メディア掲載 エネルギー・環境 2025.11.12
Japan In-depth(2025年10月13日)に掲載
【まとめ】
三菱商事グループの洋上風力撤退が報じられている。撤退によって経済効果を失う地元からは、事業の継続を求める声が上がっている。政府としては再びオークションをやり直すことになるのだろう。しかし、大幅なコストアップは避けられない。
この一件は、政府のグリーントランスフォーメーション計画(GX計画)全体の不吉な将来を予言するものだ。GXで推進されている技術――再生可能エネルギー(変動性対応のための蓄電池と送電線を含む)、CCS、水素、アンモニアなど――はいずれも極めてコストが高く、既存技術の二倍、三倍以上の費用を要する。
政府は技術開発を進めればコストが下がるはずいう願望を繰り返すが、実際にはそんなことは起きない。電力中央研究所の試算でも、水素やアンモニア、CCS発電技術などは既存技術に比べて、二倍や三倍以上のコストがかかるとされている。しかもそれはCO2をゼロにするわけでもなく、何割か減らすに過ぎない。CO2をゼロにするなら更に高くつく。
このことは、設備構成や所内動力の大きさを見れば、当然のことだ。だから、このまま、これらの技術を導入するのは愚かな政策である。コストを本質的に低減するような研究以外には、何の意味も無い。
そして、それは簡単ではない。電気にせよ熱にせよ、エネルギー技術の何が最も難しいかと言えば、「エネルギー」は究極のコモディティであるので、新しい製法が出来たと言っても、その製品は既往のものと差別化できないことである。このため新しい技術は、いきなり既存の成熟した技術との価格競争に放り込まれる。これに勝つことは相当に難しい(このことは米国のDan Sarevitzが最初に指摘した)。
結局、いま日本の事業者がやっていることは、政府による補助金(設備補助金や燃料価格差補填など)をあてにして、コスト競争力のつく見込みが全く無い技術の導入を進めているだけである。だがこうしたやり方では、バカ高い技術が量産されるだけであり、政府の補助金が切れた瞬間にその技術はもうおしまいである。政府は、これら技術を海外に売れば利益を得ることが出来るなどということも言っているが、これも到底おぼつかない。バカ高いものは誰も買わない。
政府は「世界が脱炭素に向かっている」「従って脱炭素技術を制すれば世界を制する」ということをよく言っている。だがこれは現実から著しく乖離した議論である。中国もインドも石炭火力発電所を建設し続けている。アメリカは脱炭素を止めてパリ協定からも離脱した。ヨーロッパにおいても、脱炭素に反対する政党が支持率で一位になっている。イギリスでは労働党政権が脱炭素を進めているが支持率は低迷している一方で、最大野党である保守党も支持率がダントツの一位となった改革英国党もともに脱炭素に反対である。次の総選挙はまだ2029年だが、もはやイギリスでも脱炭素は多くの国民に支持されているとは言い難い政策となっている。ドイツでは支持率一位の「ドイツの為の選択肢(AfD)」が、フランスでも支持率一位の国民連合が、脱炭素に反対している。脱炭素は世界の潮流などではないのである。
技術開発には「モンキーファーストの原則」というものがある。「サルに聖書を朗読させる」というプロジェクトがあるとしよう。この場合、まずサルをトレーニングすることが最も難しく、そこに取り組まなければならない。だが往々にして、プロジェクトは、まず立派な演壇を作ることから始まってしまう。
なぜそうなるかといえば、本質的でない部分であっても、とりあえず予算を消化することはできてしまい、そのため予算を付ける側にとっても付けられる側にとっても都合が良いからである。しかし、いつまでもサルをトレーニングできなければ、そのような技術は決して実用化され普及することはない。
だから「まずサルをトレーニングせよ」というのが「モンキーファーストの原則」であり、これはもともとグーグル社の技術開発において使われた言葉である。
さて今のGXの技術開発はどうか。本来はコストを下げることに集中すべきなのに、それをなおざりにし、公共事業としてバカ高い技術を補助金漬けで導入している。政府はそれで予算を消化でき、企業は補助金を得るので懐は痛まない。企業としては「やっている感」も演出できる。しかし、このような茶番を続けていては、国全体としては、補助金は無駄になり、光熱費は高くなって、国民は貧しくなるばかりである。
GXには今後10年間で150兆円を投じるというのが政府の計画である。しかし、それは何の新しい実用技術も生み出さず、結局はすべて高い光熱費や税などの形で国民負担として跳ね返ってくる。まるで鳴り物入りで就航したタイタニックの沈没を見るようだ。このような愚かな政策は止めるべきだ。さもないと、日本経済は衰退していくばかりであろう。