コラム  国際交流  2026.05.15

『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第205号 (2026年5月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

先月もAI・Roboticsを巡って、内外の友人達との情報交換で忙しい毎日を過ごした。

先月は最近のAI関連資料を中心に友人達と意見交換をした。特に①OECDの“The OECD.AI Index”(2月19日公表)、それに関連してOECD主催のhybrid国際会議、また②OECDのAI関連の事件や危険性に関する資料(2月10日公表)や③Stanfordの研究機関による“AI Index Report”(4月13日公表)、更には④国際決済銀行(BIS)のworking paper(“The Geography of AI Firms”、4月20日公表)が友人達との中心的な話題であった(PDF版の2参照。尚、国際エネルギー機関(IEA)も4月16日に報告書(“Energy and AI”)を公表しているが、小誌紙面の制約上省略)。

①の“The OECD.AI Index”は50ページを超える資料であり、AI分野の水準を6分野に分けて各国別に評価している。即ち(a)総合評価、(b)R&D活動、(c)AI関連インフラ、(d)政策的支援、(e)AI関連労働市場、(f)国際協力である。予想された通り米国が圧倒的な優位を示す。ただ米国は国内におけるAI産業が活発であるため、競争が厳しい労働市場や国内での活発な組織間協力を反映して、(d)や(e)の指標では順位を落としている。因みに日本は(a)20位、(b)26位、(c)18位、(d)16位、(e)16位、(f)21位だ(PDF版の表1参照)。このOECDの資料にはAI先進国である中国やシンガポールが入っていない。この事を勘案すれば日本の国際的順位は更に下がるであろう。

AI分野で抬頭する中国やインドをも統計に取り込んだOECD資料を見ると、AI関連出版物における中印両国のシェア拡大は顕著だ(PDF版図1参照)。但し、この統計では中国の出版物における英語・中国語の識別がされていないので、国際的なAI情報としての中国のシェアがどの程度あるのか分からない。この点についても友人達と語り合った。また、米国はシェアこそ落としてはいるものの、高品質のAI研究という視点では過小評価は出来ない。そして、往々にして正当な評価が時間的に遅れる独創的研究の多さを反映するからか、所謂“査読前(preprint)”の出版物が、中国に比較すると多い事が資料からうかがい知れる(PDF版図2参照)。

独仏両国の友人達とは、独仏両国が残念な事に主導的役割を果たしておらず、欧州では北欧諸国やスイス等の小国が健闘している状態に関して議論した。またドイツの友人達とは、彼等の国の(c)AI関連インフラが33位と低い状態を話し合った。これに関して4月7日にケルンのthink tank(ドイツ経済研究所(IW))が発表した英語での論文(AI Competitiveness: How the EU Compares to the US and China”)が興味深い。また、その1ヵ月前の3月5日、独技術者協会(VDI)も大変興味深い報告書を公表している(„Transformation des Gesundheitswesens: Potenziale und Implikationen von Künstlicher Intelligenz und Robotik in Deutschland“; 仮題: 「ヘルスケア・システム変更: ドイツのAI・Roboticsの潜在力と実装化」)。VDIは報告書の中で、医療・看護分野における未発達なAIの主原因がICT関連インフラの未整備状態である事を次の様に記している: 
国際比較でみたドイツのデジタル化の遅れは明白だ。全国レベルでの電子カルテ利用は実現していない。しかも、多くの事務処理が依然として紙ベースで処理されている(Der Digitalisierungsrückstand ist im internationalen Vergleich weiterhin deutlich sichtbar: Elektronische Patientenakten sind bislang nicht flächendeckend implementiert, die Interoperabilität ist begrenzt, viele Prozesse bleiben papierbasiert、PDF版2を参照)。

OECD主催のhybrid会議では、冒頭でToronto大学のアヴィ・ゴールドファーブ教授が基調講演を行った(OECD International Conference on AI in Work, Innovation, Productivity and Skills (AI-WIPS))。教授はAIと雇用の問題について語り、Stanford大学のブリンニョルフソン教授による研究に触れて、米国の上記(e)で示した労働市場における若年層に対するAIの影響を語った(小誌昨年10月(第198)号を参照)。

②の資料も極めて重要だ(“Trends in AI Incidents and Hazards Reported by the Media”)。筆者は3月29日の米メディア(CNN)の報道記事に接し、AIに対して強い警戒心を抱いている。記事は、テネシー州の或る婦人が訪れてもいない州で、AIの顔認証に基づき犯人として逮捕され、しかも長期間拘束された事を伝えている(“Police Used AI Facial Recognition to Arrest a Tennessee Woman for Crimes Committed in a State She Says She’s Never Visited”)。改めてAIを妄信する事の危険性を痛感した。さてOECD資料は、AIが社会に浸透するに従い、AI関連の事件や危険性に関する報道件数が次第に増加する傾向にある事を示している。但し、AI関連のメディア報道件数自体が増加しているため、事件や危険に関する報道の比率は目立って上昇していない事も理解する必要があろう。更には、事件や危険の種類も、AIの適用領域が拡大するに従い多様化すると考えられ、事件や危険の種類別に対策を練る必要に迫られる事になるであろう(PDF版の図3及び4、表2参照)。

③のStanford Institute for Human-Centered Artificial Intelligence (HAI)公表の400ページを超える報告書は、膨大な情報を提供してくれる。(昨年版は450ページを超えていたので、ページ数が少し減っている(小誌昨年5月(193)号参照))。本年版報告書の中の研究者や投資額関連情報、また企業や集積地の関連情報は、PDF版の表3を参照されたい。こうした中、筆者は日本のAI研究者の健闘を祈るばかりである。

④の国際決済銀行(BIS)のworking paper(“The Geography of AI Fims”)は、取得可能な統計を利用してAI企業の所在をグローバルに概観する事を目的に作成されている。予想した通り米中両国が中心で、欧州諸国、更には日本や台湾、インド、豪州に多くのAI企業が所在する。またAI企業の時価総額を各国の経済規模(GDP)と比較した場合、台湾や米国が高い事を示した(PDF版図5及び6を参照)。友人達とは、活動領域が多様化した故に、AI企業を細分化して分析しなければ、明確な知見が得れないのかも、と語り合っている。

筆者はAIの専門家ではないが、若い時からAIを横目で眺めつつ年月を重ねてきた。大学生時代にウィーナー博士の著書(Cybernetics)に感動し、第2次AI boomの時には上司から自主研究でAI system構築を命じられ、結果を小論にまとめた。またその成果を京都大学の佐和隆光教授・日経新聞主催の研究会で報告したが、(当時の)AIの限界を別にすれば、事例研究として一番良いとお褒めの言葉を頂いた。そのお陰で国際政治学者、故ヘイワード・アルカーMIT教授がMIT AI Labの研究者達を紹介して下さった(小誌2017年7月(第99)号参照)。

また現在のAI boom初期、Chess Grandmasterのケネス・ロゴフHarvard大学教授がAIの“復権”を教えて下さった(例えば“Artificial Intelligence and Globalization,” Project Syndicate, March 2, 2006を参照)。そのお陰で2007年にはAspen InstituteでAI研究者達と議論する機会を得た。

そして今、AIの社会実装に関して様々な専門家達と議論を楽しんでいる。こうした中、台湾の友人から、4月26日、天才的AI研究者のAudrey Tang(唐鳳)氏が「人工知能を(なさけ深い)“仁工知能”へと転換しよう(人工智慧轉化為仁工智慧)」と語っていると聞いた(PDF版2の“「我是海外特派員」培訓 唐鳳勉AI應是仁工智慧”を参照)。AIはRoboticsと共に優れた軍民両用技術(DUT)。技術に悪意が無くとも、技術を使う人が“悪人”ならば技術までも“悪者”になってしまう事に十分注意しつつ、友人達と議論を続けてゆきたい。

AIと密接に関連するRoboticsに関しては、高齢化社会を見据えたStanford Robotics Center (SRC)の研究活動について友人達と議論した(PDF版2の“Researchers Prepare Robots for an Aging Society”を参照)。Stanfordの研究者達は、これまでのthe “Three Ds”—dull, dirty, and dangerousという、日本の3K: “キツイ、汚い、危険”に類似した仕事—に加えて、新たな“D”である“domestic(家事)”を有望研究領域として考えている。筆者は小誌を通じdomestic roboticsは黎明期で、社会実装化・事業化が非常に難しいと語ってきた。それだけにSRCの研究者達の挑戦に注目している。Stanford情報の中で筆者が注目するのは、今“ハヤリ”のhumanoid robotに懐疑的なアリソン・オカムラ教授の挑戦だ。彼女は「小型で特定の仕事に限定されてはいるが“ヒト型でない”ヒトを助けるrobot」を考えている。教授の発想は独創的で素晴らしい。服の着脱に困難を感じる人を助ける蔦(つた)の形態をしたvine robotだ。筆者は日頃友人達に「“人型”に固執するのは何故?」と質問している。そして「ヒトを助けるためならば、“千手観音”の様にrobotは手を沢山持った方が良いかも?」と話している。いずれにせよ、SRCを含む世界のdomestic robotics研究が近い将来、独創的・革新的な製品を生み出し、社会実装化・事業化してくれる事を期待している。

AI・Roboticsを具現化した兵器が戦場で漸次開発されている厳しい現実をどう考えるべきか。

筆者は、優れた日本の科学技術者に、世界的な学会の雑誌(IEEE Spectrum)の3月24日付記事を是非とも読んで頂きたいと思っている。何故なら、露軍のウクライナ侵攻や米国・イスラエルのイラン攻撃以降、AI・Robotics関連技術がいかなる形で戦争に導入され、しかも更に技術が洗練されて飛躍的発展を遂げているのか、その過程をうかがい知れるからだ(“The Coming Drone-War Inflection in Ukraine: How AI Is Ushering in an Era of Autonomous Swarming Drones”、PDF版2を参照)。即ちAI-embedded autonomous dronesが日進月歩で進歩しているのだ。

Googleの元CEO、エリック・シュミット氏の会社(Swift Beat)も、自律型ドローンをウクライナ軍に供給している。そして今、この記事の最後に記された言葉を筆者は何度も読み返している—“When autonomous killing machines become widely available, it’s likely that no city will be safe.”
こうした恐ろしい事態を防ぎ得るのは、クラウゼヴィッツの格言が正しいとするならば、優れた政治家のみである。即ち、

戦争とは政治の舞台における異なる手段を以てする政治の継続に外ならぬ
(Der Krieg ist eine bloße Fortsetzung der Politik mit anderen Mitteln; War is a mere continuation of policy by other means)。

優れた政治家が戦争を一日も早く終結させ、AI・Roboticsを平和利用へと政策的に導いてくれる事を願っている。

世界平和を願うとともに、単に祈るだけでは平和が到来しない事も銘記すべきで、国防を怠ってはならぬ事も真実である。従って日本は国際秩序に関して価値観を共有する諸国と協力し、国防関連のAI・Roboticsの発展を後押ししなくてはならない。しかも誤用・濫用を防ぐため、政治家や国防関係の人々を妄信して一任してはいけない。即ち最終的判断は国民自身がしなくてはならないのだ。何故なら、生死に関わる危険性がいつでも起こり得るからだ。その証左となるのは米軍軍事作戦(Operation Epic Fury)での惨事だ。The AI-enabled Maven Smart System(MSS)が、“誤ったdata”に基づきイランの小学校を敵の基地と“誤認”し、2月28日、罪無き子供達の命を数多く消した悲劇だ!! 一体誰の責任か?! これに関して永岩俊道航空自衛隊元空将は、Web上に「『もっともらしい嘘』が招く、軍事意思決定の破壊的リスク」と題して、AIが示す一見「もっともらしい嘘」とそれを妄信する指揮官の責任という問題に触れている(note.com、3月27日)。

ウクライナ・中東での戦闘の行方は? いつまで続くのか? 世界の政治経済社会への影響は?

2月28日に始まったイラン戦争はいつ、いかなる形で終結するのか? 筆者は今、国際政治学者の故スタンリー・ホフマンHarvard教授と共にレイモン・アロンに関して語り合った昔を想い起こしている—「戦争計画の方程式を解くために考慮すべき変数は、ニュートンの如き天才をしても歯がたたないほど多い。彼のような数学者が解け得ないものを、指導者は直感で瞬時に掴み取ってしまう(Le nombre des variables à prendre en compte, pour résoudre l'équation du plan de guerre, défie le génie d'un Newton; ce que le mathématicien ne parvient pas à calculer, l'intuition du chef le saisit d'un coup)」とアロンは語った。トランプ大統領やネタニヤフ首相、またプーチン大統領の“直感”は本当に正しかったのか。もしも、彼等の直観が完全に的外れであったなら、交戦国のみならず世界全体の人々が不幸に陥ってしまうのではないだろうか。

これに関して、フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領が2026年1月に発表した著書の冒頭が衝撃的だ(The Triangle of Power: Rebalancing the New World Order)。それは2022年、当時一旦政界を引退していた彼が、露軍によるウクライナ侵攻直後、ラブロフ露外相に直接電話をして話した時の描写だ。その時の彼の“直感”は次の通り—“The End of (フランシス・フクヤマの主張である)The End of History”、と。だが大統領は依然として楽観的だ。その理由として、彼は“Pessimism leads to inaction, optimism to action, realism to solutions”と述べている。確かに、彼のような傑出したoptimistic realistの政治家が世界に数多く現れれば、a new world orderが出現するかも知れない。

しかし、現実には米中大国間競争の行方が判らない以上、周辺諸国は如何なる状況下にも柔軟に適応出来る態勢を取らざるを得ない。しかも多くの国際政治学者が指摘する通り、米国現政権は大西洋を挟んで欧州諸国との袂を分かち、日本や豪州に対し負担移譲というoffshore balancing strategyを採ろうとしている。この事は4月6日のトランプ大統領の発言に表されている—即ち、“I’ve always said NATO is a paper tiger”と語り、また“We’ve got 50,000 soldiers in Japan to protect them from North Korea. . . . Japan didn’t help us, Australia didn’t help us, South Korea didn't help us”とトランプ大統領は語った。こうした中、米国以外の西側諸国、中国以外の第三世界は如何に対応すべきか。

欧州最強の国、ドイツは「米国か中国か、それとも独自路線か?」と国際戦略に関して悩みに悩んでいる。こうした中、独連邦国防省(BMVg)は、4月22日、「包括的・統合的国防指針(Gesamtkonzeption für militärische Verteidigung aus einem Guss)」を発表し、報告書を提出した(„Gesamtkonzeption militärische Verteidigung (GKmV): Militärstrategie und Plan für die Streitkräfte, Verantwortung für Europa“; 仮題: 「国防概論: 国軍の戦略及び計画、欧州に対する責任として」)。一方で対中経済関係も捨て難い(これに関して、英国の専門家が3月末にJournal of Political Economyのonline上に論文を発表した。PDF版2の“Which Side Are You On? Geoeconomic Coercion and German Corporate Networks in the US-China Rivalry”参照)。

米国は同盟国と対立するだけでなく国内でも対立を発生させている。こうした中、笑いが止まらないのは中国だ。英国The Economist誌は4月1日、“How China Hopes to Win from the War: Never Interrupt Your Enemy When He Is Making a Mistake”と題した記事を掲載した。これを読み「我が意を得た」とばかりに、フランスの友人に対し「正確な出典を知らないが … “N'interrompez jamais un ennemi qui est en train de faire une erreur (敵が過ちを犯している時には、決して邪魔をするものではない)”と有名なNapoléonの言葉を思い出したよ」と伝えた。

米国が欧州・中東で苦慮する中、中国は着々とAsia/Pacific地域での勢力拡大を進めている(例えばPDF版2のWall Street Journal紙の記事: “China Is Building Another Massive Base in the South China Sea; 中国重启南中国海造岛行动, 羚羊礁或成最大军事基地”を参照)。勿論、米側も中国の動きに座視していない(例えば、PDF版2の4月発刊の本(Defending Taiwan: A Strategy to Prevent War with China («保卫台湾: 防止与中国开战的策略»)参照)。

さて、日本の戦略は? シンガポールの友人が同国の記事に触れ、筆者に質問を送ってきた(1895年の「下関条約」締結記念の日、自衛艦が台湾海峡通過した際、中国側の対応を報じた記事: “«马关条约»131周年日舰穿越台海 大陆解放军东海军演回应”、PDF版2を参照)。

戦闘はいつか終わる。否、終わらせなくてはならない。だが、人々の心の傷は消えない。

3月に刊行されたサヘル・ローズさんの本を読んだ(『生きることから、すべては始まる: 希望の地図を探す旅人』)。戦争は、日本にとって “遠い国の出来事”でないし、しかも“見ないふり”さえ決して出来ない事なのだ。彼女は「“停戦”は戦争の終わりではなく、やっと息が出来る“休み時間”のようなもの」と述べ、更には「世界のどこかで泣いている人がいる事を、ほんの少しだけ思い出してくれる」事を望んでいる。
同書の中には敬愛するショパン、アインシュタイン、ヤスパース、J・S・ミル、ハンナ・アーレントが登場する。世界中を巡り、人々と直接対話すると同時に、哲学や歴史を“常に学ぶ”彼女の姿勢は素晴らしい。そして今、筆者はエピクロス先生の言葉を思い出している。曰く、「哲学者のふりをしてはならず、実際に哲学しなければならぬ(We must not pretend to be philosophers, but be philosophers in truth; Ού προσποιεῖσθαι δεῖ φιλοσοφεῖν, ἀλλὰ κατ’ ἀλήθειαν)」、「むなしいのは、人間の苦悩を治すことの出来ない哲学者の言葉である(Vain is the word of a philosopher which does not heal any suffering of man; Κενὸς φιλοσόφου λόγος, ὑφ’ οὗ μηδὲν πάθος ἀνθρώπου θεραπεύεται)」。即ち我々の言葉と行動が今問われているのだ。

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