外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年3月24日(月)

デュポン・サークル便り(3月21日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは、気温が乱高下しつつも、確実に春の陽気を感じさせる日が増えてきました。桜も、レベル1(つぼみ)~6(満開)の6段階あるいわゆる「咲き加減」のうち、今日はついにレベル3まで到達。ピークは来週後半と言われています。が、これを書いている20日(木)は、午後から突風が吹き、雷雨。早咲きの桜の状態が心配です。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

今週のワシントンも、「DOGE祭り」が続いていますが、ここにきて徐々に、裁判所による「待った」がかかり始めました。3月19日には、連邦地方裁が、DOGEによる米国際開発援助庁(USAID)解体は違憲の可能性があるとして、現状以上にUSAIDの解体を進めることを禁じ、現在レイオフ状態になっているUSAID職員のメールアドレスの復活や、彼らがUSAIDの建物に入ることを再び認めることを命じる判断を下しました。既に、一部の連邦政府省庁については職員の大量レイオフは違憲であるとし、彼らを雇い戻すことを命じた判決が出るなどし、DOGE祭りはほんの少しではありますが、ペースダウンしてきました。

が、そんなことでひるんでいるトランプ大統領ではありません。3月20日(木)には、教育省の最終的解体に向けた措置を進めることをリンダ・マクマホン教育長官に命じる大統領令に署名。大学生に対する奨学金や、障害児・低所得者層児童に対する補助金などは「保存する」といいつつも、どうやって「保存」するつもりなのかは見えないまま。ただ、教育省についても、解体するには議会の立法措置が必要なので、これがいつ現実のものになるかは不明です。それでも、教育現場、とくに公立学校の教育現場は混乱がしばらく続くことになるでしょう。

トランプ大統領は相変わらず、外交問題でも話題に事欠きません。ロシア・ウクライナ戦争の調停に乗り出しているのは既に周知の事実ですが、なんと今週はプーチン露大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領の2人とそれぞれ、1対1で相次いで電話会談。ゼレンスキー大統領との会話の中では「ウクライナの原子力発電所をアメリカ資本が買収することほど、ウクライナにとって良い安全の保証はないと思うよ」などと発言し、諸外国を仰天させています。

このような感じで、政権発足以降、お騒がせ発言が相次ぐトランプ大統領の言動には「マジで?」と首をかしげたくなるものも多数。そんなトランプ大統領のアプローチについて、今日、第1次トランプ政権の時に実際にホワイトハウスで働いていたある知り合いがすごくわかりやすい解説をしてくれました。

それは「トランプの発言は、彼が目指す大まかな方向性を示してはくれるが、一挙手一投足で一喜一憂するのは精神的によくないからやめた方がいい」というもの。この人はカナダやグリーンランドに関するトランプ大統領発を例に、とても分かりやすい解説をしてくれました。曰く「別にカナダを本気でアメリカの51番目の州にしようとか、グリーンランドを場合によっては実力行使も辞さずに手にいれたいとか思ってない。だけど、米加関係や、米・グリーンランド関係を抜本的に見直したいと思っていることは事実」ということだそうです。なるほどなぁ・・・

それよりなにより、今、日本で大きな話題になっているのは、突如昨日ぐらいから降ってわいたように報道されている「在日米軍司令部格上げキャンセル?」事案。長らく、主に日米同盟の中でも政軍関係を担当し、海軍の第7艦隊や海兵隊の第3遠征軍のように実働部隊への指揮権がなかった在日米軍司令部を、自衛隊が統合軍司令部を立ち上げるのに合わせて権限も含めて強化し、実働部隊を指揮できる権限を持った司令部に作りなおそう、という話はバイデン政権末期の安全保障協議会(いわゆる2プラス2)で決められた日米間の合意事項。それが「キャンセルされるかも?」というので、日本では特に、外務・防衛関係者の皆さんの間で大騒ぎになっています。

このおおもとの報道をしたCNN電子版の報道記事を読むと、この「在日米軍司令部格上げキャンセル」は、国防省内でヘグセス新国防長官の下、「在外米軍の構成を抜本的に見直す」試みの一環として浮上した案だということです。また、日本ではここはあまり報道されていないかもしれませんが、「北方司令部と中央軍司令部をマージして『米州軍司令部』に作り直す」「欧州軍司令部とアフリカ軍司令部を統合する」など、実は、海外駐留米軍の構成を一から見直す抜本的な改編案も出されていて、今回の「在日米軍格上げ取りやめ」もその一環で「案」として浮上しているということです。ただ、これには、インド太平洋軍司令部以下、既に4つ星クラスの大将が司令官を務めている司令部や、既にインド太平洋内外で実働オペレーションをする権限を持って活動している海兵隊や海軍などの思惑が入り乱れている様子。なかなかセンシティブなトピックですが、こちらも、これからどのような動きになるのか目が離せません。まずは、来週、訪日予定のヘグセス国防長官が中谷防衛大臣と会う時に、同長官側から防衛費増額などについて具体的に言及するのか、注目です。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員