ワーキングペーパー  エネルギー・環境  2026.06.04

ワーキング・ペーパー(25-005J)「このままでは気候危機に」の根拠となってきた排出シナリオが「妥当でない」とされた理由

本稿はワーキングペーパーです。

地球温暖化

要旨

気候変動の影響評価、メディア報道、政府の政策広報において、IPCCが用いてきたRCP8.5ないしSSP5-8.5(以下まとめて8.5シナリオと呼ぶ)は長らく「このままならば」「追加的な温暖化対策を取らなかった場合」の未来として扱われてきた。だが、この扱いは誤りであった。2026年に公表されたCMIP7に向けたScenarioMIPの設計論文は、SSP5-8.5のような高排出水準を、近年の再生可能エネルギー費用、気候政策、排出動向に照らして「もはや妥当でない」ものとして扱った。これは、従来の8.5シナリオが、次期評価の中心的な高排出シナリオから事実上退場したことを意味する。

ここで重要なのは、8.5シナリオが喧伝されるように「脱炭素政策の成功によって初めて非現実的になった」のではない、という点である。8.5シナリオの中核には、石油・ガスの資源枯渇、石炭利用への大規模な回帰、石炭液化技術の大規模利用、低炭素技術の停滞という、もともと現実離れした仮定があった。Ritchie and Dowlatabadiによれば、RCP8.5の21世紀の化石燃料由来CO2排出7,200GtCO2のうち、石炭だけで3,800GtCO2を占める。Carbon BriefはRCP8.5/SSP5-8.5級のシナリオでは2100年の石炭利用が現在の約6.5倍になると整理し、Roger Pielke Jr.は石炭由来一次エネルギーが約8倍に増えることを指摘している。これは単なる現状延長ではない。

本稿は、8.5シナリオの由来、化石燃料別の定量的前提、そしてそれが政府資料・啓発資料・メディアにおいて「このままならば」として流通してきた実例を検討する。今後の気候影響評価と政策論においては、これまで頻繁に用いられてきた8.5シナリオに基づいたものは棄却すべきである。

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