キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年5月22日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
今週末のアメリカは戦争で命を落とした軍人を追悼するメモリアル・デーの3連休になります。通常この週末は「夏の始まり」とされ、全米各地でビーチ開き、プール開きが行われ、家族や友人で集まってワイワイとバーベキューをしたりして夏の到来をお祝いします。ところが、コロナウイルスの影響がまだまだ各地で残る今年のメモリアル・デーは、プール開きなどもちろんありませんし、ビーチも一部を除き閉鎖が続いており、いたって静かなものです。
さらに、学校が春学期を終え夏休みに入る今、全米の共働き家庭を悩ませる新たな問題が各地で発生しています。その名も「サマーキャンプ問題」。アメリカの学校の夏休みは、日本でいう年度の切り替え期に当たり、しかもほぼ2か月半という長期間になります。アメリカには子供が11~12歳になるまで子供だけで長時間留守番させることは望ましくないという風潮があります。保育園児から小学校6年生ぐらいまでの子供を抱える共働き家庭にとっては、この長い夏休み、子供のケアをどうするかが頭の痛い問題なのです。通常は学校や、コミュニティ・センター、スポーツ・クラブなどがスポーツ、料理、学術など幅広いテーマでサマーキャンプを実施してくれるので、朝9時~夕方5時ぐらいまでは子供の行く場所があります。特に人気のあるキャンプはすぐ定員が満杯になってしまうため、毎年2月~3月は子供の夏の予定を決めるべく、ママ友同士でキャンプに関する情報交換をしたり、友達同士で同じキャンプに通えるようにしたり、いろいろな調整が行われます。私も子供が小さかったころは、サマーキャンプの登録にエネルギーを集中するため、時間単位で有給休暇をとった覚えがあります。
ところが、今年の夏は、コロナウイルスの影響がまだ残っているため、なんとサマーキャンプそのものを中止する州が相次いでいます。私の子供が通う学校もサマーキャンプの中止を決めましたし、コミュニティ・センターもキャンプ中止を決定。その一方で、これから段階的に経済活動が再開され職場に戻らなければならない人が増え始める中、今後全米でこの「サマーキャンプ問題」で頭を悩ませる家庭が増えていきそうです。
そんな中、今週はまたもやトランプ大統領がコロナウイルス関連で仰天発言をしました。これまでも、マイク・ペンス大統領ともども、コロナウイルスの感染拡大を抑えるためにアメリカ疾病予防管理センター(CDC)が行っている様々な勧告(例:公の場でのマスク着用の奨励)などと真逆の行動をとり、批判の対象となっています。20日(水)には、遊説先のフロリダ州でペンス副大統領がロン・デサンテス同州知事とともに、マスクを着用せずオーランドのハンバーガーショップに入りランチをオーダーしている様子が大きく報じられました。そんな中、トランプ大統領は18日(月)にコロナウイルス感染を予防するためにヒドロキシクロロキンを毎日服用していると発言したのです。
ヒドロキシクロロキンはマラリア治療に用いられる薬ですが、トランプ大統領は、3月頃から、この薬がコロナウイルス治療の「ゲームチェンジャー」になる旨の発言を繰り返してきました。実はこの薬、わずか1か月前にアメリカ食品医薬品局(FDA)が、コロナウイルスに感染している患者が服用した場合、心臓機能に危険な影響を与える可能性があるため、臨床実験のように常に患者が監視されている状況でなければ服用してはならないとして、薬そのものの安全性に対する警告を発したばかり。そもそも、コロナウイルスの治療薬として効果があるかも疑問視されている薬なのです。医療関係者からは、そんな薬を「毎日服用している」とするトランプ大統領の発言は無責任であり、薬の安全性について国民に誤ったメッセージを送るといった批判の声が相次いでます。ところが、当のトランプ大統領は「今のところ大丈夫みたい」とどこ吹く風。人の意見にここまで耳を傾けない大統領も、これまた前代未聞です。
一方、ここにきて外出規制制限の緩和のペースにも州によって違いが出てきました。大まかにいうと民主党知事を擁する州は規制緩和に慎重で、共和党知事の州ではどんどん規制緩和を進める傾向があります。
さらに、大統領選に向けた選挙活動のペースにも違いがあります。アメリカではコロナウイルス感染防止のため11月の選挙で郵送による投票を採用する州が出始めていますが、トランプ大統領はそもそも集会規模の規制などにより選挙集会が思うように開けないことに不満を持っていると伝えられていました。ところが、最近フロリダ州のような共和党知事の州では活動規制の緩和を受け、再び選挙活動が活発に行われるようになりました。前述のペンス副大統領のフロリダ州オーランド訪問もこうした選挙活動の一環なのでしょう。
対する民主党側のジョー・バイデン前副大統領は「公衆衛生への配慮」を理由に大規模な選挙集会を控えています。夏の党大会についても民主党側は、すでに当初の予定から開催を1か月延期すると決定し、状況によっては「バーチャル党大会」化も検討するとしています。これに対し共和党側は、予定通り、伝統的な対人・対面式の党大会を開催する方向で準備を進めているらしく、「まるで違う惑星で党大会の準備をしているよう」(CNN評)です。しかし、民主党が公衆衛生に配慮すればするほど、良いニュースも悪いニュースも、すべてトランプ大統領に関心が集中するという皮肉な結果にもなっています。コロナウイルスの影響が残る中で、今年の大統領選挙はいったいどうなるのでしょうか。まだまだ紆余曲折がありそうです。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員