レポート  外交・安全保障  2025.11.06

CIGS政策シミュレーション 右派ポピュリズムがキャスティングボートを握るとき 概要報告

国内政治
本政策シミュレーションは、多くの仮定のもとで想定された事象に基づくものであり、現実世界の国家間関係等を直接に分析するものではない。


当研究所は 2025年7月にCIGS 政策シミュレーション「右派ポピュリズムがキャスティングボートを握るとき」を開催した。

穏健な社会民主主義勢力が政権を担ってきた欧州や米国では、近年、既存の政治・経済・文化エリートに対する不信と批判が高まっている。中でも、こうした政治の現状に不満を持ち、その原因を外部に求める右派ポピュリズムの台頭が注目されている。アメリカ・ファーストを掲げる米国はもとより、欧州でも反EU、反移民・反イスラムを打ち出す政党が、各国で政権与党の一角を占めるに至っている。

こうした潮流のもと、日本でも右派ポピュリズムを基盤とする政党が政権入りする可能性は十分あるだろう。実際、日本の政党政治は岐路にある。本シミュレーション開催の1週間前には、参院選挙が実施され、自民党・平和中道党が改選後議席で過半数を割り込み、代わって第三勢力が躍進した。これらの躍進を、直ちに欧州等でみられるような右派ポピュリズムの台頭と同列に並べるべきか否かについては議論の余地があろう。しかし、少なくとも現状への不満を背景にした政界再編の兆しは強まっているといえよう。

また現時点では強い影響力を持つ政党群として結集しているとは言い難いが、日本においても、いわゆる右派とされる勢力が台頭しつつある。彼らの主張には、反移民といった欧米各国に共通する要素もみられるものの、伝統的に日本の右派は、中国・韓国等、歴史や領土をめぐって軋轢のある周辺国に対する強硬姿勢が顕著である。

では、もし日本においても、現状に強く不満を抱き、周辺国に対して強硬姿勢を掲げる右派ポピュリズム勢力が結集し、実際に欧州でみられるように政権与党の一角を占める場合、国内外でいかなる新たな政治の構図が生まれ、日本はどのような外交課題に直面し得るのだろうか。

こうした問いを検証すべく、本シミュレーションは官僚、研究者、ジャーナリスト、 民間企業関係者ら約 40 名の参加を得て実施された。

シミュレーションのtakeaway(総論)

「右派ポピュリズムがキャスティングボートを握るとき」と題した本シミュレーションのtakeawayは次の通りである。

●中道が牽引する右派ポピュリズム政権

シミュレーションの結果は、右派ポピュリズム政党が仮に政権与党入りしても、自民党と、より穏健な平和中道党との三党連立の一員に加わる環境下では、政権運営の行方を左右するのは右派ポピュリズム政党ではなく、穏健な政策を志向する連立政党であることを、一つの可能性として示すものとなった。

もちろんそれは、右派勢力が過半数を占めていないという国会の勢力図および連立の構図、他の政党、とりわけ野党第一党の状況、党首以下の各党所属議員の横のつながりなどによって変化するものだろう。

だが、シミュレーションのなかで右派ポピュリスト政党と連立を組む決断をした自民党右派の首相は、もう一方の連立相手である平和中道党との関係維持に腐心する中、次第に自身の思想信条とは異なる、より穏健な政策を志向し、かつ自らがそのための調整役となっていった。

●右派ポピュリスト政党の行動原理

政権入り後の右派ポピュリスト政党は、責任政党として各党との協議や現実のさまざまな課題に取り組むことよりも、自身が関心をもつ個別具体的政策の実現にばかり腐心した。また、自らの行動によって周辺環境が悪化しても、自らの支持者らの歓心を得ることが右派ポピュリズム政党として最も合理的と判断したためか、旧来の強硬な立場を取り続けることに固執した。

シミュレーションでは、それが右派ポピュリズム政党として、合理的な戦術となる可能性を示す展開となった。

●日本政治の変わらぬものと変わるもの

これまでも日本政治においては、右派的イメージをもたれる政権がリベラルな政策を推進し、逆に左派的とみられる政権が右派的政策を実現することは何度か繰り返されてきた光景である。今回のシミュレーションの結果を見る限り、こうした傾向は右派ポピュリズム政党躍進の下でも変わらない可能性を示した。

本シミュレーションでは、日本における右派ポピュリスト政党の政策に反応した米中両国が手を組んだこともあり、最終的に右派ポピュリズム政党との連立が解消され政界再編が進み、自民党穏健派や連立政権内の平和中道党、野党第一党だった民生党による大連立政権が発足した。

この背後には、右派ポピュリズム勢力による過激な政策に伴う国内外の混乱、日米同盟の信頼が根底から揺らぐ事態を許すという危機的状況の生起に伴う、日本政治の構造的な転換とみることができる。誤解を恐れずに言えば、右派ポピュリスト政党の極端な行動の尻拭いのため、穏健保守と中道勢力が結集したともいえるだろう。

●過激な対外政策の招く同盟の危機

上記のように右派ポピュリスト政党の「暴走」による日中衝突の危機が高まる中で米中両国が結束したことは、自国ファーストを掲げる日本のポピュリズムの動きに対し、米国のポピュリスト勢力が極めて冷淡となり得ることを示している。

アメリカ・ファーストの立場からは、尖閣という「小島」をめぐり日本が引き起こしているかに見える日中衝突に巻き込まれて米中戦争の危険を冒すことは、米国自身の国益に適わないという判断が働くかたちだった。

日本が右派ポピュリズム勢力によって外交を誤りつつあるとき、同じくポピュリズム的政権運営が続く米国は、同盟関係の維持のために日中両国の衝突回避を必ずしも働きかけず、むしろ日本の頭越しに中国とのディールを選択した。それはまた、それによって傷つく日米同盟を修復に向かわせるメカニズムが米国に存在しなくなる可能性をも示唆するものである。

●内外ポピュリズムのもたらす外交の困難

シミュレーションの過程では、右派ポピュリズム政党との連立を選んだ結果、国内政治に手足を縛られて外交にエネルギーを注ぐことができなくなった日本の首相が、米国やその他の国のリーダーらと交渉する機会を失い、日本の孤立を加速させていく姿が浮き彫りになった。
これまでも日本の首相は与野党間での政策協議や調整に時間とエネルギーを割いてきたが、ポピュリズムと多党化が進む時代には、そうした国内調整コストの増大は避けがたい。

世界各国で、首脳間の直接交渉を好むポピュリスト的政治指導者が増えゆくなか、国内にリソースを割かざるを得ず、各国リーダーとの交渉材料や機会を失う日本の状況は、この時代の日本外交にとって取り返しのつかない事態を招く要因ともなり得ることを示す結果でもあった。

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