外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2020年6月26日(金)

デュポン・サークル便り(6月26日)

[ デュポン・サークル便り ]


 この数週間でジョン・ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官の本の出版、複数の種類の非移民ビザの年内発給停止、警察改革に関する大統領令署名、マイケル・フリン元国家安全保障担当大統領補佐官に対する刑事起訴の終了など、ワシントンは大騒ぎでした。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 先週のデュポン・サークル便りでも、トランプ大統領の再選活動に暗雲が立ち込めているかも?!というニュースをお届けしましたが、 今週も、トランプ大統領にとってあまり嬉しくないニュースは続いています。

 まず、6月20日にオクラホマ州で行われた選挙集会。オクラホマ州は、共和党の州知事が、全米に先駆けて集会人数の制限やソーシャル・ディスタンシングなどの規制を緩和し始めた州でもあり、トランプ陣営としては、ここでの選挙集会を大入り満員にして、「ポスト・コロナ」の選挙活動に向けて勢いをつけたいところでした。実際、事前には、ホワイトハウスは「会場で収容できる人数をはるかに超える応募がある」と強気の発言をし、会場に入りきらない人のために、別途、野外ステージを設けて、選挙集会が終わった後は、そこにトランプ大統領が立ち寄る、と発表していました。

 ところが蓋を開けてみると、大入り満員とは程遠い6千人程度しか選挙集会に集まらず、会場はスカスカ。隣接する野外ステージでの演説はキャンセルとなり、このオクラホマ州での選挙集会を終えてホワイトハウスに戻ってきた時のトランプ大統領の疲弊した様子を撮影した写真は、直後からメディアはもちろん、SNSなどで急速に拡散しました。しかも、選挙集会が始まる数時間前に、先遣隊としてオクラホマ入りしたトランプ大統領スタッフのうち、少なくとも6名がコロナウイルスに感染していることが発覚(感染しているスタッフの数はその後12名まで増加した)。さらに、トランプ大統領の身辺警護を担当するシークレット・サービスの警護官のうち2名がコロナウイルスに感染していることも判明、今日の時点で10名あまりのシークレット・サービスの警護官が自宅隔離を命じられています。

 また、先週、フォックス・ニュースなど、トランプに優しい(?)メディアが発表した世論調査ですら、バイデン前副大統領がトランプ氏を10%以上引き離してリードしているという結果が出ていることはすでにお伝えしましたが、それに追い打ちをかけるように、6月25日には、同じくフォックス・ニュースがテキサス州のように、これまで確実に共和党が勝ってきた州でも、バイデン前副大統領がリードしているという結果を発表しました。もちろん、その差は1%と、かなりの僅差なのですが、テキサスといえば、ブッシュ大統領の地元でもあり、常に「レッド(共和党)州」として見られている州です。そんな州でも、バイデンが優位に立ち始めているというのは、トランプにとってはショックでしょう。

 しかも、同じく25日に公表された、「バトルグラウンド州」における世論調査のいくつかの結果に基づくと、11月の大統領選挙ではトランプ大統領が「地滑り的敗北」を喫する可能性がでてきたようです。ニューヨーク・タイムズ紙がシエナ・カレッジと共同で実施した世論調査の結果によれば、いわゆる「バトルグラウンド州」とされるミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、ノースカロライナ、アリゾナ、フロリダの全州でバイデン前副大統領が最低でも6%、最大で11%の差でトランプ大統領をリードしていることが明らかになりました。しかも、この世論調査の結果を報じたCNNは、バイデン前副大統領が11月に当選するためには、これらの州のうち、2016年大統領選挙でヒラリー・クリントン候補が抑えたウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの3州で勝利すれトランプ大統領に勝てると分析しています。

 また、大統領選だけではなく、議会選挙も、共和党にとっては厳しい戦いとなることが予想されています。現在、すでに民主党が過半数を握っている下院はもちろん、上院でも、今年の選挙で民主党が多数党の座を奪回する可能性がどんどん高くなってきており、「今年の選挙で過半数を失うと、次に共和党が上院で過半数を奪回できるチャンスは2024年の選挙まで来ない」という分析もあるほどです。上院は、政権が指名する閣僚や判事の承認や条約の批准など、政権運営をスムーズに行うには欠かせない権限を持っています。昨年秋に下院がトランプ大統領の弾劾を決定した時も、結局大統領が罷免されなかったのは、上院で共和党が過半数を握っていたからです。この上院の過半数まで民主党が握ることになれば、11月の選挙でもしトランプが再選を果たしたとしても、2期目の政権運営は相当厳しくなります。

 このような中、26日には、民主党は、コロナウイルスの拡散状況を鑑み、党大会はほぼバーチャルで開催することを正式に決定、8月下旬に予定どおり対人で党大会を行う予定を変えていない共和党との違いが鮮明になりました。また、バイデン候補は、ここ数週間の人種問題をめぐる緊張の高まりを考慮し、有色人種の女性を副大統領候補に選ぶことがほぼ確実視されています。今週は、これまで副大統領候補の一人として有力視されていたエイミー・クロウブシャー上院議員が「バイデン氏は有色人種を副大統領候補に選ぶべきだ」という理由で、自ら副大統領候補から降りました。

 バイデン氏は現在77歳。11月の選挙で勝利しても、来年、大統領に就任する時には78歳となり、2期目を目指す年には82歳となります。このため、バイデン副大統領は、自分の任期は1期に限り、2024年の大統領選挙では副大統領に大統領候補の座を禅譲する可能性が非常に高いため、彼が誰を副大統領候補に選ぶかに、今後はますます、注目が集まることになりそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員