外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年7月3日(金)

デュポン・サークル便り(7月3日)

[ デュポン・サークル便り ]


 コロナウイルスで外出自粛規制がかかる中、在宅勤務を続けている間に今年も半分が終わってしまいました。東京でもジリジリと新規感染者が増えているようですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 こちらアメリカでは南部諸州やカリフォルニア州で感染が爆発、フロリダ、テキサス、カリフォルニア州などでは、外出や経済活動規制が再び発出されそうな気配が漂い始めました。第2次感染爆発真っ只中のカリフォルニア州を除けば、今回、感染爆発が発生している州は、その全部がもれなく共和党の州知事で、全米に先駆けて外出自粛などの解除に踏み切り、「早すぎるのでは?!」と批判されていた州です。

 先週のデュポン・サークル便りで、コロナウイルスの感染拡大に終わりが見えない今の状態が長引けば長引くほど、共和党は11月の選挙では上院で過半数を失う可能性が大きく、そのような事態になれば、2024年の選挙まで過半数を奪回できるチャンスは巡ってこない可能性が高い、という分析についてお伝えしました。しかし、先週から共和党支持基盤が強い南部諸州でコロナウイルス感染が爆発し、収束の気配を見せないことで、これまでひたすらトランプ大統領の弁護に徹していた共和党議員の間でも、トランプ大統領と距離を置く発言が出始めました。ついに6月27日には、ミッチ・マコーネル共和党上院院内総務が、上院の議場で発言した際に、「公共でマスクを着用することに対する偏見があってはいけない」と発言、マスク着用をかたくなに拒むトランプ大統領に対して、同じく共和党のラマー・アレクサンダー上院議員に「国民とともにある姿勢を見せるためにも、たまにはマスク着用をしてくれたらいいのに」と言わしめる事態となりました。トランプ大統領を強く支持する議員の一人であるケビン・マッカーシー共和党下院院内総務も、選挙区のカリフォルニア州でコロナウイルス感染が再び爆発する中、「7月4日の独立記念日は、赤・青・白三色のマスクをつけて愛国心を示そう」と呼びかけ始めました。トランプ寄りの報道で知られるフォックス・ニュースですら、ここにきて連日、どのニュース番組を見ても、アンカーマンが「マスクを着用しよう!」と呼びかけています。

 いずれの光景も、今更感が漂うだけでなく、花粉アレルギーの季節や、インフルエンザの季節になるとマスク着用が当たり前な日本から見ると、奇妙に映るのだろうなと思いますが。。。

 そのような中、今週は、コロナウイルスに続いてトランプ政権終焉に向けたダメ押しとなるかもしれないニュースがワシントンを賑わせています。きっかけは、6月27日(金)にニューヨーク・タイムズ紙が、アフガニスタンでロシアが、タリバンに対して米軍兵士その他西側諸国の兵士を殺害することに対する懸賞金(bounty)を出していたと報じたことです。トラプ大統領は当初から、同紙によるこの報道を「虚偽報道(a hoax)」だと否定していますが、ニューヨーク・タイムズ紙は、ロシアによる懸賞金支払いの事実があったことを裏付ける送金記録を米情報筋が入手していたとする続報を6月30日付紙面に掲載。さらに7月1日にも、タリバンに対する懸賞金支払いは9名のアフガニスタン人のグループを仲介して行われていたという続々報を出しています。

 焦点は、ロシアによるこのような行為をトランプ大統領が知っていたのかということ。万が一、トランプ大統領がこの事実を知っていて、何ら対抗策を命じなかったとすれば、米軍の最高指揮官たる米大統領が、ロシア政府の意向をおもんばかって、米軍兵士の命を危険にさらしていたことになり、大統領としてあるまじき行為だからです。当然、議会からは、ホワイトハウス側による詳細な説明を求める声が噴出。現時点で、ホワイトハウス側は、「トランプ大統領は本件についてブリーフを受けていない」の一点張りですが、6月30日の時点で、CNNやワシントン・ポスト紙は、トランプ政権が、ロシア政府のこのような行為の可能性について2019年初頭の時点で既に警告を受けており、今年2月頃の大統領が毎日受ける情報ブリーフィングにも本件が含まれていたと報じています。それでも「ブリーフィングでは聞いていない」の一点張りのトランプ大統領に対して、この報道について聞かれたヒラリー・クリントン前大統領候補は「私だったら、ブリーフィングを最初から最後までちゃんと読むわよ」と、ブリーフィングなどのペーパーをほとんど読まないと言われるトランプ大統領に痛烈なあてこすり。ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官による暴露本に続き、本件も、まだまだ当分、尾を引きそうな気配です。

 このようにトランプ大統領が日々、自殺点を入れ続ける中、バイデン前副大統領は、バーチャル選挙集会以外に選挙活動らしいことはほとんどできておらず、たまにマスクを着用してメディアの前に現れ「マスク着用は愛国心の表現だ」と話す画像や、6月に陸軍士官学校卒業式に出席したトランプ大統領が、演壇に用意された水を両手でこわごわ持って飲んでいたのを意識して、片手でミネラルウオーターのボトルをつかんで水をグイっと飲む映像が流れるだけで、どんどん支持率が上がるという、不思議な状態が続いています。コロナウイルスによりいろいろな影響が表れていますが、今年の大統領・議会選挙も、今までにない選挙となりそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員