コラム  国際交流  2026.03.09

『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第203号 (2026年3月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

AI・Roboticsに関し、中国の身体性知能(embodied intelligence; 具身智能)を巡り情報交換を友人達と行っている。

友人達と先月最も頻繁に情報交換したのは、中国の春節の際に国営放送(CCTV)が放映したUnitree製H1 robotsによるkung fu (功夫) danceだった(PDF版の2、CCTV Video News Agency, “Kung Fu Robots Deliver ‘Knockout’ Performance at Spring Festival Gala (春节联欢晚会),” Feb. 16を参照)。

第一報はフランスからだ: 17日、友人が「“驚きの人型ロボット”を観て」と連絡してきた(PDF版2のBFM, «Chine: des robots humanoïds renversants»)。多くの読者諸兄姉もご覧になったと思うが、海外メディアがこのkung fu danceを取り上げていたため、内外の専門家と技術水準に関して議論した。例えば①The Economist誌や②Newsweek誌の解説が興味深い(“Year of Droid: China’s Humanoids Are Dazzling the World. Who Will Buy Them? The Market for Robot Dancers, Alas, Is Limited,” Feb. 18及び“China’s Humanoid Robot Boom: What to Know [Newsweek日本語版: 見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク],” Feb. 24、PDF版2参照)。①は北京智源人工智能研究院(BAAI)の王仲遠院長の見解に触れ、②は小誌1月号で触れた国際ロボット連盟(IFR)のスザンネ・ビーラー事務局長の見解に触れた。王院長は昨年11月20日に中国のhumanoid robotsは未だ黎明期である事を強調している。そしてビーラー氏は黎明期のhumanoid robotsと人間と協働する際の問題を指摘している。

王院長は現在のChina’s robot boomが「‘見せかけの需要’によるbubble(‘伪需求’泡沫)」となる事態を危惧している。Humanoid robotsに対し、中国人は大きな期待を今抱いている。だが社会実装過程に未だ到達していないため、膨らんだ期待は早晩雲散霧消するかも知れないのだ。その理由はBAAIが10種類の中国製humanoid robotsについて試験したが半数以上が1ないし2ヵ月以内に故障したからだ。機械工学的な脆弱性を克服しない限り、巷間“量産元年”と呼ばれているhumanoid robotsも、再び研究段階に逆戻りする危険性を王院長は指摘した。

ビーラー氏はUnitree製H1によるkung fu danceを観察し、(a)人間がmotion capture suitを着てdata作成をすれば簡単に出来る動きだと指摘し、(b)H1は人間を傷付ける危険性があり、微妙な動きについては人間が傍らで遠隔操作している事、また(c)kung fu danceで、もしも1台が故障でもしていたら大変だと述べた。そして中国以外ではhumanoid robotsと人間が協働している事が危険だと判断されている事を指摘し、「フェンスやガラス壁の後ろ側に置かれていない限り、人間サイズのhumanoidsは危険であり、(中国以外では)見る事は殆どない (You hardly see human-sized humanoids unless they are behind fences or glass walls because they are unsafe)」とNewsweek誌の記者に語った。

Humanoid robotsが様々な領域で活躍するには、「人間に対して安全な形で協調的に動ける事」、即ち“協調安全(collaborative safety)”の概念が重要だ。尚、小誌では“協調安全”に関し昨年7・9・10月号で取り上げている。人とロボットが協働する以前は、日本ロボット学会(RSJ)の小平紀生名誉会長の著書(『産業用ロボット全史』)に依ると、人とロボットは当初“離して”作業する事が法律で定められていた(1983年制定の「労働安全衛生規則第9節」)。だが、近年のAI・Roboticsの発達で“協働ロボット(collaborative robots or cobots)”が誕生して“協調安全”概念が極めて重要になってきたのだ。これに関連して、英国政府の健康安全庁(Health and Safety Executive (HSE))の幹部が5月中旬に訪日を予定している。筆者は日本の専門家と共に彼等をファナック社等の現場へ案内し、“協調安全”に関し意見交換する事を計画している。

複雑な形でAI・Robotics等の技術が大国間競争や軍民両用技術開発、更には倫理問題に絡んできた。

米中大国間競争は、政治経済技術、更には文化の領域にも及んでいる。これに関しHarvard Kennedy School (HKS)のSenior Fellowであるパウロ・カルヴァオ氏がForbes誌に小論を寄稿している(“Should AI Go to War? Anthropic and the Pentagon Fight It Out [Forbes日本語版: AIは戦場で活用されるべきか アンソロピックと米国防総省の対立、倫理的境界線はどこへ?],” PDF版2参照)。カルヴァオ氏はHarvardのBusiness SchoolとKennedy Schoolが共同で設立した研究所(Center for Business and Government (CBG))に所属している。筆者がSenior FellowとしてHarvardに移った時、最初に所属したのがこの研究所(CBG)だ。このために彼の見解に関し、懐かしい気持ちを抱きつつ友人達と意見交換した。

同氏はAnthropic社が昨年夏にPentagonと締結した契約の延長に際し、米国政府が抱く「米国民に対する包括的監視と完全自律型兵器」に関する方針と同社の倫理規定との対立を述べている。中心的課題である「AI倫理論争が戦場に到達(When AI Ethics Debates Reach the Battlefield)」を彼が語り出した時、筆者は「生死を分ける」非情な戦争では倫理感が薄れる事は歴史が証明している。このために意見交換の際に感情が高ぶってしまい、議論は興奮の中で無限ループに陥ってしまうと、諦観を抱きながら考えている。

米国東部時間で2月27日午後、トランプ大統領はAnthropicとの取引を停止し、同社とはライバル関係にあるOpenAIとの合意するに至った。Anthropic社には敵対する海外主体に通常適用する“supply chain risk”に指定するとの事。これに関して同社は27日朝、声明を発表している(PDF版の2参照)。軍民両用技術(DUT)が人間の活動全般に浸透するに従い、DUT・倫理関係は将来大きな課題となっていく。

米中大国間競争の狭間で苦悩する欧州 (1): 2月初旬のフランスの報告書に驚いている。

2月9日、仏政府の諮問機関である戦略・計画高等弁務官局(Haut-Commissariat à la Stratégie et au Plan (HCSP))が、80ページ余りの報告書を公表した(«L’industrie européenne face au rouleau compresseur chinois»; 仮訳: 「破竹の勢いで進撃する中国に直面する欧州産業」、PDF版2の参照)。報告書の執筆者はthink tank (Centre d'Etudes Prospectives et d'Informations Internationales (CEPII))のトマ・ジェビン氏等だ。最初のページから筆者は驚いている—序文は「トランプ大統領の戦略に欧州は目を奪われていた。…(そうした中)我々は中国の経済的脅威を殆ど見落としていた(Le feu d’artifice trumpiste capte tous les regards des Européens. . . . nous ne voyons presque plus la menace économique chinoise)」と始まっている。

そして仏国の輸出の4分の1、独国の輸出の3分の1、国内生産の3分の2が中国の脅威に晒されていると記している(PDF版の図参照)。今後の対抗策として、「嘗て無い程の保護政策、即ち30%の対中関税、ユーロの20から30%の人民元に対する減価(une protection commerciale inédite, équivalente à un droit de douane général de 30 % vis-à-vis de la Chine; ou une dépréciation de l’euro de 20 % à 30 % par rapport au renminbi)」を提案している。
「何と大胆かつ手厳しい対抗策だ。問題認識は正しいが、問題解決策としては実施不可能と思うよ」と欧州の友人達に連絡した次第だ。

米中大国間競争の狭間で苦悩する欧州 (2): メルツ独首相の訪中について。

2月25~26日、フリードリヒ・メルツ首相は北京と杭州を訪れた。出発直前に、首相は中国に対し次の5原則を伝える事を公表した。即ち①強力で経済競争力のあるドイツを目指す(ein starkes und wettbewerbsfähiges Deutschland)、②政治的デリスキング志向(eine „Politik des De-Risiking“)、③公正で透明性の高い経済的競争(fairer und transparenter Wettbewerb)、④大国としての中国の立場を認識(China als neue Großmacht)、⑤中国に対する欧州の統一的政策の堅持(eine europäisch eingebettete Politik gegenüber China)だ。この中で友人達と議論したのは④と⑤である。④では世界の平和と繁栄のため、ドイツは中国が責任ある大国として、対ロ戦争協力と対台湾軍事行動に対し自重する事を望んでいる。だが、シタタカな中国は明確には賛意を示さないはずだ。これに関連して、ロシアの脅威に関し、ドイツのthink tank(国際安全保障研究所(SWP))の所長を15年間務めたフォルカー・ペルテス氏が2月22日のHandelsblatt紙にロシアのNATO攻撃能力に関する小論を掲載している。⑤に関しては、ハンガリー等がEU域内統一を阻止している事に加え、メルツ首相自身が仏西との戦闘機開発に関し否定的である。これに対しマクロン大統領はIndia AI Impact Summitに参加した19日、独側の態度に対し「欧州基準が必要(On a besoin d'avoir un standard européen)」と反論している。いずれにせよ、安全保障面での欧州の統一には時間がかかりそうだ。また米国のthink tank(外交問題評議会 (CFR))で欧州問題を専門とするリアナ・フィックス氏はForeign Affairs誌の最新号(3・4月号)に論文を発表している(“Europe’s Next Hegemon: The Perils of German Power,” PDF版2参照)。彼女も、燻り続ける残り火のような欧州域内でのa Hitlerite Germanyに対する恐怖感を抑えるため、ドイツが経済及び安全保障の域内統一に一段と積極的に努力する事を主張している。

これに関して筆者は「戦争で被害を受けた集団の記憶は容易には消えない」として、第二次世界大戦時、1942年1月から対独戦のために米国陸軍省が英国に派遣する将兵に配布した小冊子のintroductionを友人達に紹介した(Instructions for American Servicemen in Britain, 1942):

“You are going to Great Britain as part of an Allied offensive—to meet Hitler and beat him. . . . No Time to Fight Old Wars. If you come from an Irish-American family, you may think of the English as persecutors of the Irish, or you may think of them as enemy Redcoats who fought against us in the American Revolution and the War of 1812. But there is no time today to fight old wars over again or bring up old grievances fought on in the Civil War.”

即ち歴史を遡れば、米国には①英国で迫害を受けたアイルランド系の人達、②独立戦争や米英戦争で英国と戦った人達、③南北戦争時、英国は中立だったが多くの英国人が南部側を助けために苦しんだ北軍側の人達がいた。その人達の子孫である将兵に対して、米国政府が、「今は過去の戦争を思い出す時ではなく、ヒトラーと戦う時だ」と指示したのだ。確かに戦争で心を傷ついた人の苦悶は非常に永く続く。

ドイツでは反EU・親露に傾く極右政党(AfD)の勢力拡大が気になる。今後とも欧州の友人達との情報交換を続けてゆきたい。

米中大国間競争に関し、様々な視点からの議論が必要だ。海外での議論も忘れてはならない。

フィックス氏の論文を掲載したForeign Affairs誌の最新号には筆者が興味を抱く論文が多く収められている。ここでは①スティーヴン・ウォルトHarvard Kennedy School(HKS)教授による論文(“The Predatory Hegemon: How Trump Wields American Power”)、そして②ディヴィッド・ランプトンJohns Hopkins大学高等国際関係大学院(SAIS)名誉教授と王缉思北京大学名誉教授が著した論文(“America and China at the Edge of Ruin”)について簡単に触れてみる事にする。

最初の論文の中で、教授は現政権の政策を観察し適切な表現を求めた結果、“強奪的・略奪的(predatory)”な“覇権国(hegemon)”という言葉が浮かんだらしい。即ち国際関係はzero-sumの関係であるという前提に立ち、米国の優位な立場を悪用し、敵味方関係なく外国からの譲歩・賛辞・尊敬を求めて、短期的な利得に執着しているのがトランプ政権下の米国だ。冷戦時代、米国は“慈悲深い(benevolent)”覇権国として振る舞おうとした。ソ連崩壊後の一極体制時には“注意力散漫で頑固な(careless and willful)”覇権国に変わった。そして今の米国は“強奪的・略奪的(predatory)”に振る舞っている。しかし第1期トランプ政権時は、マチス国防長官、ケリー首席補佐官、マックマスター補佐官等といった経験豊富で優れた側近が強奪的・略奪的な大統領を諭す役割を果たした。翻って第2期政権時には、相手国の弱みにつけ込み、米国側に著しく偏った形で短期的利得を獲得する事を追求しているのだ。教授は小誌前号で触れたカナダのカーニー首相が語ったツキジデスの言葉、即ち「強者は出来る事を為し、弱者は当然の苦難を受ける(The strong do what they can, and the weak suffer what they must: δυνατὰ δὲ οἱ προύχοντες πράσσουσι καὶ οἱ ἀσθενεῖς ξυγχωροῦσιν)」に触れている。教授はトランプ氏が味方のみならず自国をも長期的に弱らせる事態を予想し、後年の米国大統領が、米国が現在保持している優位性が損なわれた状況下で指導する状態に陥ると述べている。

第二の論文の中で著者は米中大国間競争の激化と、その結果生じる世界全体の平和と繁栄の喪失を危惧している。現在の米国は中国を経済・技術・思想的な米国の優位性に挑戦する敵として考えている。他方、中国は米国を中国の抬頭を阻止し、共産党を傷つけ、中国の犠牲の下で米国の優位性を保持しようとする敵として考えている。米中問題の専門家である著者は第二次世界大戦後の歴史を回顧する。1950年代の朝鮮戦争は米国にトラウマを、中国に勇猛心を刻み込んだ。1970年代になると中ソ対立を背景に毛沢東・周恩来とニクソン・キッシンジャーによる米中接近が実現した。そして今、トランプ=習関係は激しく揺れ動いている。そういう時だからこそ、両国の関係改善の機会を逃してはならないと著者は語る。そしてそのきっかけとして台湾問題こそが最も適切であると主張する。即ち関係改善のため、両国は譲歩するべきなのだ。中国は武力行使を控える事を、米国は台湾が独立の意志を示した際には援助を差し控える事を明確に示す必要がある。そのためには外交・経済・軍事の面での関係改善が不可欠となる。だが、双方に深い相互不信が存在しているため、厳しい道のりである。そして論文の最後に、ニクソンが会談の際に毛沢東の1963年の言葉を引用している—“Ten thousand years are too long. Seize the day, seize the hour! (一万年太久,只争朝夕!)。因みにランプトン教授の近著の表紙は彼と朱鎔基首相が笑顔で語り合っている写真だ(Living U.S.-China Relations: From Cold War to Cold War, 2024)。それを見つつ、楽観的立場の筆者は「論文の副題の書き出しがA Last Chanceだ。だからanother last chanceが有るかも知れない事を忘れてはいけないね」と友人達に伝えた次第だ。

勿論、関係悪化を予想する情報を収集・分析する事は、cautious optimistの筆者であっても必要だ。この種の情報の一つは中国が国力を誇張していると主張する本である(Command of Commerce: America’s Enduring Economic Power Advantage over China, Oxford University Press, 2025)。同書を読めば中国の反米派が敵意を強めると心配している。因みに同書の裏表紙には、優れた専門家の推薦文が載っている—例えば、Chip Warの著者でTufts大学のクリス・ミラー教授やUC San Diego(UCSD)のスーザン・シャーク教授、更にはテイラー・フラヴェルMIT教授だ。

翻って中国側にも米国側の反中派が敵意を強めるのではと心配する程、挑発的発言をする研究者がいる。その代表格がLondon School of Economics(LSD)の金刻羽(Keyu Jin)教授。彼女の父は今年の1月までAIIB行長を務めた金立群氏。彼女は14歳からNew Yorkに住み、名門校(Horas Mann School (HM))に通い、大学は新入生から博士課程まで一貫してHarvardで学んだ才女。また彼女の発言は素晴らしい。内容だけでなく声・テンポが申し分なく、完璧な英語で語りかける。先月、特に印象に残ったのはYouTubeの映像に行った演説である(Global China Tracker, “Why Cina Build 3 Economic Weapons America Simply Can’t Copy: Keyu Jin”)。中国は米国と異なる体制を有し、大国間競争では中国が米国に対して必ず勝利すると語った。特に彼女の次の発言は印象的だ:

中国は5Gの軍事転用を华为(ファーウェイ)に指示出来る。翌日議論なし。… 中国はAI監視を腾讯(テンセント)にソーシャル・メディアと統合する事を指示出来る。即刻の命令だが反発なし。… 中国は民間経済を軍事経済に転換した。テック企業は全て兵士であり、イノベーションも全て潜在的な兵器だ。
(China can command Huawei to hand over all 5G research to the military, tomorrow, no debate. . . . China can tell Tencent to integrate AI surveillance into social media, immediately, no pushback. . . . China has turned its private sector into a militarized economy; every tech company is a soldier; every innovation is a potential weapon.)。

米中大国間競争の狭間で日本が採り得る戦略は? 嘗ての貿易立国・技術立国としての日本は何処に?

1月22日、Times Higher Education(THE)が世界の大学を評価した資料を公表した(“World University Rankings by Subject 2026: Results Announced”)。また2月27日、Financial Times紙が中国の大学の抬頭に関する記事を掲載した(“How China’s Universities Joined the Global Elite”)。こうした大学のランクに関し、小誌昨年7月号で筆者は、個々の研究室や講座で本来評価すべきと論じた。だが世界の若き俊英から見れば大学の順位はやはり気になるらしい。従って日本の未来のinnovation創出のため、rankingでも魅力ある日本大学に変身する事を願っている。

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