キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年6月10日(火)
[ 2025年外交・安保カレンダー ]
韓国大統領選も終わり、今週はあまり大きなニュースはないかな、などと思っていたら、やっぱりトランプ政権は「期待?」を裏切らなかった。いつもの通り、日本時間早朝CNN・USをチェックしていたら、ロサンゼルスでトランプ政権の移民政策に反対する大規模抗議デモが発生、多くの逮捕者が出たという。でも、それだけなら大したことはない。問題はトランプ政権の動きである。
抗議活動が始まったのは6日夜だったが、騒ぎが拡大したのは8日、現地の州知事や市長の了解を得ない中、トランプ氏が州兵を派遣する決定を下してからだ。知事は州兵派遣を違法とし撤退を要求、9日には州兵派遣で連邦政府を提訴する意向を表明した。これに対し、トランプ政権は海兵隊700人の一時的派遣も決めたそうだ。それにしても、なぜ海兵隊なのか?
理由は「州兵増員までの措置」で「連邦政府職員と財産を守るため」というが、国内で米軍を使うには「内乱法」を発動する必要がある。更に、トランプ氏は民主党のカリフォルニア州知事やロサンゼルス市長などの逮捕を支持する考えまで示唆したそうだ。州知事の同意なき州兵派遣は、法的には可能らしいが、60年ぶりの異例自体だという。
ロサンゼルスといえば、あのドジャースの本拠地、今の日本人のイメージは決して悪くない。だが、歴史的にこの街では暴動が頻発している。特に有名なのは1965年のワッツ暴動と1992年のロサンゼルス暴動だ。いずれもかなり大規模なもので、多くの死傷者が出ている。まずは前者のワッツ暴動から。
1965年8月、ロサンゼルス南部のワッツ地区で、白人のハイウェイパトロールとロサンゼルス市警察が、飲酒運転の疑いでアフリカ系青年とその母親を逮捕しようとした際に、現場に居合わせたアフリカ系住民が警官の行動に怒りを爆発させ、暴動へと発展したという。6日間続き、死者34人、負傷者1,000人以上、逮捕者4,000人以上を出した。
続いては ロサンゼルス暴動だが、これは筆者ワシントン在勤中の事件なので鮮明に覚えている。1991年3月、アフリカ系男性ロドニー・キングがスピード違反で逮捕された際、4人の白人警官から激しい暴行を受けたが、翌1992年の裁判では警官たちが無罪となったことにアフリカ系コミュニティが怒りを爆発させた。
死者50人以上、負傷者2,000人以上、逮捕者1万人以上を出し、特にコリアンタウンでは多くの店舗が破壊され、多額の損害が出たという。それに比べれば、という訳ではないが、今回は人種暴動というより、移民規制反対だから、ヒスパニック系の方が怒っているのかも。しかし、一部で車両放火や略奪行為が発生したものの、今のところ「大暴動」とは言い難いだろう。少なくとも、州兵や海兵隊を投入するレベルではない。
こうなると、トランプ政権の動きは「確信犯」というべきだろう。機会を逃さず、わざわざ敵対者を挑発し、不必要な強硬手段を講じて、支持者たちにアピールしつつ、メディアを翻弄する。いわゆる「スピン・ドクター」の一種だが、ここまで来ると「お見事」を通り越して、「それをやっちゃー、おしめーよ」ではないかと愚考する。
さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
6月10日 火曜日 | アルゼンチン大統領、イスラエル訪問(3日間) |
オランダ首相訪独、独首相と会談 | |
バングラデシュ暫定政権首席顧問、訪英 | |
インド外相、欧州委員会委員長と会談(ブラッセル) | |
6月11日 水曜日 | ポーランド議会、信任投票 |
6月12日 木曜日 | NATO事務総長訪伊、伊首相と会談 |
6月14日 土曜日 | ワシントンで軍事パレード |
6月15日 日曜日 | カナダでG7首脳会議(3日間) |
デンマーク首相と仏大統領がグリーンランドを訪問 |
最後にガザ・中東情勢について一言。9日、米大統領はイスラエル首相と電話会談した。詳細は不明だが、報道によれば、トランプ氏はホワイトハウスでイランとの交渉に関し、"We're doing a lot of work on Iran right now," "It's tough ... They're great negotiators."と述べたそうだ。さすがはイランである。
一方、イスラエル首相は「米大統領と話した。彼はイランとの協議が今週末も続くと述べていた」とのみ語った。まあこれだけでは分からないが、筆者の勝手な見立てはこうである。
というものだ。今週はこのくらいにしておこう。
2025年重要日程レポート23【6月9日版】
<今週以前から続く会議>
4月13日‐10月13日 大阪・関西万博が開幕
6月1日‐6月30日 ASEAN文化情報委員会情報小委員会第26回会合(26th ASEANCOCI-SCI)(ジャカルタ)
6月
2日‐6月13日 ILO、国際労働会議、第113回会期(ジュネーブ)
2日‐6月20日 拠出金委員会、第85回会議(ニューヨーク)
9日 サウジアラビア2025年第1四半期GDP発表
9日 中国5月貿易統計発表
9日 中国5月CPI発表
9日 メキシコ5月CPI・自動車生産・販売・輸出統計発表
9日‐6月11日 APHM International Healthcare Conference & Exhibition 2025(クアラルンプール)
9日‐6月13日 国連海洋会議(仏ニース)
9日‐6月13日 IAEA定例理事会(ウィーン)
9日‐6月13日 米アップル年次開発者会議「WWDC」(オンライン、加州クパチーノの本社でも開催)
9日‐6月20日 植民地及び植民地人民への独立付与宣言の実施状況に関する特別委員会、再開(ニューヨーク)
9日‐7月4日 ICAO、航空航法委員会、第229回会議(モントリオール)
9日‐7月4日 ICAO、理事会フェーズ、第235回会議(モントリオール)
10日 英国労働市場統計(2~4月)発表
10日 ブラジル5月IPCA発表
10日‐6月12日 タシケント国際投資フォーラム(ウズベキスタン・タシケント)
10日‐6月13日 ユニセフ執行委員会年次総会(ニューヨーク)
11日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表
11日 米国5月CPI発表
11日 ロシア5月CPI発表
12日 トルコ4月国際収支統計発表
12日 インド4月IIP発表
12日 インド5月CPI発表
12日 ブラジル4月月間小売り調査発表
12日‐6月13日 EU司法・内務相理事会(司法)(ルクセンブルク)
13日 東京都議選が告示
13日 フランス5月CPI発表
13日‐6月15日 UNIDO計画・予算委員会第41回会合(ウイーン)
14日 ILO理事会およびその委員会、第354回回会議(ジュネーブ)
15日 トルコ5月中央政府予算
15日‐6月17日 G7サミット首脳会合(カナダ・アルバータ州カナナスキス)
16日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ルクセンブルク)
16日 中国5月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
16日‐6月17日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
16日‐6月18日 Energy Asia 2025(クアラルンプール)
16日‐6月19日 欧州議会本会議(ストラスブール)
16日‐6月20日 拷問禁止委員会、拷問及びその他の残虐な、非人道的な、もしくは品位を傷つける取扱い又は刑罰の防止に関する小委員会、第56回会議(ジュネーブ)
16日‐6月20日 WMO執行理事会第79回会合(ジュネーブ)
16日‐6月26日 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、条約締約国会議の補助機関会合、第62回会合(独・ボン市)
16日‐7月4日 女性差別撤廃委員会第91回会議(ジュネーブ)
16日‐7月11日 人権理事会第59回会議(ジュネーブ)
17日 EU環境相理事会(ルクセンブルク)
17日 経済社会理事会、救済から開発への移行(ジュネーブ)
17日 米国5月小売統計発表
17日‐6月18日 ブラジル中央銀行、Copom
17日‐6月18日 米国FOMC、経済見通し発表
17日‐6月18日 米連邦公開市場委員会(FOMC)(FRB)
17日‐6月19日 国連女性機関、執行委員会、年次総会(ニューヨーク)
17日‐6月20日 パレスチナ問題の平和的解決と二国家解決の実施のためのハイレベル国際会議(予定)(ニューヨーク)
17日‐6月27日 ITU理事会、2025年会期(ジュネーブ)
18日 ユーロスタット、5月CPI(HICP)発表
18日 ロシア第1四半期経済活動別GDP発表
18日 英国5月CPI発表
18日‐6月21日 サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(ロシア・サンクトペテルブルク)
19日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルク)
19日 トルコ中銀政策金融会議
19日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(社会政策)(ルクセンブルク)
20日 トルコ5月中央政府予算
20日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルク)
20日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(保健)(ルクセンブルク)
22日 通常国会会期末(調整中)
22日 東京都議選投開票
22日 日韓基本条約締結から60年
23日 トルコ5月貿易統計発表
23日 UNEP常任代表委員会第170回会合(ナイロビ)
23日 シンガポール5月CPI発表
23日 メキシコ4月小売・卸売販売指数発表
23日 EU外相理事会(ルクセンブルク)
23日‐6月24日 グローバルAIショー・リヤド(リヤド)
23日‐6月25日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会第64回会期(ウイーン)
23日‐6月26日 サイバー・ウイーク 2025(テルアビブ)
23日‐7月31日 マレーシア国会第2回審議(第4会期)
24日 米国第2025年第1四半期国際収支統計発表
24日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
24日 EU一般問題理事会(ルクセンブルク)
24日‐6日26日 NATO首脳会議(オランダ・ハーグ)
25日 WTO2025年第1四半期財貿易統計発表
25日 ロシア1~5月鉱工業生産指数発表
25日‐6月27日 医療機器展示会「Africa Heatlh ExCon」(カイロ)
26日 イスラエル・モバイル・サミット2025(テルアビブ)
26日 米国2025年第1四半期GDP(確定値)発表
26日 メキシコ5月貿易統計発表
26日 ECB一般理事会(バーチャル会議)
26日‐6月27日 欧州理事会(ブリュッセル)
26日‐6月28日 フランス語圏経済人会議(REF)(コンゴ共和国・ブラザビル)
27日 ブラジル5月全国家計サンプル調査発表
27日 メキシコ5月雇用統計発表
27日‐6月30日 MIJF SE 2025 - Malaysia International Jewellery Fair Spring Edition(クアラルンプール)
30日 米国2025年第1四半期対外資産負債残高統計発表
7月
1日 ドイツ5月労働市場統計発表
1日 インドネシア6月CPI発表
1日 デンマークがEU議長国に(12月末まで)
2日 ユーロスタット、5月失業率発表
2日 ロシア第1四半期需要項目別GDP発表
2日 ブラジル5月鉱工業生産指数発表
2日‐7月6日 建材・建築・インテリア展(ジャカルタ)
3日 大エジプト博物館(GEM)開館式(カイロ)
3日 参院選が公示(調整中)
3日 トルコ6月CPI発表
3日 米国5月貿易統計発表
3日 米国6月雇用統計
5日 フィリピン6月CPI発表
5日 第58回ASEAN外相会議およびASEAN拡大外相会議〔58th ASEAN Foreign Ministers’ Meetings (AMM) and Post-Ministerial Conferences (PMC)〕(マレーシア)
6日‐7月7日 BRICS首脳会議(ブラジル・リオデジャネイロ)
6日‐7月7日 イスラエル中銀金融委員会会合・経済見通し発表
7日 メキシコ6月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日‐7月10日 欧州議会本会議(ストラスブール)
7日‐7月10日 産業博覧会「イノプロム」(ロシア・エカテリンブルク)
7日‐7月11日 第14回ASEAN・カナダ自由貿易協定(ACAFTA)貿易交渉委員会(TNC)および関連会合〔14th ACAFTA TNC Meeting and Related Meetings 〕(マレーシア)
8日 ブラジル5月月間小売り調査発表
8日‐7月11日 ASEAN関連外相会議(クアラルンプール)
9日 メキシコ6月CPI発表
9日 中国6月CPI発表
9日 米FOMC議事要旨(6月17、18日開催分)(FRB)
9日‐7月20日 AGROEXPO 2025(ボゴタ)
10日 大阪・関西万博アルジェリアナショナルデー(大阪)
10日 ブラジル6月IPCA発表
10日‐7月11日 ウクライナ復興会議(ローマ)
11日 ドイツ6月CPI発表
11日 トルコ6月国際収支統計発表
11日 トルコ6月中央政府予算
11日 ロシア6月CPI発表
11日 フランス6月CPI発表
11日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
13日 イスラエル6月財貿易統計発表
14日 中国第2四半期貿易統計発表
15日 中国第2四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
15日 サウジアラビア6月CPI発表
15日 イスラエル6月CPI発表
15日 米国6月CPI発表
15日‐7月17日 IEW2025 - 国際エネルギー週間2025(マレーシア)
16日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
16日 英国6月CPI発表
16日‐7月20日 中国国際サプライチェーン促進博覧会(北京)
17日 米国6月小売統計発表
17日 英国労働市場統計(3~5月)
17日 ユーロスタット、6月CPI(HICP)発表
17日‐7月18日 G20財務相・中央銀行総裁会議(南アフリカ共和国・クワズールナタール)
17日‐7月18日 水素を繋ぐAPAC2025(オーストラリア)
20日 参院選が投開票(調整中)
20日 イスラエル6月国別財貿易統計発表
21日‐7月23日 ビューティービジネスマレーシア2025(マレーシア)
22日 東京都議会議員任期満了
22日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
22日‐7月25日 フード&ホスピタリティ・エキスポ(ジャカルタ)
23日 シンガポール6月CPI発表
23日 大阪・関西万博エジプトナショナルデー(大阪)
23日‐7月24日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
24日 ロシア上半期鉱工業生産指数発表
24日 サウジアラビア5月貿易統計発表
24日 トルコ中銀金融政策会議
25日 ロシア中央銀行理事会
25日‐7月26日 全米知事会夏季会合(コロラド州コロラドスプリングス)
28日 メキシコ6月貿易統計・雇用統計発表
28日‐8月1日 第36回環境に関するASEAN高級実務者会議〔36th Meeting of ASEAN Senior Officials on Environment (ASOEN) and Related Meetings〕(マレーシア)
29日‐7月30日 ブラジル中央銀行、Copom
29日‐7月30日 米国FOMC
29日‐7月30日 オーストラリアクリーンエネルギーサミット(オーストラリア)
29日‐7月31日 国際農業技術、農業(ジャカルタ)
29日‐7月31日 鉄道輸送見本市(ジャカルタ)
29日‐7月31日 オフショア、海上貨物、造船所、海事産業博覧会(ジャカルタ)
29日‐7月31日 化学、石油化学、プロセス産業(ジャカルタ)
30日 ドイツ2025年第2四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 米国第2四半期GDP(速報値)発表
30日 カナダ中央銀行政策金利発表・金融政策報告書発表
30日‐8月1日 MIFB 2025 - マレーシア国際食品・飲料見本市(マレーシア)
31日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
31日 ドイツ6月労働市場統計発表
31日 トルコ6月貿易統計発表
31日 ケニア7月CPI発表
31日‐8月1日 大阪・関西万博サウジアラビア「Fortune Favors the Bold: Enabling the Start Up Ecosystem」(予定)(日本・大阪)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問