コラム  国際交流  2026.04.03

『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第204号 (2026年4月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

科学技術・イノベーション AI・ビッグデータ

米国の大学に対する海外からの多額の寄付・研究助成金について内外の友人達と議論した。

小誌先月号で触れたHarvardのCenter for Business and Government(CBG)の友人達と議論する機会に恵まれた。CBGは将来、企業戦略と公共政策が複雑に絡む問題が急速に増大するとの予想に基づいて、Business School (HBS)とKennedy School (HKS)が合同で設立した組織だ。現在、まさしく政治・軍事・技術、更には企業活動や国民生活が複雑に絡み合った問題が噴出している。こうした中、Harvardは海外から多額の寄付・研究助成金を受け取っている。これに関して2月11日、米国教育省(ED)が新しい統計を公表した(小誌前月号の2参照)。

統計は25万ドル以上の金額に関する集計値である。そして①国別金額、②大学別受領金額、③米国が監視する団体別金額、④監視理由別金額、⑤米国が監視する国の団体から受け取っている大学、⑥米国が監視する中国系団体から受け取っている大学が公開されている。

海外からの多額の寄付・研究助成金の集計を開始したのは1986年。しかし累計総額の大半は2019年からであり、676億ドルであった(2月時点の為替で換算すると約10兆円であり、2019年以降の平均を考えると年間約1兆円が海外から米国の大学に流れている形だ)。

2025年の受領総額52億ドルを国別に見ると1位カタール(11億ドル)、2位英国(6.3億ドル)、3位中国(5.3億ドル)、4位スイス(4.5億ドル)、5位日本(3.7億ドル)、6位がドイツ(2.9億ドル)、7位がサウジアラビア(2.9億ドル)だ。受領大学は、1位Carnegie Mellon (CMU)(10億ドル)、2位MIT(10億ドル)、3位Stanford(7.8億ドル)、4位Harvard(3.2億ドル)。

次に1986年以降の累計額で見てみよう(PDF版の表参照。勿論、EDのデータ・ベースを見れば、更に詳しい情報が得られる)。

①国別累計額を見ると、1位カタール(88億ドル)、2位中国(68億ドル)、3位ドイツ(49億ドル)で、日本は8位で(38億ドル)。
②受領大学の累計額では、1位Harvard、2位Cornell、3位Carnegie Mellon (CMU)、4位MIT、5位Pennsylvania。
③米国政府が監視する寄付・助成団体を累計額で見ると、1位がロシアのSokolkovo Foundation (Фонд Сколково)で、2位が北京理工大学(BIT)、3位が中華国際航空、4位が華為であり、1位を除き残りのBest 10は全て中国の団体が占めている。
④監視理由別では、1位が商務省安全保障局(BIS)のEntity List、2位は2019年国防権限法(NDAA)第1286条に基づく戦争省(DoW)作成リスト、3位と4位は財務省外国資産管理局(OFAC)によるCMIC(Chinese Military-Industrial Complex)及びCCMC(Communist Chinese Military Companies)に関するリストである。
⑤米国政府が監視する寄付・助成団体からの受領大学の累計額では、1位Harvard、2位MIT、3位New York(NYU)、4位Stanford。
⑥上記の⑤のうち、中国の寄付・助成団体からの受領大学で見ると、1位Harvard、2位NYU、3位Stanford、4位Yale、5位MIT。

政治・軍事・技術が複雑に絡む問題が増えるに従い、優れた米国の政治経済学者や科学技術の専門家、更には研究助成を行う欧米企業との国際ネットワークが重要になってくるであろう。と同時に、米国政府が監視する団体・個人との接触に関しては、日米同盟の関係上、注意を怠ってはならない。これに関して小誌前号で触れたLondon School of Economics(LSE)金刻羽(Keyu Jin)教授が2月末に興味深い発言をした。中国は海外に若い人材と資金を送っている。教授は中国政府高官と面談した時、次のように説明を受けたという—中国は国内から人材が流出しているとは考えない。彼等を送り出しているのだ、と。即ち「海外で最先端の知識・情報を掴み、それらを携えて国力増強のために中国に戻る」という洗練された人材循環体系(sophisticated talent circulation system)を中国は構築した、と教授は語った。

この問題に関して、米国の優れたジャーナリストが2017年に著書を発表している(Spy Schools: How the CIA, FBI, and Foreign Intelligence Secretly Exploit America’s Universities; 邦訳『盗まれる大学: 中国スパイと機密漏洩』)。同書の中には、或る中国人が米国で学んだ後、帰国時に中国政府から多額の資金援助を受けた結果、サクセス・ストーリーを実現した例が記されている。即ち:

(問題の中国人である)劉氏は、警戒心を抱かない(或るデューク大学)教授につけ込み、また(アカデミックな)共同研究の曖昧な指針や大学のグローバルな文化を逆手にとって、国防総省が資金を出している研究内容を中国に流した(Liu exploited an unwary professor, lax collaboration guidelines, and Duke's open, global culture by funneling Pentagon-funded research to China.)。

こうした中、筆者は昨年末の英国出張時に「日本の大学は大丈夫?」とOxford大学の友人から聞かれたのを思い出している。

揺籃期にあるAI自体が抱える問題、また医療や国防分野に対するAIの活用に関して友人達と議論した。

AIに関する情報が滝の如く筆者の許に届く。それを理解するにはどうしても友人達の知恵を借りる必要がある。このため、面談或いはonline上での情報交換に忙しい毎日だ。話題は、①揺籃期にあるAIの信頼性、②AIが生産性や労働市場に与える影響、③AIの活用例、④AIの軍事利用であり、この4つの問題について友人達から知恵を授かった(PDF版2を参照)。

AIの信頼性に関してはAIが揺籃期にある事に加え、人間がAIを妄信する危険性が指摘されている。その原因とは人間本来の気質に起因するとWall Street Journal紙が報告した(“Why Even Smart People Believe AI Is Really Thinking; WSJ日本語版: AIは「自ら思考」 賢明な人でも信じてしまう訳,” March 20)。即ち「AIは思考している“ふり”が出来る。このため人はAIが思考したと“感じ”る」。この点に関し、DeepMindの設立者は「あたかも意識が有るかのように映るAI(seemingly conscious AIs)」に警鐘を鳴らす。AIを使った人はTuring Testをご存知だろう。Turing Testは「機械が知性を持つ事を証明するためではなく、知性が無くとも機械が流暢な言語を持つ事を示すか否か」を示すためのものだ。元来人間には次の2つの気質がある—①言葉の流暢さに知性を“感じる”、②動物や、AIを含む無生物さえ“擬人化する”気質だ。無機物であるAIの回答を、“知性的で心を込めた”回答として人間が“感じ”取り、心打たれて妄信する危険性が存在する、と専門家達は指摘している。

揺籃期のAIを妄信する危険性が指摘されているとは言え、AIの有用性に関して様々な情報も届いている。筆者が先月注目したのは、医療分野だ。例えばUS San Francisco(USSF)のデジタル医療専門家が2月に公表した本(A Giant Leap: How AI Is Transforming Healthcare and What That Means for Our Future)やNew York Times紙の3月12日付記事(“A.I. Chatbots Want Your Health Records. Tread Carefully”)を巡り議論した。

また軍事利用に関し先月意見交換した時の資料は、例えばMIT Technology Review誌の17日付記事(“The Pentagon Is Planning for AI Companies to Train on Classified Data, Defense Official Says”)やthink tank(CNAS)主催の25日のonline eventだ(“Project Maven: Artificial Intelligence in Warfare”)。

米中大国間競争の影響で、暗雲漂うレアアースを巡るglobal supply chains。

3月22日付のWall Street Journal紙の記事は衝撃的で、特にrare earthsについて友人達と議論をした( “The New Weapons of Global Power Are Oil, Rare Earths and Microchips; WSJ日本語版: 世界の覇権争い、原油・レアアース・半導体が「武器」に; 全球博弈的新武器: 石油、稀土和芯片)。

同紙は米国think tank(CFR)の専門家、エドワード・フィッシュマン氏の見解を紹介している—「近年の経済戦争に関して最も効果的だったのは中国のrare earths禁輸(The most effective use of economic warfare we have seen in recent years was the Chinese rare-earths embargo; 近年来看到的最有效的经济战手段,莫过于中国发起的稀土禁运)」。因みに彼は昨年優れた本を著している(Chokepoints: American Power in the Age of Economic Warfare; 邦訳『チョークポイント アメリカが仕掛ける世界経済戦争の内幕』; «瓶頸: 經濟戰時代的美國力量», 小誌193号(2025年5月)参照)。

中国のrare earths戦略に対する米国の注意不足は、小誌で何度も記した通り、本当に不思議だ。主要な軍民両用技術(DUT)であるelectronicsにはrare earthsが不可欠だ。この資源に関し中国が圧倒的支配力を有し、それを戦略的政策手段としている事は周知のはずだ。しかも、日本が2010年に直面し、大変苦悩したrare earthsに関する中国の強力な戦略的対抗策を、米国現政権は想定していなかったのだろうか。

筆者がrare earthsに関し意見を初めて公表したのは2009年3月—コラムを担当していた『Wedge』誌に「発見! 資源大国日本」を執筆した。当時の筆者は米国Cambridgeに居たためrare earthsの戦略的価値に対する関心が強い友人達に囲まれていた。このため①中国の研究所が2006年4月に公表した軍事技術関連資料(湖南稀土金属材料研究院(Hunan Rare-Earth Materials Research Academy), «稀土材料在现代军事技术上的应用及发展趋势»)や②米国連邦議会調査局(CRS)のマーク・ハンフリーズ氏が適宜updated editionsを公表している資料の初期の報告書(“Rare Earth Elements: Global Supply Chain,” July 2008)に関して友人達と議論していた。特に①では、1990年湾岸戦争で電子戦(electronic warfare)に関して米軍の圧倒的強さを目の当たりにした中国の専門家が下した結論が「Rare earthsは現代工業のビタミン(现代工业的维生素)」だった。当時の中国の友人達は筆者に対して「湾岸戦争時、希土類元素ランタンを使用した暗視装置は米軍に圧倒的優位性をもたらした(在海湾战争中,加入稀土元素镧的夜视仪成为美军压倒性优势的来源)」と伝えている。それ以来、筆者は小誌を通じてrare earths問題に時折触れてきた。

鄧小平氏が1992年に語った有名な言葉「中東に石油有り、中国にレアアース有り (中东有石油、中国有稀土; There is oil in the Middle East and rare earth in China)」は小誌昨年6月号で触れた。1992年当時、鄧小平はrare earthsの比類なき戦略的優位性に自信を持っていたに違いない。何故なら中国は文化大革命(文革)直後からrare earths戦略に取り組んでいたからだ。米国に留学した後に北京大学教授を務めていた徐光憲と同じ専門家で妻の高小霞が、文革直後に釈放されて希土類元素(プラセオジム)の研究を開始した。1980年には中国稀土学会が設立され、rare earths産業が急速に発展する。そして1985年には中国レアース情報センター(中国稀土信息中心 (CREIC))が設立される。興味深い事に、CREICはrare earths研究の世界的“総本山”であるIowa州エネルギー省(DOE)エイムズ研究所(Ames Laboratory)を模して設立された。

日本が苦しんだrare earths危機は2010年9月7日の尖閣諸島中国漁船衝突事件後に勃発した。実は米国もrare earths危機直前の状態に陥っていた。しかもそれは日本の危機“以前”なのだ!! 2010年1月29日、オバマ政権は台湾への武器輸出を公表した。これに対し中国は猛烈な反発を示した(例えば米国think tank(Stimson Center)資料を参照(US Arms Sales To Taiwan – Beijing Reacts Sharply, Feb. 1, 2010))。

非公式ではあったが、中国がrare earths禁輸をほのめかしたため、危機感を覚えた米国連邦議会下院は、3月16日、公聴会を開催した(“Rare Earth Minerals and 21st Century Industry”)。公聴会では西半球最大のレアアース採掘企業のCEOが証言し、次の3つの問題を指摘した。①Rare earthsはクリーン・エネルギーと国防の技術に不可欠、②Rare earthsの生産は中国がほぼ独占、③従って中国が国内消費を拡大すれば、他国は供給元を失う(1) the indispensability of rare earths in key clean energy and defense technologies; 2) the dominance of rare earth production by one country, China, and 3) China's accelerating consumption of their own rare earth resources, leaving the rest of the world without a viable alternative source)。

また“Mr. Rare Earth”と呼ばれたエイムズ研究所のSenior ScientistでIowa State大学(ISU)教授でもある専門家も証言し、次の様に語った—エイムズの黄金期は1950年代から1970年代であり…(rare earth分野における中国の抬頭で米国の)専門家達は他産業に移り、或いは引退するか、或いは死亡した結果、基本的には専門知識の真空状態となっている(The time span of the 1950s through the 1970s was the golden age of rare earth research at the Ames Laboratory. . . . Some of these experts have moved on to other industries, others have retired, and others have died, basically leaving behind an intellectual vacuum)。即ちrare earths問題は、16年前に米国内でも問題視されていた。従って現政権は前もって遥かに優れた対中戦略を採れたはずだ!!現在のrare earths危機発生後に対中依存度低下の対策を初めて考えるなんて、まさに“順序が逆(put the cart before the horse)”ではないのか!!

日本のレアアースの将来について、ドイツの友人達との対話を楽しんだ。

日本のrare earthに関する資源政策を巡って、楽観論・悲観論が交錯している。素人の筆者は判断する能力を持たないが、デジタル機器を利用する立場から、現在の動向を簡単に整理してみたい。

世界で初めて深海約6千メートルからのレアアース泥の採鉱を成功させた事は実に嬉しい事である。これに関し関係者の石井正一氏が『文藝春秋』4月号に掲載した小論を読み、「道程は長い(a long way to go)」と感じた次第だ(「レアアース・海洋探査: 南鳥島で商業化の課題が見えた」)。即ち課題は①環境対策、②資源量確認、③採鉱技術、④精錬・精製技術、⑤輸送コスト。①から③までは目処が立ったらしい。だが、④と⑤は“今後の課題”との事。Cautious optimistの筆者の素人判断ではあるが、“miles to go”では、と感じている。

翻って厳しい見方を示しているのが岡部徹東京大学副学長だ。岡部教授は「中国との関係をできるだけ安定させ、安くて良質なレアアースが大量に入ってくる状況を維持するのが第一」と述べて「国家戦略として安価な時にレアアースをたくさん仕入れ、10年分の備蓄をすべき」で、「安いときに買って備蓄する戦略をとらずに、供給障害が起きて価格が何倍にも跳ね上がってから買い付けに動く」事は得策ではないと語った。同時に、南鳥島付近での採鉱は基礎研究として重要であり、経済性を評価する事も良いと語っている。

日本と同様にrare earths資源を必要としているのがドイツだ。ドイツの友人達と常に意見が一致するのは次の2点—「Rare earthsは稀少ではない(Seltene Erden sind nicht selten)」。そして「中国の自然環境と採鉱地周辺の住民は非常に高い代償を払っている(Chinas Umwelt und die lokale Bevölkerung hätten einen wohl zu hohen Preis dafür bezahlt)」。これに関して独Frankfurter Allgemeine Zeitung紙は昨年11月1日の記事の中で或る専門家の見解を引用し、価格競争力の視点から「中国から完全に自立する事は出来ない(„Vollständige Unabhängigkeit von China werden Sie nie erreichen“)」と記している。その一方で、「ガリウムに関する中国の独占状態は間もなく過去のものになる(Chinas Gallium-Monopol ist bald Geschichte)」とも伝えた(“中国産rare earths対策: 西側諸国にとってのチャンスは?(Seltene Erden aus China: Die Chance des Westens)”)。こうした中、筆者はドイツの友人達に対して、公共放送(ZDF)の1月29日付記事「中国産rare earthsからの自立の模範: 全世界は何故日本に注目するのか(Vorbild bei Unabhängigkeit: Seltene Erden: Warum die ganze Welt nach Japan schaut)」に触れ、「大同特殊鋼が中国産重希土類を使わないネオジム磁石を大量生産する事を祈っている」と伝えた次第だ。

ドイツの哲学者ユルゲン・ハーバーマス先生が3月14日に逝去された。

iPhoneのディスプレイに突然Habermas先生の訃報が飛び込んできて一瞬声が出なくなってしまった。次にDie Zeit誌の速報を見ると、14日に「最期まで熱血ほとばしる啓蒙家だった(„Ein leidenschaftlicher Aufklärer, bis zuletzt“)」という表題の記事で先生の死を伝えた。その日のReutersは“Habermas, The Philosopher Who Shaped Germany’s Post-War Conscience”と報じた。翌15日にはハーバマス先生の弟子であり、米国のColumbia大学とドイツのFrankfurt大学の教授を務めるアクセル・ホネット博士がFrankfurter Allgemeine Zeitung紙に追悼文を寄せた。ホネット教授の文章は悲しみに満ちており痛々しい感じがする(「師は永遠に生きるべきではないのか?(Sollte er nicht ewig leben?)」)。
19日には、The Economist誌が“Jürgen Habermas Hoped Rational Discussion Could Save the World”と伝えている。現在の世界の指導者達は、ハーバマス先生の願いとは正反対にrational discussionを全く好まないようだ。だが、我々はあくまでもrational discussionを追求すべきだ。何故なら歴史は「Rational discussionが失われた時に、人類は相互不信に陥り、憎しみ合い、争い合う」という教訓を残しているからだ。

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