしている」と直球で批判するなど、彼の支持基盤である白人保守派におもねった発言を連発。これに対しても「連邦予算で賄われている行事で選挙演説をしている」との批判が噴出しました。

 最近では「予測不可能な発言をするよね」レベルではなく、「正気を疑う」レベルの支離滅裂な発言を連発しているトランプ大統領ですが、無理もありません。ファミリー企業のオーナーとしてワンマン経営しかしたことがない彼には、思い通りにいかないことが多すぎる日々が続いているからでしょう。

 世論調査の結果が彼にとってますます不利になっているのは序の口。過去数回の「デュポン・サークル便り」では、保守的な判事が過半数を占めている最高裁で、トランプ政権の意向に沿わない判決が次々と出ていることをご紹介してきました。9日にも、最高裁が、トランプ大統領の納税記録や財務関係の書類は、召喚状が出れば検察側に引き渡さなければならないという判決を下しました。トランプ大統領の就任前の不透明な資金の流れなどについて引き続き捜査を進めているニューヨーク地検がこれらの記録を今後も引き続き請求する可能性を残したわけですが、この判決は賛成7、反対2。なんと、ここのところ、中絶問題に関する判断などでトランプ大統領を激怒させているジョン・ロバーツ首席判事だけでなく、トランプ大統領自らが指名したニール・ゴルセッチ判事、ジョン・カバナウ判事まで賛成に回っています。「憲法の番人」である最高裁に終身任命される判事が党派的な判決を出さないことは、常識といえば常識ですが、トランプ大統領にしてみれば、飼い犬に手をかまれたような思いでしょう。

 さらに、ジョン・ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官の暴露本に続いて、今週は、自分の姪である、心理学者のメアリー・トランプ博士の手によるトランプ大統領伝が出版されますが、その中で、同博士は、トランプ大統領が、大学入学に必要な統一試験であるSATを、お金を払って代理受験してもらった、と暴露しているのです。また9月初旬には、メラニア夫人と親しかったセレブ広告代理店社長によるメラニア夫人伝も出版予定とか。追い詰められれば追い詰められるほど、支離滅裂ぶりに拍車がかかるトランプ大統領、大統領選挙まであと4カ月もあるというのに、この先、どうなってしまうのでしょうか。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員