本レポートは、株式会社インテージ、株式会社インテージリサーチ、株式会社ナウキャストが共同で実施する、企業の価格設定行動に関する研究プロジェクトの成果物である。また、本レポートに含まれる研究成果の一部は、日本学術振興会(基盤研究A、「長期デフレの原因・帰結・経済厚生」、課題番号:23H00046)及びキヤノングローバル戦略研究所から支援を得た。
今月のポイント
- 店舗の販売価格をもとに算出したCPINOWは、昨年夏以降、インフレ率の減速傾向を示している。イラン戦争の勃発後も、この傾向に大きな変化はみられない。企業規模別にみると、足元では大企業のインフレ率低下が顕著である。
- 一方、家計の購買履歴データをもとに算出した購買価格のインフレ率は、減速に歯止めがかかりつつある。流通チャネル別では、スーパーマーケットで減速が続いている一方、ホームセンターとドラッグストアでは、5月、6月とインフレ率が上昇している。
- 家計の「体感インフレ」は、戦争勃発直後に上昇したものの、その後は加速せず、月を追うごとに低下している。直近では、戦争勃発前とほぼ同じ水準に戻っている。その背景としては、第一に、政府のエネルギー補助金によって、消費者がエネルギー価格の上昇を直接経験せずに済んでいること、第二に、戦争の影響が川上の企業間取引にとどまっていることが挙げられる。
- これに対して、家計の「インフレ予想」は、戦争勃発直後に大きく上昇し、その後も高い水準で推移した。ただし、足元の2026年5月、6月には、緩やかな低下がみられる。
- 賃金の先行きに対する家計の見方は、戦争勃発後、緩やかながら悪化している。その背景には、年後半以降の雇用環境、特に来年の春闘に対する懸念があると考えられる。
- 実質賃金の先行きについても、家計の見方は引き続き悲観的である。実質賃金の上昇を予想する回答者は3%、横ばいを予想する回答者は13%にとどまる一方、低下を予想する回答者は84%に達している。
- 家計の購買数量は、2024年春以降、前年をわずかに下回る水準で推移してきたが、足元の2026年6月にはマイナス幅が拡大している。その主因は、購買金額の伸び率がプラスからマイナスに転じたことである。年代別にみると、30代から50代で落ち込みが大きい。また、所得階層別では、年収700万~900万円、および900万円超の比較的所得の高い層で、伸び率の低下が顕著である。
- 家計の購買履歴データから節約行動を分析すると、二つの代替行動が引き続き確認される。一つは、値上がり幅の大きい商品から小さい商品へと購入対象を切り替える「商品間の代替」である。もう一つは、距離が遠く利便性が低くても、より価格の安い店舗を利用する「店舗間の代替」である。家計は、これら二つの代替行動を通じて節約を続けている。
- 各家計が実際に経験したインフレ率と、その家計のインフレ予想との関係を分析すると、二つの特徴が確認された。第一に、実際に高いインフレを経験した家計ほど、インフレ予想も高い傾向がある。第二に、時期によっては、高いインフレを経験していない家計が、高いインフレを予想するケースもみられる。これらの結果は、インフレ・ショックが家計の予想に波及する過程を示唆している。すなわち、ショックの発生直後には、まず、その影響を実際に経験した家計がインフレ予想を引き上げる。その後、ショックを直接経験していない家計にも、メディア報道などを通じて情報が伝わり、インフレ予想の上昇が広がっていく、というメカニズムである。