外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年4月10日(金)

デュポン・サークル便り(4月10日)

[ デュポン・サークル便り ]


 ついに日本でも、4月7日に東京都を含め1都7県を対象に緊急事態宣言が発出されましたが、皆様、お元気でお過ごしでしょうか。

 アメリカでも、全米のコロナウイルス感染者数が46万人を、死者も1万6千人をそれぞれ超えるなど、相変わらず状況は緊迫していますが、感染のピークに達しつつある地域が出てきた兆しが見え始めました。ニューヨーク州では、すでにコロナウイルス感染者数が15万人を超えていますが、入院が必要とされるほどの重症患者や、新たに亡くなる方の人数の増え幅が減速し始めた、とアンドリュー・クオモ州知事が9日の記者会見で発言しています。また、今回のコロナウイルスへの対応のためのホワイトハウスのタスクフォース一員として連日、ホワイトハウス記者ブリーフィングに登場している全米疫学統制研究所(CDC)のアンソニー・ファウチ博士も、9日の記者会見で「死者の数が増えていることには心が痛むが、入院が必要なほどの重症者のケースは劇的に減ってきている」と発言しました。

 ただ、米国におけるコロナウイルス感染状況がピークを迎えつつあるのかどうかは、まだまだ予断を許しません。この点については、クオモ知事も「まだ峠を越えたわけではない」と明言しており、ファウチ博士も、新規感染者数の減少は家族以外の人とは、感覚を6フィート(約2メートル)開ける「ソーシャル・ディスタンシング」の効果があることの証左で、当面、この措置を続ける必要がある、と発言しています。

 アメリカがまだまだコロナ対応一色の中、今週は久しぶり(?)に大統領選挙関連ニュースがメディアの関心を集めました。大統領選ウォッチャーの関心事は、ジョー・バイデン前副大統領が3月のスーパー・チューズデー以降、大統領候補指名に必要な代議員を確実に集める中、バーニー・サンダース上院議員がいつまで予備選に踏みとどまるかでした。ところが、サンダース上院議員は4月8日に大統領選挙からの撤退とバイデン前副大統領支持を表明したことで、民主党の大統領候補はバイデン前副大統領で事実上一本化されたのです。

 ただ、候補者が一本化されたとはいえ、バイデン前副大統領にとっては、これからが難しいところです。民主党の党大会は7月に予定されており、当初はここらで候補者を一本化し、一気に11月の大統領選本選に向け勢いをつけるところでした。ところが、コロナウイルスの影響により、党大会は8月に延期されることが決まりました。バイデン候補がメディア登場の機会を失う一方、ドナルド・トランプ大統領はこのところ連日、コロナウイルス対策に関するホワイトハウスの記者ブリーフィングに登場しています。3月以降、アメリカでは、メディアはもちろん一般有権者の最大の関心はコロナウイルス一色です。しかも、新型コロナウイルスが「パンデミック」と認定され、全米50州のうち、48州が緊急事態宣言を出していることもあり、今のアメリカはさながら「有事」となっています。国家がコロナウイルスという「国難」に直面している時期に、現職の大統領をどこまで批判するかは、メディアにとっても、一般国民にとっても判断が難しいところでしょう。

 その辺りを考慮した結果でしょうか、バイデン前副大統領が4月6日、コロナウイルス対策について直接トランプ大統領と電話で話したことがCNNなどで大きく報じられました。トランプ大統領との電話での会話について問われたバイデン前副大統領は「会話の詳細については公開しない約束だから」と述べて詳細には触れませんでしたが、同時に、自分がトランプ大統領に対してどのような提案をしたのかについてはしっかりとアピールしていました。大統領選が本格化する秋以降、「自分は大統領選挙という枠を超えて、パンデミック対応についてトランプ大統領と意見交換する機会を積極的に求めたが、トランプ大統領は自分の提案をほとんど無視した」というラインでトランプ大統領を批判する態勢を整えているかのようです。以上の通り、サンダース上院議員の大統領選挙からの撤退で、今年の大統領選挙は「トランプvsバイデン」で確定ということです。

 ところで今週末はイースターです。イースター前といえば、先月トランプ大統領が国家緊急事態宣言と種々の関連規制を発表した際、現在も続く外出自粛規制などの措置の緩和を目指していた時期でした。先週の記者会見では「これから1~2週間は、大きな痛みを伴う期間になる」と神妙な面持ちで発言していたトランプ大統領ですが、来週の今頃は一体何を語っているでしょうか。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員